自院ができる医療を伝えることは義務である―病院マーケティング新時代(17)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がオムニバス形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。

「病院広報とは」と考え始めたきっかけは、義父の脳梗塞

著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課

私が病院広報に取り組んで7年目。当時はまぁ勘違いしていました。勘違いというか、面白いホームページを作って、広報誌やチラシをセンスのいいものにリニューアルして、クリエイティブっぽいことをやっていると自己満足していたんですね。院内の医療従事者から「面白いねぇ」と言われたり、社会的にも小倉記念病院のホームページがいろんな媒体に掲載されたり。うちの医療従事者が「学会などでも話題になっているよ」と教えてくれると、「自慢になるでしょ」と返していましたし、調子に乗っていたのは間違いないですね(笑)。それはそれで効果があったのかもしれないですけど、本質的な課題をわかってないというか、何を解決しないといけないかがわかってなかったと今は思います。

私が病院広報について考えさせられたきっかけは、「脳梗塞」です。実は、義父が脳梗塞で倒れたんです。その時、心底思いました。「俺は何のためにこの仕事をしているんだろう」と。幸いラクナ梗塞で手に力が入りづらい程度の後遺症で済みましたが、5歳と2歳になる私の娘を抱っこすることはできない。こんな状況になる前に、なんで日頃から脳梗塞の症状とか、どんな病院に行かなければいけないのかということを伝えてこなかったのだろうと後悔しました。実際は夜中に発症して、次の日の夕方に義父の同僚が「様子がおかしい」と救急車を呼んでくれていたので、時間的に何もできる状況ではなかったのですが。

脳梗塞は、多くの病院でrt-PA(静注血栓溶解)しかできないのが現状です。しかも、発症してから4時間30分以内に投与しなければなりません。投与できたとしても、大きな血管に詰まった血栓が溶ける可能性はたった5%です。その次の手段として、血栓回収術があります。しかし血栓回収術ができる病院はほとんどないですし、できる病院にも脳神経血管内治療専門医が1名しか所属していないケースが多いです。そんな状況でも、多くの病院が脳梗塞患者を受け入れています。義父が搬送された病院もそうでした。

僕は「何でそんな状況で患者を受け入れるんだ!! できる病院に搬送するように救急隊に言うべきだろ」と思いました。でもそんな病院も飯を食わないといけない。他病院にすべて患者を流していたのでは病院経営は成り立ちません。

一方で当院はどうかといいますと、ほとんどの病院が患者到着後1時間以内にrt-PA を投与することができていない中で、平均27分で投与していますし、専門医が4名います。そう考えた時に、脳梗塞患者が十分に体制の整っていない病院に搬送されてしまう問題に対して、一番責任があるのは、当院だと思ったのです。

疾患や治療の情報は、それが得意な病院が伝えなければならない

脳梗塞に対する治療法や時間の制限、血管内治療が有効であることは、スタディでわかっています。これらの情報を一般市民が知らないのなら、それを伝えないといけないのは当院です。病院が、自院の不得意分野の情報を伝えるはずがありません。患者が逃げてしまうかもしれませんから。当院だってそんな状況に置かれたら積極的には情報発信しないでしょう。
僕はそれ以来、「病院広報とはなんぞや」「何のためにこの仕事をしているのか」と考え始めました。今は、他院より優れている自院の医療は、積極的に伝える義務があると思っています。(他病院と比較した伝え方はもちろんしませんが)
自院が社会に対して貢献できる医療を提供しているのならば、それを多くの人に知ってもらう行為は義務です。この使命感が私を突き動かしています。


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