【前編】管理職の意識改革、人事管理、IT活用、三位一体で取り組む働き方改革-函館五稜郭病院

北海道道南地域の高度急性期医療を担う函館五稜郭病院(480床)は、地域がん診療連携拠点病院などの認定を受ける地域の中核病院です。医療スタッフ1000名以上を擁し、臨床研修指定病院として若手医師の育成に注力する同院は、医師の働き方改革においても「若い世代から選ばれる病院」を目標に掲げています。管理職の意識改革を出発点に、人事管理、ITを駆使した労働のスマート化を次々と実現。「医師だけでなく、全職員にとって働きやすい環境を作ることが大事」と話す中田智明病院長に、この5年間の改革の歩みを伺いました。

目次

web取材に応じる中田智明病院長
web取材に応じる中田智明病院長

「医師の働き方改革」の鍵は“管理職の意識改革”

―貴院は医師の働き方改革において、「管理職の意識改革を通した働きやすい組織風土の形成」に注力されています。きっかけは何だったのでしょうか。

1980年代、1990年代に育ってきた医師は、時間外などという概念はなく、自分の患者さんが病棟にいる限り、土日・祝日でも1日1回は回診して様子を見に行くのが当たり前でした。しかし、今の若い医師は仕事をきっちりこなしながら、自分のライフスタイルも大切にしたいという価値観が主流です。考えてみれば、それは至極当然のことですよね。

これからの医療を担う若い世代に「この病院で働きたい」「ここで成長したい」と思ってもらうためには、プライベートも大切にしながら、働き甲斐をもって、さらに自分が成長していける職場環境を整えることが重要だと考えました。

―その鍵を握るのが管理職だということでしょうか。

その通りです。当院は高度急性期病院ですから、徹夜で手術をすることも当然あります。しかし、手術の翌日はオフタイムをきちんと取ることを推奨しています。ただ、そういうシステムがあっても、実際は休暇が取れない、あるいは取りにくい雰囲気があっては意味がありません。医師の健康に配慮した職場環境や勤務環境を作るには、管理職の考え方が大きく影響するため、医師の働き方改革の出発点として、管理職の意識改革を通して働きやすい・休みやすい風土づくりに取り組むことにしました。

―世代間の意識のズレに対する危機感もあったのでしょうか。

それは確かにありましたし、この取り組みの最も苦労した点でした。しかし、かつてのような“根性論”で、個人のモチベーションや力量に頼ってハードワークを強いれば、若手の医師はバーンアウトしてしまいます。ハードな職場ほどオンオフのメリハリをつけないと、医療事故やモチベーションの低下にもつながりかねません。そこで、個別の施策を進めるだけでなく、管理職の意識を変えることが改革の大前提と考えたわけです。

部下が上司を評価! 結果は人事考課に反映

―具体的には、どのような取り組みを行ったのですか。

部下が上司を20項目×5段階で評価するなど、上司評価シートの内容を刷新しました。さらに自由記述欄も新たに設けて、その結果を個人が特定されないよう配慮した上で、本人にフィードバックしています。職場スタッフの率直な考えを知ることは、管理職の気づきにつながり、指導力の向上や勤務環境の改善を生むといったメリットがあります。また、部下からの評価を人事考課に取り入れていることも当院の特徴の一つでしょう。

病院外観(提供:函館五稜郭病院)
病院外観(提供:函館五稜郭病院)

―部下から評価されることに、管理職から不満は上がらなかったのですか。

部下からの評価はマイナスの意見ばかりではありません。指導力や教育マインドのある管理職は、理想的な上司として評価されます。そのような管理職は貴重な人材として高く評価されますから、管理職側もプラスに受け止めているようです。

休暇取得率の見える化で、上司の意識に変化が

―「休暇を取得しやすいか」も上司評価項目に反映されています。休暇取得率を見える化する狙いは?

診療科が20もあると、年休取得率や時間外労働時間に差が出るのは仕方がありません。バラつきはあってよいのですが、ありすぎると必ず不公平感が出てきます。また、この取り組みを始めた当初は、ベテラン世代と若い世代の考え方の違いが顕著に表れました。例えば、若い看護師長は「みんなが平等に休めるように、お互いにヘルプし合おう」といった考え方に早い段階で転換できたのですが、ベテラン世代が上司のチームでは「なかなか時間外をつけてくれない」「つけたら怒られる」「年休を取りにくい雰囲気がある」といった不満が、部下から上がってきたのです。

そこで、病院としてなぜ働き方改革が必要なのかを、改めて管理職に理解してもらうことに注力したのですが、それでも納得しない人もいます。部門別の休暇取得率を公表し、うまくいっている職場があることを目に見える形で示し、管理職自身に意識改革の必要性を感じてもらう狙いがありました。

―実際にどのような効果がありましたか。

病院としての方針は決まっていて、実際にうまくいっている職場があるのに、自分の職場だけできないとなると、焦りますよね。大事なのは上から目線ではなく、若い世代から声を上げることです。若手から指摘された方が、管理職にも響くようで、働きやすい病院風土の醸成は、この4~5年でかなり進んだように思います。

―診療科によっては、休暇取得が難しいケースもあると思います。その辺りはどのように調整されているのでしょうか。

例えば外科系、特に心臓外科や麻酔科は緊急手術対応などがあるため、内科系に比べると休暇取得が難しいのが現状です。そういう場合は、待機手術の部分で調整しています。緊急手術が続いたときは、待機手術の延期や、手術を入れない日をチームで調整するなど、「休めるときは休む」を病院の方針として徹底しています。

また、長時間労働が続いている医師の勤務管理や、待てる手術と待てない手術の判断を下すのも診療科長の役割です。ただ、緊急対応がある診療科は、ケースバイケースで対応せざるを得ないのが、医療の難しさです。とはいえ、極端なバラつきは離職や過労、医療事故につながるため、凸凹が少しでも減るように、今後も調整しながら改善していきたいと思います。

総合診療科の新設により、専門科の負担が軽減

―医師の働き方改革という点で、他に工夫されたことはありますか。

働き方改革を進めるなかで、現場からは医師の数を増やしてほしいという要望がありました。そこで、診療規模に見合った医師の増員と並行して取り組んだのが、多様性に対応した診療科の新設です。その一つが総合診療科です。

総合診療科は、何科を受診すればよいか分からない初診の患者さんや、診断がつかない病態の紹介患者さんのゲートキーパー的な役割をめざして、2018年に開設しました。こういった患者さんを一旦、すべて総合診療科で受けて、より専門的な治療が必要と医師が判断すれば、専門の診療科(消化器内科・循環器内科・呼吸器内科・腎臓内科等)につなぐという流れができたことは、医師だけでなく患者さんにとってもメリットがありました。

同科の医師には学生・臨床研修医などへの内科外来教育も担っていただいており、現在の2名体制からさらに増員できればと考えています。

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