病院経営者が欲しがる「集患できる医師」とは?―ちば医経塾長・井上貴裕が指南する「病院長の心得」(15)

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病院経営のスペシャリストを養成する「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム-」塾長である井上貴裕氏が、病院経営者の心得を指南します。

著者:井上貴裕 千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授・ちば医経塾塾長

目次

医師を増やせば、競争優位性は構築できるのか?

病院経営において、「医師1人を採用すれば、医業収益が〇千万円増加する」「だからこそ医師確保は大切だ」という言葉をよく耳にすることでしょう。
もちろん、それは否定しません。医師数が増えれば、患者数が増える傾向にあることは明らかだからです。

図表1は「人口当たりの循環器学会専門医数」と「人口当たりの循環器系疾患の退院患者数」を都道府県別にプロットしたものです。有意に正の相関をしています。
※東京のように散布図の外れ値に該当する地域もあります

図表1

開業しているなど、直接は入院医療に携わらない循環器専門医もいるでしょう。そこで、横軸を「循環器学会研修施設数及び心臓血管外科学会基幹・関連施設数」にすると、患者数との相関はより強くなります(図表2)。

図表2

このことを深掘りする研究を、私たちは「虚血性心疾患におけるPCI(経皮的冠動脈形成術等)」及び「不整脈におけるカテーテルアブレーション(カテーテル先端から高周波電流を流して焼く治療)」で行っています。これらの手術実績には地域差があり、その差には専門医数などの医療提供体制が深く関わっているという結果でした(※1)(※2)。

特に予定入院が全国の8割を占める狭心症のPCIでは著しい地域差があります(図表3)。一方で、人口当たりの急性心筋梗塞、つまり救急患者のPCI件数では大きな地域差はありませんでした。救急患者を生み出すことはできないけれど、予定手術では実施率が異なっているわけです。

図表3

実施率が高い地域は専門医が潤沢なので、予定症例にも手が回るでしょうし、場合によっては過剰適応なのかもしれません。一方で、実施率が低い地域では救急患者への対応で手一杯で、予定手術への対応が遅れている可能性が高いことになります。

だとすれば、低実施率エリアの医療機関が「やる気のある医師」を確保できれば、症例数増につながるでしょう。(もちろん、検査体制やカテーテル室の効率的な運用が不可欠ですし、看護師・放射線技師などの体制整備も重要です)
しかし、医師を増やすだけで、競争優位性が構築できるとは限りません。

先程の事例でも、医師を比較的集めやすい都市部などでは、すでに手術の実施率が高いと考えられます。医療提供が飽和状態であれば、医師を増やしても手術件数を大幅に増やすことは難しいでしょう。

また、1人で複数人分の働きをしてくれる医師がいる一方で、病院への貢献が極めて限定的な医師がいるのも事実です。
病院経営者としては組織や経営に貢献してくれる医師が欲しいですが、プロフェッショナルに経営視点を求めることは容易ではありません。優秀な医師ほど、「やりたいことができる環境、自らが輝ける場所を探したい」と思うからです。

「医師による挨拶回り」の集患効果

それでは、患者を集めてくれる医師とはどんな医師なのでしょうか。

医療連携推進のために、地域の医療機関への挨拶回りに同行してくれる医師を思い浮かべる方もいるかもしれません。
急性期病床を持つ多くの病院は、コロナ前から新入院患者の獲得に苦戦しているはずです。コロナ流行以降は、一層深刻な状況だと思います。紹介患者を増やす対策として、医師に「医療連携」と称した挨拶回りのノルマを課す病院も多いようです(コロナ禍の今は、対面での訪問は控えているかもしれませんが)。

確かに「顔の見える連携」は重要です。紹介元の医療機関も、知らない医師より同門の医師、気心の知れた医師に紹介状を書きたいでしょう。安心感がありますし、逆紹介をしてもらえればかかりつけ患者を失うことがありません。

しかし挨拶回りはどの病院も行っていること。効果は限定的です。
また、初めて会う医師から急に「私に患者を紹介してください」と言われても、困惑されたり、内心「こんなに忙しいときに来られても……」と疎まれたりと、かえってネガティブな印象につながる可能性があります。

そもそもビジネス・パーソンとしての教育を受けていない医師が、訪問先で適切な対応をできるとも限りません。もしも「ノルマを課せられているから、連携室に付き合って仕方なく訪問した」という態度が出てしまったら逆効果になります。

このように、医師の訪問同行によって大きな集患効果が得られるかは疑問です。 プライドの高い医師を無理に同行させるより、医療機関に対する営業のプロであるMR経験者などに地域の病院を定期訪問してもらい、自院の実績をアピールしてもらった方がいい結果を生むかもしれません。
ただ、医師ではなくMRが訪問すると、先方の不満の声を拾い上げてくることが多くなります。その不満を病院全体で解決する姿勢が必要です(※3)。

また、「営業をしないことが、究極の営業だ」とも言われます。
売り込みをされればされるほど、嫌悪感を抱く方は一定数います。地域連携においても、訪問を強化するより、むしろプル型マーケティングのように相手を惹きつける施策が有効です。そのために、診療実績などの広報は常に行っていくべきでしょう。

多くの競争相手がいる中で優位性を構築することは容易ではありません。病院全体で「紹介された患者に丁寧に対応し、きちんと逆紹介する」という基本をしっかり押さえることも大切です。

患者・紹介元双方から信頼される“スター医師”

では、本当に集患に貢献するのはどんな医師なのか。

一つ挙げられるのは、他の医療機関から「あの人に紹介したい」と思われるような“スター医師”です。
ここで言うスター医師とは、患者からも紹介元からも信頼される人間味あふれる方を意味しています。技術だけでは患者は紹介されません。大事なのは患者、そして紹介元のことを考えられる人格を備えていることです。

スター医師は、一朝一夕には誕生しません。中長期の視点で医師に時間・お金・愛情を注ぎ、地域や社会から信頼される医師を育成していく必要があります。広報力に磨きをかけ、しっかりPRしていくことも大切です。

一方で、スター医師が無事育ったとしても、「これで病院運営は安泰」とは言えません。

その医師が「自分が患者を集めている」と自負するあまり、自院のスタッフへの態度や発言におごりが見えるようになり、組織に亀裂を生じさせるケースは珍しくないからです。

スター医師を取るか、組織を取るかは病院経営者の判断に委ねられます。
私は、集患にどれほど貢献していても組織運営に悪影響を及ぼす医師であれば、病院長は「辞めてもらって結構だ」という姿勢を貫くべきだと考えています。もちろん、解雇することはできませんが、医師から「〇〇ならば、辞めてやる」と言われた際にどのように対応するか覚悟を決めておくべきでしょう。
病院に利益を生む医師を手放す決断は簡単ではありませんが、その意思決定ができないと、組織の健全性は刻一刻と失われていくのです。

また、周囲のスタッフと良好な関係を築けるすばらしいスター医師が育ったとしても、やがて巣立っていくかもしれません。職業選択の自由があるのですから拒否することはできませんし、それが健全な姿でしょう。

「有能な外科医が辞めても病院は変わらない。ただ、横串を刺す診療科(麻酔科や放射線科)は大切にしろ」と、尊敬する病院長から教えられたことがあります。
一定の医師が在籍する総合病院の場合、ある有能な外科医が抜けても、その穴はほかの診療科が埋めてくれることが多いでしょう。しかし、麻酔科などが機能しなくなれば病院全体のパフォーマンスは著しく低下してしまいます。
スター医師の存在はたしかに大きいのですが、「とにかくスター医師が残ってくれればいい」という考えでは、病院運営はままなりません。

これまで関わってきたさまざまな医療機関で、何度も「あの先生がいなくなったら、うちは大変なことになる」という声を聞いてきました。しかし、実際にその医師が去っても、ほとんどの医療機関は一時的に影響を受けたのみで、その後の病院運営は問題なく続いています。日頃から個人の力だけでなく、総合力も重視してきたからでしょう。

病院経営者には、スター医師を育成するという視点は大切にしつつ、医師個人に依存しない体制を目指すことが求められています。

(※1)Takahiro Inoue, Hiroyo Kuwabara, Kiyohide Fushimi, Regional Variation in the Use of Percutaneous Coronary Intervention in Japan、Circ J. 2017.
(※2)Takahiro Inoue, Hiroyo Kuwabara, Regional variation in the use of catheter ablation for patients with arrhythmia in Japan, Journal of Arrhythmia, 2020.
(※3)「買い手市場の今こそMRの有効活用を」、検証 コロナ禍の病院経営―after COVID に向けて持続可能経営への舵取り、ロギガ書房、井上貴裕著、2021年

【筆者プロフィール】

井上貴裕(いのうえ・たかひろ)
千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授。病院経営の司令塔を育てることを目指して千葉大学医学部附属病院が開講した「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム- 」の塾長を務める。
東京医科歯科大学大学院にて医学博士及び医療政策学修士、上智大学大学院経済学研究科及び明治大学大学院経営学研究科にて経営学修士を修得。
岡山大学病院 病院長補佐・東邦大学医学部医学科 客員教授、日本大学医学部社会医学系医療管理学分野 客員教授・自治医科大学 客員教授。

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