【後編】管理職の意識改革、人事管理、IT活用、三位一体で取り組む働き方改革-函館五稜郭病院

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管理職の意識を変えることを出発点に、「若い世代の医療従事者から選ばれる病院」をめざして働き方改革を進める函館五稜郭病院。後編では、医療事務作業補助員の活用、ITを駆使した労働のスマート化を中心に、中田智明病院長にお話を伺いました。中田病院長がめざす、医療従事者・患者・経営、3者すべてにメリットのある改革とは。(前編はこちら

目次

web取材に応じる中田智明病院長
web取材に応じる中田智明病院長

医師事務作業補助者だけでなく病棟アシストを全病棟に2名、準夜帯にも配置

―医療事務作業補助者を積極的に活用していると伺いました。

非常に力を入れています。最初に導入した循環器内科外来では、いまや看護師より医療事務作業補助者(医療クラーク)の方が多くなりました。患者さんからの呼び出しや、何かあった時の案内などは基本的に医療クラークが対応してくれますから、看護師は本来の専門領域である看護業務に専念することができます。現在、消化器内科外来にも配置し、順次増員していく予定です。

また、退院サマリーや、紹介・逆紹介状などの文書も、医療クラークが5~6割程度下書きしておいてくれるので、医師の書類作成にかかる時間が以前の半分以下になりました。文書作成は専門用語も多く、代行入力できるようになるにはトレーニングに時間がかなりかかるため、今後は医療クラークの育成にも力を入れていきたいです。

実は、病棟では日勤帯だけでなく準夜帯にも、各病棟2名、合計40名の病棟アシストを採用しました。特に急ぎでない業務は準夜帯の病棟アシストにご担当いただくなど、病棟スタッフ間の連携によって、日勤帯のスタッフの作業量が減る分、看護師の仕事のサポートに回れるので、病棟看護師の働き方改革にもつながっています。

─医療者のサポート体制を厚くすることで、医師以外の働き方改革にもつながっているんですね。

今回、予想以上の応募があり、この時間帯しか働けない方もいらっしゃるのだと分かりました。どの職種においても、必要な人材を確保するためには、働き手の都合に合わせたフレキシブルな勤務体系を当院の方で用意することが、これからの時代ますます重要になります。つまり、医師だけ働き方改革を進めるのでは不十分で、各職種でそれぞれの働き方改革を進めることが肝心なのです。

若手の医師・研修医、子育て中の女性職員からも選ばれる病院に

―現在、医師の採用はどのような状況ですか?

私が院長に就任した5年前は、100名だった正職の医師が、現在は117名まで増えました。常勤医が増えているほか、今年度は初期研修医を24名受け入れています。先日(2021年10月1日)公表のマッチング中間報告では、初期研修医の1位指名数としては全道ベスト3(18名)で、当院を1位指名してくれる学生が年々増え、今年度も結果的にフルマッチできました。

また、常勤医師は大学の医局派遣経由が6~7割ですが、残りの3~4割は当院で働きたいと自ら希望してきてくださっているので、非常にありがたいですね。総合診療医や救急医など様々なバックグラウンドの先生が本州各地からも集まるようになり、多様性が一層増しています。

―女性医師や子育て世代の職員に対するサポートについてはいかがですか?

院内24時間保育や育児介護休業規定の周知、マタハラ防止規定の策定を実施するほか、当直室は男女別にするなど、女性の声に耳を傾けて、男性では気づかない細かい点まで配慮しています。これは一例ですが、マイナスイオン付きのヘアドライヤーを入れてほしいといった要望など、特に女性の先生方の希望にはできる限り対応しています。

ドクターに限らず、看護師ら他の医療従事者も30代が一番の伸び盛りです。一方、子育て世代でもありますから、託児所の設置などをはじめ、女性が働きやすい環境の整備が重要になります。当院は学会出張などの手当ても潤沢ですし、教育にも力を入れるなど、育児と仕事を両立しながら成長できるよう、サポート体制の構築にも力を入れています。

病院外観(提供:函館五稜郭病院)
病院外観(提供:函館五稜郭病院)

IT活用で一気に進む、労働のスマート化

―ITの活用で作業効率が向上しているそうですね。

IT活用は働き方改革の肝であり、各職種の勤務負担軽減には欠かせません。複数のシステムを介して収集したデータを時系列で保管したデータベース「DWH」(Data Ware House)の導入で、栄養指導、服薬指導、リハビリ導入、尿中アルブミン検査などの適応評価および実施漏れを簡単に抽出できるようになりました。

例えば、入院時に低アルブミン血症の検知システムがあり、“栄養不良”と入力すると、栄養科に即座にデータが送信され、担当ドクターに栄養指導の提案が届く仕組みです。同システム導入後の入院栄養指導件数は250件から380件に、糖尿病患者の腎症検査は30%から60%になるなど、大きな成果を上げています。

入院時には、電子カルテを活用した服薬や栄養、リハビリ指導など、医師による診断・治療と並行して早期に療養指導を実施できます。ITシステムの活用は職員の勤務負担の軽減に留まらず、入院した時点から退院後のことを考えたサポートができるので、患者さんやご家族にとっても大きな利点があります。

―IT化で新たな取り組みがあれば教えてください。

一般病棟にHRジョイントシステムを導入しました。従来、看護師がベッドサイドで定期的に行っている検脈、血圧・体温計測のデータは手入力でしたが、測定器をタッチするだけで電子カルテに瞬時に記録することができるシステムです。そしてICUおよび透析センターには専用の部門システムを導入し、生体モニターの自動計測・電子カルテへの自動転送が可能となりました。

さらに、2021年11月から病棟の患者全員分の看護記録(カーデックス)を、これまでの手書きからすべて電子化しました。入力作業も楽な上に、転記ミス、誤情報、記載漏れのリスクが大幅に減り、誰でもスマホで簡単に情報が得られるので、看護師の作業効率が格段にアップしています。

―医師にとってはどのような利点がありますか。

見落とし対策に利用できることが大きいです。ITを活用した読影レポートの見落とし対策は、他ではあまりない取り組みでしょう。CTやMRIの読影診断はもちろんのこと、病理医が作成したレポートの既読チェックに加え、実施すべきアクション(患者へのICや次のステップとしての検査や治療)が実行(カルテ記載)されていなければ、警告が出るシステムになっています。胸部XPのAI読影の試験運用もスタートしました。

多忙な医師の業務をバックアップし、医療の安全・質を担保するITシステムを作ることも、一つの医師の働き方改革だと考えています。最近、スマホ専用アプリを導入して出退勤管理と時間年休の取得をIT化でき、弾力的な勤務体制の運用が可能となり、その事務管理も正確かつ軽減できています。

医療従事者・患者・経営の「三方よし」生む改革を

―今後の展開についてお聞かせください。

管理職の意識改革、人事管理、そしてIT活用を軸にした改革をさらに進めていきたいです。たとえば、新型コロナウイルス感染拡大を機に、非接触型の受付へのニーズが高まる中、LINEを活用したWEB予約とWEB問診 、さらに後払いシステム(外来や入院費用)を2021年10月からスタートしました。

今後はAI問診のような高精度の問診システムやWEB面談の導入も視野に入れています。来院時に必要な検査を予め把握して、最低限必要な検査は来院前に予約を済ませておいてもらうなど、先付検査システムの導入を、早期に実現させたいですね。

実現すれば、患者さんにとっては問診、検査、会計などの待ち時間の短縮、医師にとってはより迅速で正確な診断が可能になります。このように医療従事者・患者・経営の「三方よし」を生み出す改革を一層進めていきます。

―2024年4月には医師働き方改革関連法案が施行予定です。貴院はどのような課題を感じていますか。

当院は専門医、初期研修医、後期研修医などさまざまなタイプの先生がいらっしゃいます。すべての先生にマッチするシステムを作ることが、病院長である私の責任です。ただ、今のやり方をさらに進めていけば、自ずと国が示しているガイドラインに即した勤務体系をつくれるという自信もあります。

電子カルテをはじめとする新しいITシステムの導入では、年齢層が高い職員ほど不満や抵抗感が強く、実際に軌道に乗るまでには4~5年かかりました。まずは試験的に一つの診療科から始めて、うまくいけば、徐々に導入する科を増やしていくという、根気のいる取り組みでしたが、「とりあえずやってみて、難しければ、またみんなでどうしたらうまくいくか考えよう」という姿勢が病院の風土となり、徐々に浸透していったように思います。これからも「まずはやってみる」の姿勢で、一歩ずつ確実に働き方改革を実現していきたいです。

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