本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。
著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 医療連携課
目次
小倉記念病院が顧客管理ツールを導入していない理由
皆さんは、「CRM」をご存知でしょうか?
Customer Relationship Management(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)の略で、「顧客関係管理」や「顧客管理」などと訳されます。
現在、多くの企業では、ITシステムを活用してこのCRMをデジタル管理しています。顧客とのコミュニケーションを自動化するMA(マーケティング・オートメーション)という機能まであるのです。CRMとMA機能を導入すれば、「適切な人に・適切なタイミングで・適切な情報を」効率的に提供することができるようになります。
しかし、私が勤務する小倉記念病院では、CRMツールを導入していません。
「役立ちそうにない」と判断しているわけではなく、当院の場合、現時点では「導入により、コスト以上の効果を生み出せる」と言い切れないからです。
私がそう考えるに至った経緯が、CRMなど新ツールの導入を検討している医療機関の参考になるかもしれませんので、今回のテーマにさせていただきました。
私がCRMの存在を初めて知ったのは、2015年に開催された、マーケティングに関わる人向けのイベント「宣伝会議サミット」です。CRMツールとして有名な「Salesforce(セールスフォース)」を提供する企業の講演を聞き、「これは使える!!」と感じました。
当院には、他院との医療連携を推進する営業マンは1人。彼が1年間でコミュニケーションを取れる医療機関の数は、ある程度決まっています。MA機能で顧客とのコミュニケーションを自動化できたら、営業マンを無数に増やすことにつながるぞ!と思ったのです。
導入後の運用を具体的にイメージしてみたら…
CRMツールを導入すれば、具体的にどう営業活動に生かせるのでしょうか。
ツールにもよりますが、例えば当院のホームページを訪問した人を、見込み顧客として管理できるようになります。MA機能を使えば、あるページを閲覧した人に対して、そのページと関連する情報をメールで送付することも可能です。「閲覧から2日後にメールを送付」という設定もできます。
もちろんコミュニケーションの部分はアナログに切り替えて、その人を直接訪問したり電話したりして、営業するのもいいと思います(「当院のホームページを見ましたよね」とは言わずに)。
ただ、当院の営業マンは1人ですので、CRMを生かした営業活動としては、メールマーケティングがメインになるでしょう。本当に導入するなら、顧客のメールアドレスを取得するための取り組みもしないといけないな……などと考え始めたのですが、導入までのステップや導入後の運用をイメージしていくと、そもそも以下のような疑問がわいてきたのです。
- メールマーケティングの効果
自分自身、毎朝始業時にメールチェックするが、営業メールは削除している。いくら自動的にメール配信できたとしても、営業効果はあるんだろうか。
- コンテンツ
もしメールを開封してもらえたとしても、どんな情報を伝えればいいんだろう。しかも、そのコンテンツは誰が作るんだ?
- 営業マンのマーケティングリテラシーと部署の壁
CRMを生かして営業先を抽出できるようにするには、そもそも顧客情報をマーケティングの視点で整理し、属性ごとにグループ分けしておく必要がある。営業担当者にそれを求めるのは現実的ではないし、院内でも営業とマーケティング部署は別組織のため、協力依頼や連携が難しそう。
これらの疑問に明確な答えが出せず、徐々にCRMツール導入へのモチベーションが下がっていきました。
「導入したら何が変わるか、どんな利益が生まれるか」にこだわる
今回、私がCRMツールを導入しなかった理由をお話させていただきました。もちろん、私のリテラシーやアイデアが乏しかったために、効果的な運用をイメージできなかった可能性もあります。
ただ、私は、組織の中で、予算を確保し、新しいツール導入するのはとても怖いことだと思っています。導入したのなら、かかったコスト以上の効果を示さないといけませんから。CRMツールに限らず言えることですが、「なんとなくよさそう」と思っても、自信を持って「何が変わるのか」「どんな利益が生まれるか」を説明できないのなら、導入は見送った方がいいです。
「マーケティングツールを新しく導入したい」という方からよく聞くのは、「こんな分析ができるようになる」という理由です。しかし、「分析後のことまでちゃんと見据えているのかな?」と疑問に思うこともあります。その分析内容を生かして、なんらかの判断や行動ができないのであれば、導入の意味はありません。
どんなツールも、導入の際は、最終的にどんな行動(コミュニケーション)につながるかをイメージして、「これ、いいじゃ〜ん」と確信を持てるまでしっかり検討することが大切だと思っています。
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