AI問診の導入が、変化生き抜く病院づくりの第一歩に─長野医療生活協同組合 長野中央病院 小島英吾副院長

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業務効率化・医療の質向上に寄与するとして、注目を集める医療現場でのAI活用。しかし、多くの病院で普及しているとは言えないのが現状です。長野医療生活協同組合 長野中央病院(322床)は、2019年に長野県で初めてAIによる問診支援ツールを導入しました。当初は反対の声もあったものの、その成果は、待ち時間短縮や人件費削減にとどまらなかったと言います。新たなテクノロジーが、院内にもたらした変化とは?導入の旗振り役をつとめた、小島英吾副院長にお話を伺いました。

長野中央病院外観
病院外観(提供:長野中央病院)

目次

背景にあったのは、「医師が集まる病院にしなければ」という危機感

──貴院は2019年に長野県で初めてAI問診を導入されたと伺いました。導入のきっかけを教えてください。

医師同士で「今後は医療現場でAI活用がどんどん進むだろう」という会話になったことがきっかけです。外来における初診時の待ち時間が課題になっていたこともあり、若手の先生たちから「AIを搭載した問診支援ツールがあるので、使ってみてはどうでしょう」と提案され、やってみようかという話になりました。

web取材に応じる小島副院長
web取材に応じる小島副院長

──新しいツールの導入となると院内の合意形成が大変そうな印象がありますが……。

たしかに、一般的に病院組織は保守的な傾向が強いです。特に医師は自分のやり方にこだわる人が多いので、新しいものを導入しようとすれば反対勢力だらけ、ということも珍しくないでしょう。

しかし、「研修医・若手の先生たちにとって魅力的な勤務環境づくり」という課題感が、導入を後押ししました。

今後も医師体制を維持していくためには、若手医師を惹きつけるような病院の風土づくりが必要です。そのことはみんなうすうす感じていましたし、若手の先生たちが目を輝かせて取り組んでいるということで、「見守ってあげましょう」と説得しやすかった。問診は看護師の業務で医師への影響が小さいことも、ハードルを下げた要因です。

──問診を担っていた看護部との調整はいかがでしたか。

導入したツールは、患者さんが事務職員のサポートを受けながら、タブレット端末で問診内容を入力するという仕組みです。やはり最初は、「問診をAIに任せて大丈夫なのか」など反対の声は一定程度ありましたね。しかし看護部としても、コストのかかる外来より、病棟に人員を回したいという意向を持っていたので、AI問診で外来業務の負担を減らせることをきちんと説明したんです。

とはいえ、いきなり本導入はハードルが高いので、まずはテスト運用という形をとりました。一定期間使ってみて効果や使い勝手、入力内容が医師の求める情報に適合しているかなどをチェックし、院内からも特にクレームがなかったため、本導入に踏み切りました。

小島副院長

タスクシフトに、事務職からは「モチベーション上がった」の声が

──導入を進めるにあたり、苦労した点はありますか。

従来は看護師が問診を行い、その内容を電子カルテに記載していました。それがAI問診の導入により、以下のようなフローに変わりました。

  1. 患者さんが事務職員のサポートを受けながらタブレット端末で問診内容を入力
  2. 入力内容が医療用語に変換され、タブレット端末からPCに出力される
  3. 出力データを電子カルテに落とし込む

この変化を受け、医師・看護師・事務それぞれの立場で苦労があったと思います。

まず医師にとっては、出力データをPC上で電子カルテに張りつける作業が新しく加わりました。記載内容も、慣れ親しんだ表現とは少し異なるため、当初は読みにくさもあったと思います。

次に看護師は、業務をAI問診ツール+事務職員にタスクシフトすることになるため、その説明や運用ルール構築に、一定の時間を要しました。たとえば「胸が痛い」など緊急性の高い疾患の可能性がある場合、誰にどう連絡すべきなのか。また認知症でうまくAI問診にこたえられない患者さんはどうするのかなど、1つずつルールをつくっていかなければなりませんでした。

──事務部門も、看護師に代わって問診を担うのは大変だったのではないでしょうか。

おもしろいことに、事務職からは「モチベーションが上がった」という声が聞かれます。患者さんと接する機会の少なかった事務職にとって、問診を通じて頼られ、感謝される場面が増えたことで、“医療職になった”という気持ちが芽生えたそうです。いまや人気の仕事になっていますね。

小島副院長

──課題の洗い出しや対応、各部署への周知などはどのように行っていたのですか。

委員会をつくり、会議を2~3回して大まかな方針を固めましたが、課題の洗い出しやルールづくりなどの実務面は、やる気のある若手医師や看護師がメインとなり進めました。モチベーションの高いスタッフが中心になることで、各所との調整も比較的スムーズだったと思います。

AI問診導入がもたらした、3つの成果とは

──実際にツールを使い始めて、いかがでしたか。

「想像以上に使いやすいな」というのが率直な感想です。導入から2~3か月たつ頃には、「以前より問診内容が良くなった」という評価も聞かれるようになりました。

個人的には、看護師の問診は患者さんの雰囲気やキャラクターといった、主訴以外の情報が読み取れるため、AI問診とは違う価値を感じています。ただ、そのことを差し引いても、AI問診は当初の期待を超えるクオリティでした。

──患者さんからはどのような反応があったのでしょうか。

導入当初は、「冷たい病院だな」といった声を聞くこともありました。「不安な気持ちなども含め、じっくり話を聞いてほしい」というニーズは一定数あるため、AI問診に味気なさを感じる患者さんもいるでしょう。

しかし、次第に「正確に症状を伝えられる」「問診までの待ち時間が大幅に減った」などポジティブな反応が増えました。タブレット端末での入力は難しいのではと危惧していましたが、患者さんの90%が対応できています。

──AI問診導入の成果を、具体的に教えてください。

成果は主に3つあります。

1つは、問診までの待ち時間削減です。以前は問診までに20~40分かかっていましたが、現在はほぼ0になり、待合スペースの有効活用などにもつながっています。

2つ目は、人件費の削減です。従来は看護師が3名体制で問診を行っていましたが、

看護師2名+事務1名+AI問診という体制に変わりました。看護師と事務職の人件費の差額が100万円以上になるため、AI問診ツールの運用コストを差し引いても、ややプラスになっています。

3つ目は、看護師が処置に割ける時間が増えたことです。

1名の看護師の手があいたことで、注射や点滴といった緊急のオーダーに対し、看護師が速やかに対応できるようになりました。その分、医師が結果を早く知ることもできるため、間接的には医師の働き方改善にもつながっていると言えるでしょう。

現時点ではAI問診の活用範囲は限られていますが、将来的にAIが診断に応用されるようになれば、診断の精度向上にもつながるのではと期待を持っています。

小島副院長

変化をためらう組織へ、風穴をあけるきっかけにしたい

──小島先生は、このプロジェクトの意義をどのように感じていますか。

この取り組みを通じて、新しい病院の在り方をわずかながらでも提起できたことは、意味があったと思います。

病院が今後向き合わなければならない変化は、多岐にわたります。たとえば治療法や文献検索のやり方、医療器材の購入方法、医師のリクルート、働き方改革、女性医師の活用…。こうした課題に向き合うには、旧弊を捨て新たな伝統をつくっていく“新陳代謝の視点”が重要です。

当たり前のことのようですが、その当たり前の新陳代謝ができずに、悩んでいる病院は少なくないのではないでしょうか。当院も例外ではありません。私自身、AI問診の提案を受けたときには正直「めんどくさそう」と思ったくらいです(笑)。

しかし、新しいものへの心理的抵抗が強い医師にとっても、人による問診はコストが大きく、ミスが生じるリスクもあることは理解できます。思ったよりスムーズに運用でき、一定の成果がでたことで、“よくわからないもの”だったAIへの不安も、やや払拭できたように感じます。

これをきっかけに“変化を受け入れ、新たな組織風土をつくっていこう”という機運を、少しずつ高めていければと考えています。

──医師の働き方改革については、2024年度の法施行に向け議論が活発化しています。貴院ではどのような課題を感じていますか。

当院はA水準を目指していますが、残業時間の短縮・当直の制度変更に対応しつつ、経営を維持していくことは非常に大きな課題です。まずは、当直時の給与体系や当直明けの勤務形態など、近隣病院へリサーチを始めています。

制度設計を進める上で一番難しいのは、医師の中にも様々な意見があることです。たとえば若手医師の中には「自分たちはもっと学ぶべきなので休む必要はない」という先生がいるし、一部の女性医師から「女だからと甘えてはいけない」といった声もあがっています。

それらを全て押しつぶし「法律だから」と強要したところで、うまく機能しません。そんな制度は、矛盾や欠陥が生じたらすぐに破綻してしまいます。自分たちの声をもとに作り上げた制度ならば、たとえ問題が生じても、自分たちでその穴を修復しよう、と思えるでしょう。

働き方改革の議論を通じて、よりよい医局の団結や制度設計につなげられるかは、管理の腕の見せ所だと思います。

患者さんのために一生懸命治療にあたる姿勢や、先輩医師から全力で学ぼうという気持ち。こういったいい伝統は残しつつ、労働者として正当な勤務形態をつくっていくために、一人ひとりの声に耳を傾けていきたいです。

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