働き方改革へメス?新設の地域医療体制確保加算とは──診療報酬請求最前線

2020年度診療報酬改定では、救急医療の提供実績が一定以上ある病院に対し、「地域医療体制確保加算(520点)」が新設されました。「救急用自動車・救急医療用ヘリによる搬送受け入れ件数(年間2000件)以上」を条件としていることから、一見、救急医療体制を評価したもののように受け取れます。しかし、その施設基準には勤務環境の改善がしっかりと盛り込まれており、勤務医に対する働き改革の取り組みの1つであることがわかります。

そもそも、「年間2000件以上の救急搬送」という線引きの背景には、全国の救急搬送の7割以上を当該医療機関が受け入れているという実態があります(※)。また、こうした医療機関で医師が長時間勤務している傾向も中医協の資料で示されています。今回の加算新設には、地域の医療体制を支える救急病院を評価しつつ、特に医師の負担が大きくなりがちな現場へ適切な労務管理を促す狙いがあるのでしょう。
(※)…「平成29年度病床機能報告」を基に中医協で報告

施設基準に盛り込まれた2つの条件

さて、この加算は入院基本料等加算に該当します。算定要件は以下の通りです。

A252 地域医療体制確保加算(入院初日) 520点
救急医療を提供する体制、病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に対する体制その他の事項につき別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関に入院している患者(第1節の入院基本料(特別入院基本料等を除く。)又は第3節の特定入院料のうち、地域医療体制確保加算を算定できるものを現に算定している患者に限る。)について、入院初日に限り所定点数に加算する。

要約すると、大きく2つの体制について施設基準上の要件を満たすことが条件となっています。
(1)救急医療を提供する体制
(2)勤務医の負担軽減等に対する体制
それぞれ施設基準要件を見てみましょう。以下に、施設基準を一部編集して掲載します。

(1)救急医療を提供する体制

  • 救急医療に係る実績として、救急用の自動車又は救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が、年間で2,000 件以上であること。
  • 救急医療に係る実績は、1月から12 月までの1年間における実績とし、当該要件及び他の要件を満たしている場合は、翌年の4月1日から翌々年の3月末日まで所定点数を算定できるものとする。

(2)勤務医の負担軽減等に対する体制

  • 病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善のため、病院勤務医の勤務状況の把握とその改善の必要性等について提言するための責任者を配置すること。
  • 病院勤務医の勤務時間及び当直を含めた夜間の勤務状況を把握していること。
  • 当該保険医療機関内に、多職種からなる役割分担推進のための委員会又は会議を設置し、「病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画」を作成すること。また、当該委員会等は、当該計画の達成状況の評価を行う際、その他適宜必要に応じて開催していること。
  • 【「病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画」で考慮すること】
    • 現状の病院勤務医の勤務状況等を把握し、問題点を抽出した上で、具体的な取組み内容と目標達成年次等を含めた病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画とするとともに、定期的に評価し、見直しを行うこと。
    • 病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に関する取組事項を当該保険医療機関内に掲示する等の方法で公開すること。
    • 次に掲げるア~キの項目を踏まえ検討した上で、必要な事項を記載すること。

ア 医師と医療関係職種、医療関係職種と事務職員等における役割分担の具体的内容
(例えば、初診時の予診の実施、静脈採血等の実施、入院の説明の実施、検査手順の説明の実施、服薬指導など)
イ 勤務計画上、連続当直を行わない勤務体制の実施
ウ 前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間の一定時間の休息時間の確保(勤務間インターバル)
エ 予定手術前日の当直や夜勤に対する配慮
オ 当直翌日の業務内容に対する配慮
カ 交替勤務制・複数主治医制実施
キ 育児・介護休業法第23 条第1項、同条第3項又は同法第24 条の規定による措置を活用した短時間正規雇用医師の活用

ちなみに厚労省の通知によると、(2)の勤務医の負担軽減等に対する体制は、総合入院体制加算や医師事務作業補助体制加算、急性期看護補助体制加算などと共通して、医療従事者・看護師の負担軽減・処遇改善に資する体制と合わせて整備して良いこととされています。

問われているのは管理者のマネジメント力

働き方改革をいかに“実現していくか”が、こうした施設基準で問われていると考えられます。上記のような負担軽減・処遇改善策は以前より強化されてきたところです。しかし、適時調査ではその実効性を疑問視する指摘も散見されました。
(以下、平成30年度 適時調査における主な指摘事項 北海道厚生局 一部抜粋 )

病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する体制について

(1) 多職種からなる役割分担推進のための委員会又は会議を設置し、 「病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画」を作成する際、計画の達成状況の評価を行う際、その他適宜必要に応じて開催すること。

 (ア)多職種からなる役割分担推進のための委員会又は会議の設置が不明確。
 (イ)役割分担推進のための委員会又は会議が、多職種から構成されていない。

(2)病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に関する取組事項について、院内に掲示する等の方法により適切に公開すること。

看護職員の負担の軽減及び処遇の改善に資する体制について

(1)多職種からなる役割分担推進のための委員会又は会議を設置し、 「看護職員の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画」を作成する際、計画の達成状況の評価を行う際、その他適宜必要に応じて開催すること。

 (ア)多職種からなる役割分担推進のための委員会又は会議の設置が不明確。
 (イ) 役割分担推進のための委員会又は会議が、看護部門に限定された会議となっている。

(2) 看護職員の負担の軽減及び処遇の改善に資する体制について、現状の勤務状況等を把握し、問題点を抽出した上で、具体的な取り組み内容と目標達成年次等を含めた計画を策定し、適切に実施すること。

 ・具体的な取り組み内容と目標達成年次等が盛り込まれていない。

(3) 看護職員の負担の軽減及び処遇の改善に関する取組事項について、院内に掲示する等の方法により適切に公開すること。

これらの指摘事項からは、委員会活動の形骸化や目標管理が行われていない実態が浮かび上がってきます。医師・職員の勤務管理体制を強化し、院内周知を図り、継続的な改善につなげていくという、一連の取り組みに対するマネジメント力が問われているのです。

具体的な数値目標は盛り込まれなかったものの、今回の加算新設によって、医療機関へ適切な対応を求める動きはますます厳しくなると推測されます。すでにご存知の方も多いと思いますが、「医師の働き方改革へ向けた 医療勤務環境改善マネジメントシステム 導入の手引き(平成31年3月)」が公表されています。体制整備や目標設定など、ステップ別に院内のマネジメント手法が詳しく説明されているので、行き詰って対応に困っている医療機関では、改めて参考にしてみるのも良いのではないでしょうか。

>>vol.50 初の保険適用「がん遺伝子パネル検査」、その要件は?─診療報酬請求最前線

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