本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。
著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 医療連携課
目次
急性期病院も患者自身が選ぶ時代に
今回は医療機関のテレビCMがテーマです。
私は勤務先の小倉記念病院でさまざまな集患施策を試行錯誤してきましたが、最近は「テレビCMが一番効果的なのでは」と考え始めています。
当院の中長期目標は、コアブランド(心臓血管系)において、医療圏を越えシェアを拡大することです。医療的には、循環器疾患において国内トップレベルの症例数があるので差別化はできます。しかし、他の医療圏にシェアを広げるとなると、すでにそのエリア内で構築されてきた医療連携体制に当院が入り込んでいかなければなりません。その高いハードルをどのように越えていくかが、課題となっています。
当院は急性期病院なので、集患において他医療機関との連携は非常に重要です。そのため、これまで患者さんの紹介元となる他医療機関への営業を強化する施策を模索してきました。しかし最近、新規患者さんにアンケート調査してみたら、患者さん個人や家族が自ら当院を選んで、かかりつけ医に相談したというケースが増えてきています。
「遠くの地域にある医療機関」と「生活者」。どちらに選んでもらう方が効率的に集患できるかと考えたときに、「こりゃ生活者だな。じゃあマス広告しかない」と思ったのです。
一般生活者の頭の中に、「小倉記念ブランド」を残す
小倉記念病院は九州最北部の北九州市にあり、山口県や大分県から多くの患者さんが受診していることも「マス広告がマッチする」と思った理由の一つです。山口県・大分県は、地元テレビ局が少なく、福岡ローカルのテレビ局の番組を放送していることが多い。つまり福岡でCMを流すと、山口県・大分県にも放送されます。また、テレビの広告料は朝6時台が結構安いんです。当院の患者さんに多い年齢層、すなわち高齢者が見るであろう時間帯です。
もちろん、CMを見て「病気でもないのに小倉記念病院に行く」なんてことはありえないので、一般生活者の頭の中に小倉記念ブランドが残ればいいと思っています。心臓・脳の治療に強い病院として印象づけられれば、もしものことがあったときに、患者さん本人がかかりつけ医に「小倉記念病院に紹介状を書いてほしい」と頼んでくれるかもしれません。患者さんの希望を断る、かかりつけ医は少ないはず。その流れで当院を選んでもらうのが、マス広告による集患フローです。
一昔前なら、患者さんはかかりつけ医が紹介する病院を受診するだけ。患者側に紹介先の選択権はありませんでしたから、この戦術は通用しなかったかもしれません。時代は変わりました。
CMがいいなと思っているもう一つの理由は、当院の実績を最大限アピールできる点です。医療広告ガイドラインで手術件数などの事実を伝えることは許可されていますから。当院は高度医療の実績において、他院と十分差別化できるため、CMで公表することで強烈なインパクトを与えられるはずです。
ただ病院業界にはCMを打つという文化がなく、業界内ではあまりいいイメージを持たれないんですよね。放送エリアの医師たちの中には「患者が来ないのでCMを打っているんじゃないか」「周辺の医師会から患者を全部さらっていくつもりか」と思う人も出てくるのでは……と、CM放送の実現まではまだ課題があります。(実際、当院の予算会議で提案しても、却下され続けていますし)
病院CMは、まずは「企業広告」からがおすすめ?
2021年12月に開催した「病院マーケティングサミットJAPAN」のセッションで、実際にテレビCMを放送している「ひらまつ病院」(佐賀県)の担当者に講演してもらいました。10年近く前から流しており、県内ではひらまつ病院のCMは普通のこととして捉えられているそうで、先述したような心配事は起きていないとのことでした。
ひらまつ病院のCMで個人的に「上手だな」と感じたのは、10年間のうち、最近までずっと企業広告を流してきた点です(狙ってやったわけではないようですが)。広告は企業広告と商品広告に分かれます。日産のCMをイメージしていただくと、「やっちゃえNISSAN」と「NISSANセレナ」の違いです。企業そのものに良いイメージを抱いてもらうための広告か、商品を買ってもらうための広告か、ということですね。
病院が突然商品広告を行うと、視聴者は「押し売りしてきた」と感じてしまう可能性がありますが、まずは企業広告を数年間実施したことで、病院のCMがテレビ画面に流れることに、視聴者が慣れたのではないかと思います。そのあとに商品広告を打ち出すと、視聴者が情報を受け取りやすくなるのかもしれません。ひらまつ病院も最近、鼠径ヘルニアの日帰り手術をCMで打ち出したことで、患者数が倍増したそうです。
当院もこの事例を見習い、「まずは企業広告からスタートすべきかな」と思っていますが、とりあえず予算会議でのプレゼン頑張ってきます!!
>> vol.34 メディアに取材されるニュースリリースの書き方―病院マーケティング新時代
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