“働き続けたい職場づくり”に関係性でアプローチ!川越胃腸病院26年間の試行錯誤

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関係性への積極的なアプローチで、働き続けたい職場を一緒に目指しましょう――。
そんなエールを、川越胃腸病院の小川卓氏(総務部長、医療サービス対応事務局長)が100名超の医療関係者を前に講演しました。

“関係性”に着目した働きかけが職場の満足度を高める

講演は川越胃腸病院「医療サービス対応事務局」による26年間の経験をまとめたもので、東京都が2月に開催した医療勤務環境改善セミナー内で行われました。講演タイトルは「職種横断型チーム活動による医療勤務環境改善への取り組みについて ~働きやすい職場づくりは関係性の質と量を高める工夫から~」。
※以下、カギカッコは小川氏の発言

川越胃腸病院の小川卓氏(総務部長、医療サービス対応事務局長)

川越胃腸病院の小川卓氏(総務部長、医療サービス対応事務局長)

医療法人財団献心会 川越胃腸病院(理事長・院長 望月智行)は埼玉県で唯一の消化器科単科専門病院(40床)で、職員は約120名(委託・派遣含む)。
1969年の設立時から今日まで、『医療は究極のサービス業でなくてはならない』の信念の元、特に現理事長である望月智行院長が後継者となった1983年以降、医療技術とサービスと経営の3つを追求することにより、真の社会貢献を果たせる病院を目指してきました。

小川氏入職の翌年(1992年)には、須藤秀一常務理事を中心として医療サービス対応事務局が設置され、対外的には病院に寄せられる様々な声を一元管理・対応する情報プラットフォーム機能、対内的にはそれらの課題を共有し解決に導くための院内コーディネート機能を提供しています。

現在の事務局スタッフは役員・医師・看護師・事務職を含む10名。各部門からの選抜メンバーで構成され、全員が兼務です。実際の活動として、月1回のメインミーティングの他は、メーリングリストを活用した情報共有と随時お互いに声を掛け合いながら院内のいたるところで情報交換と課題検討を行っています。

講演冒頭、小川氏はこれまでの事務局活動を振り返り、「26年間、試行錯誤を繰り返してきたが、ここ数年は『スタッフ』『患者』『病院』そのものに焦点を当てるだけでなく、それぞれの中間、その関係性向上に注目することで、活動の質が上がった」と語りました。

医療サービス対応事務局の概略図(講演資料から抜粋)

ここからは、講演で発表された取り組み事例をいくつか抜粋して紹介します。
※見出しのカッコ内は、主に影響されるであろう関係性を編集部でまとめたものです。

取り組み1:見えない仕事の見える化(職員×患者)

病院には“縁の下の力持ち”による目立たない仕事がたくさんあり、そんな間接部門のスタッフと患者をつなげる工夫が、1つ目の取り組みです。患者と直に接する機会の少ない部署の仕事ぶりを『舞台裏シリーズ』と名づけ、院内掲示を行っています。たとえば、「栄養科」や「バラの手入れ」、「退院清掃」などの舞台裏があり、それぞれの作業手順や工夫ポイントが紹介されています。

テーマは「栄養科(搾りたてフレッシュジュース編)」や「退院清掃(ベッド清掃編)」などさまざま(講演資料から抜粋)

舞台裏シリーズを掲示し始めてから見られた変化が、院内コミュニケーションだそうです。

「患者さんからスタッフに話しかけられる頻度が増えたのです。患者さんには話しかけようにも、共通の話題がなかったことに気づきました。私たちの想像以上に『こうやって綺麗にしているんだね』『搾りたては風味がちがうよ』などの言葉をスタッフにかけてくださる方が多いことに驚きました。

舞台裏シリーズは患者さんに病院への理解を深めてもらう効果とスタッフのモチベーションアップにつながる両方のメリットがあるのです」

掲示している内容は日々繰り返している作業内容の説明であり、そこに“特別感”はないものの、次の取り組みも含め、こうしたメッセージを積み重ねることで、「スタッフが自らの仕事を見つめ直すチャンスになる」と、小川氏は言います。

取り組み2:ポジティブ情報の共有(職員×患者)

「少し気を抜くとすぐ不足してくる」という取り組みが、ポジティブ情報の院内共有です。

実は、小川氏たちの医療サービス対応事務局は活動スタート当初、病院の問題点を見つけて解消するべく熱心に取り組むほど、現場スタッフとの関係がギクシャクしてしまったそうです。

「病院を良くしたい、改善したいという気持ちが先行してしまい、自分たちの出来ていない不足部分ばかり話題にすることで、スタッフの元気と自信を奪い、不快感を与えていました」

その反省から始めたのが、ポジティブ情報、つまり患者に褒められた言葉や評価などをスタッフがメモして、積極的に共有する活動でした。

「患者さんからのメッセージは言われた本人だけでなく、チーム医療の提供者である全スタッフが共有すべきものだと考えています。特にお褒めの言葉は貴重なプラスのストローク(承認)として、なるべく拾い上げるようにしています」

患者からの短いコメントも、一覧にすると壮観に(講演資料から抜粋)

対象は、院内での声だけにとどまりません。Instagram(インスタグラム)やfacebook(フェイスブック)などのネット上にあった自院に対するポジティブ情報も印刷し、共有しているといいます。

「自己満足では?と捉えるむきも当然ありますが、やはりポジティブな評価を知ることはモチベーションにつながります。『よい知らせは砂に書いた文字、悪い知らせは岩に刻む文字』と聞いたことがあります。患者さんからの厳しいご指摘を共有する前に、感謝や評価の共有があった方がスタッフもまっすぐ受け止められます。ポジティブ情報が3:1の比率で先行するくらいのバランスを意識しています」

取り組み3:本気の患者アンケート(病院×職員、病院×患者)

患者満足度を測るアンケート調査(CS調査)は多くの病院で行われていますが、小川氏は「病院関係者と話すと、『病院方針でアンケートをやっている』『どうせ患者さんは本音を書いてくれない』と後ろ向きな取り組み姿勢で、本来の目的である医療サービス改善につなげていないケースが多いように感じます」と語り、「やるなら本気で取り組むべきです」と、アンケート調査には前向きに取り組む姿勢が必要だと強調しました。

同院では集計分析した満足度データを3通りに分けて活用しています。それが、(1)患者へのポスター報告、(2)スタッフへの情報共有、(3)集計結果を賞与金額に反映-です。

(1)患者へのポスター報告

アンケートの回答結果を患者に報告することは、「病院と患者の関係性(信頼感)を向上させる一手段」として捉え、満足率グラフや改善できた内容を掲示ポスターで報告しています。

(2)スタッフへの情報共有

スタッフが業務改善に役立てられるよう、細やかなデータ分析を行い、情報共有しています。たとえば2017年には、患者の年齢・性別によるクロス集計を重点的に行ったということです。

ここで「関係性の質と量の向上」という観点から、CSアンケート結果のスタッフ共有について小川氏からの問いかけがありました。

「皆さまの職場ではこのような集計結果をどのように共有されているでしょうか?『分析や共有をしていない』は論外ですが、逆に『情報共有過多』も問題ではないでしょうか?

『いい病院にするために自分は何をしようか』という発想につながらないデータやグラフ資料なのに、配ること自体に満足していないでしょうか?」

(3)集計結果を賞与金額に反映

同院では賞与を『当期利益の職員への分配』と定義し、利益の中から賞与の総原資額を決め、まずは基本給比例分を控除。残りの成績比例分の総額を個人と部署それぞれの成績によって配分するという構造になっています。

個人別賞与配分額=〔基本給比例分+成績比例分(個人&部門)〕×出勤係数

アンケート結果の成績比例分(部門)を部門別貢献度として点数化し、おおよそ0.8~1.2程度に分布させると、部門として協力し合ったことも評価されているという手ごたえになり、個人成績だけでなく所属部門のチーム力も反映されているという納得感に繋がっているようです。

チームプレイも個人の賞与額に反映されるという認識により、スタッフ同士が切磋琢磨しながら協力しあえる、という理想的な職場関係のベースになっています。

取り組み4:地域医療機関との連携組織「ASK会」(病院×病院)

同院のような小規模病院では、スタッフ間の親密さが生まれやすいメリットはありますが、逆に大人数集団の多様性やダイナミズムに欠ける面があります。

そうしたデメリットを補う意味合いもあり、5年前(2013年)から、川越市内で専門領域の異なる3病院がASK会を結成しました。

それぞれの医療法人名の頭文字を取ったゆるやかな連携は、資本関係があるわけではなく、協力しあって互いの職員を育て合うことを目的にしています。

ASK会ではさまざまな企画が行われており、その一つが合同勉強会です。参加者から好評だったのがプログラム「混合ダイアローグ(対話・語り合い)」で、他院・他職種のスタッフが互いを理解しあう機会、自らの課題に気づく機会になったといいます。

良好な院内関係と地域連携、タマゴが先かニワトリが先か

小川氏は、医療サービス対応事務局の活動で『関係性』に着眼したことから、いろいろな学びや気づきがあったそうです。そのひとつに「マクロとミクロ、それぞれの層での“関係性”はあらゆる対象に影響し、結果として相似形につながるのでは」と感じたことです。

「院内組織改善と地域医療連携、どこの病院も積極的に取り組んでいます。しかしそれらを別々の課題と切り離しているのではないでしょうか。極端に言えば、スタッフ間に不満の渦巻く殺伐とした病院が、他病院との連携だけ上手くできるものでしょうか。『関係性は相似形』と仮定するなら、近隣施設との医療連携と院内のスタッフ同士の連携はリンクしている、と考えた方がプラスの相乗効果を期待できます。

たとえば、『地域包括ケアシステムへの取り組み』を自分事として捉えているのは担当者だけかもしれません。しかし、『スタッフ一人ひとりが他者との良好な関係を築くことで、地域における医療連携にもつながる』という共通認識があれば、スタッフの成長と病院の成長がリンクしたものあり、その共創意識が好循環につながるはずです」

人満足の好循環スパイラルを目指して

川越胃腸病院がめざす「人満足の好循環スパイラル」(講演資料から抜粋)

小川氏は、これまでの医療サービス対応事務局の活動を振り返り、受講者にエールを送りました。

「26年間、いろいろな工夫・提案を行ってきました。現場スタッフの負担になる企画は長続きせず、継続しているのは今日ご紹介したような目新しさのない地味な活動ばかりです。しかしそれらの活動も、『関係性の質と量を高める』という視点から見直していくことで、課題解決のための『補助線』になったと考えています」

講演の途中、参加者同士の対話タイムも設けられました。「今日メモされたレジュメを読み返す機会は、多分ないと思います。今やってみようと思うことを言葉にして語り合ってみてください。受講された証しは、何かが変わることです。ぜひご一緒に幸せなスタッフを増やすための行動変容を起こしていきましょう」と呼び掛けた小川氏。そこには、諦めずにチャレンジし続けることが大事だというメッセージが込められていました。

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