外国人患者さんの受け入れ、どうしてますか?【未収金予防編】─東京医科歯科大病院・二見茜氏

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外国人の観光客数と在留者数が、年々増加し、2018年に過去最高を記録。観光客数は約3119万人にのぼりました。このため、外国人患者の受け入れは病院にとって喫緊の課題となっています。
しかし、トラブルや医療費未払いなどを懸念し、受け入れに消極的な病院は少なくありません。厚生労働省の調査によると、外国人患者を受け入れた病院のうち約2割が未払いを経験。中には100万円超が未払いになったケースも。東京医科歯科大学附属病院・国際医療部で、月間400~500名の外国人診療をトータルサポートしている二見茜さんに、外国人患者対策の基本について語ってもらいました。

受け入れのニーズ増すも、病院の体制整備は進まず

─日本に来る外国人が年々増加し、病院も対応を迫られる局面が増えているかと思います。実際に受け入れ体制の整備は進んでいるのでしょうか。

2018年には既に、3980病院のうち約49%で“外国人患者の受け入れあり”という結果が出ています(※1)。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは1000万人規模の大会となる予定ですし、今年4月には外国人労働者の受け入れ拡大のための法律が改正されました(※2)。それ以降も政府は外国人の観光客や労働者をさらに受け入れていく方針です。これまで外国人を受け入れる機会のなかった病院においても、外国人患者が受診することになるでしょう。
しかし、現状では体制整備まではまだまだ手つかず、という病院が多いのではないでしょうか。厚労省の調査でも、外国人対応マニュアルや通訳(対面・電話)の整備状況についてはいずれも、およそ9割の病院が整備できていない、と回答しています。
(※1:厚労省「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査の結果」
(※2:出入国在留管理庁「入管法及び法務省設置法改正について」

私自身、様々な自治体や医療機関からご相談をいただくのですが、「どうすればいいのか分からない」という声が圧倒的に多いですね。加えて、日本の医療制度について説明したり医療通訳を使ったりと外国人対応は時間もコストもかかりがち。このため、中には外国人患者が受信しても拒否している病院もあるのが現状です。しかし、外国人患者さんにも医師法における応召義務は適応されます。対応能力がない、未払いになったら困るという理由で診察を断ることはできません。であれば、どうすれば未払いやトラブルなく安全に診察・治療できるかという観点で対策することが結果的に職員や病院を守ることにもつながるのです。

未収金対策は「早期発見・早期介入」がカギ

―そもそも、外国人患者の受け入れで未収金が生じやすいのはなぜでしょうか。

まず、ほとんどの外国人患者さんは医療費を支払っています。最近の外国人の未収金や保険証の不正使用に関する報道で不快な思いをされている方もいるので、慎重に言葉を選ばなくてはなりません。

未収金となってしまう主な理由は、言葉の違いによるコミュニケーション不全です。通訳がいない状況で日本語のできない患者さんにお金の話をするのは、とても大変なこと。日本の公的医療保険に入っていないと、医療費が全額自己負担になりますから、病院側が最初から「きっと払えないだろう」と諦めている場合もあります。

もう一つ、国による医療制度の違いも、未収金の大きな要因になっています。日本では通常、治療が終わった後に支払い額がわかりますが、これは国民皆保険制度があるからできること。海外では、医療費の前払いが当たり前の国も少なくありません。このため、外国人患者は最後まで金額が分からない日本の医療に不安感を抱きがちです。たとえば、1日いくらかかるかわからず入院していて、退院時に会計窓口で「保険がきかないので200万円です」と急に言われても、なかなか受け入れられませんよね。このため、「そんなに高いならもっとはやく退院したかった!」とトラブルになることがよくあります。

トラブルを防ぐための未収金トリアージとは

―トラブルを未然に防ぐために、病院側がとるべき対策を教えてください。

病気と同じで、未収金も「早期発見・早期介入」が重要です。お金の話はできるだけ早めに伝えなくてはなりません。特に治療費が高額の場合、症状が緩和するにつれ患者さんの支払い意欲も下がる傾向がみられます。

当院の救急外来には、英語と中国語の概算医療費一覧表を置いており、処置や検査をする前に費用を説明しています。入院して医療費が高額になるときは、事前に概算金額を伝えて保証金として預かるのが理想ですが、もし「支払えない」と言われても、患者さんとよく相談しましょう。治療や検査の必要性を伝えた上で、クレジットカードの有無や旅行保険への加入状況、家族からの送金の可否などを確認し、時には分割払いで対応するなど、支払ってもらえそうな方法を模索します。

また、当院ではビザの有無・旅行保険の加入状況などから未収金リスクを判断する「未収金トリアージ」を作成しました。夜間でもこれを見れば素早い判断が可能です。詳しくは以下をご参考にしてください。

未収金トリアージ(「看護展望」2019年2月号掲載内容をもとに改変)

A.滞在資格がない場合

ビザが切れたまま滞在しているオーバーステイの患者さんや難民申請中の患者さんなど、滞在資格のない患者さんは健康保険証をつくることができません。対策としては、初期に患者さんと医療費についてよく相談し、以下のような選択肢を検討してみてください。

  • 高額な治療や検査は必要最小限にする
  • 分割払いを検討する
  • 在日外国人や難民を支援する機関と連携する
  • 滞在資格がなくてもOKな社会保障(※3)を利用する

(※3:滞在資格がなくても利用できる社会保障には無料定額診療事業、予防接種、結核の定期健康診断、母子手帳、入院助産、未熟児養育医療、乳幼児の健康診断などがあります)

B.3か月以上の滞在資格があるのに日本の保険証を持っていない場合

健康保険に加入する必要があります。しかし、日本で暮らしていながら保険証の存在をご存知ない方もいます。必要に応じて情報提供し、加入を促しましょう。途中から健康保険に加入する場合は、過去まで遡って日本での滞在期間分の保険料を納める必要があり、患者さんによっては抵抗感を示す方もいます。しかしその後も外来治療が必要な場合など、長期的には加入した方が安くすみますし、限度額認定証など公的医療補助制度も利用可能になります。ソーシャルワーカーなどにも相談の上、丁寧に説明することが大切です。

C.観光などで短期滞在している場合

まずはパスポートと海外旅行保険への加入状況を確認します。この際、必ず氏名の正しいスペル・国籍・生年月日・ビザの有効期限を確認しましょう。また、パスポートのコピーをとっておいてください。海外旅行保険の申請や大使館との連携の際に必要になります。入院中にビザの有効期限が切れてしまう場合は、診断書を提出し入国管理局へ在留期間更新の申請手続きを行います。(ビザに関する問い合わせは外国人在留総合インフォメーションセンターで対応しています)

(ア)海外保険に加入している
  1. 海外旅行保険への加入が確認できたら、保険会社に連絡し、被保険者の患者が病院に受診(入院)したことを報告します。もしくは保険会社から病院に連絡するよう、患者さんや家族から保険会社に伝えてもらいましょう。ただし保険会社の審査を通るまでは支払われるか分からないため、外来の患者さんであれば本人が一旦支払い、帰国後に本人から保険会社に請求してもらうのが病院にとっては一番スムーズです。
  2. 支払い確約書をもらうための書類を作成・提出します(保険会社から指定の書類が送られてきます。指定の書類がない場合は院内の書式で診断書を作成します)。この書類をもとに保険会社が支払いの可否を審査します。時には交渉の途中で、保険会社の医師とやり取りが発生することも。最初に保険会社とコンタクトを取ったタイミングで日本の保険代理店(クレーム・エージェント)を間に入れてもらうよう依頼しておくと、代理店が翻訳・通訳をしてくれ交渉がスムーズになります。
  3. 保険会社から支払い決定の連絡があり、支払い確約書が発行されます。もし審査の結果、支払いができないと言われてしまったら、未収金トリアージを参考に患者さん・ご家族と再度相談しましょう。

注意したいのは、海外旅行保険に加入していても必ず医療費が支払われるとは限らないという点です。海外旅行保険は旅行中の不慮の病気・怪我の治療費を保証するもの。妊娠・出産に関わる医療費や既往症の悪化、ダイビングなどの危険なスポーツによる怪我などの治療に伴う医療費は保証の対象にはなりません。また、日本で治療や人間ドックを受けたいという医療ツーリズムの患者さんには必ず身元保証機関を通し、医療ビザを取得するよう促しましょう。

(イ)海外旅行保険に加入していない

クレジットカードでの支払いに対応している医療機関は、クレジットカードの有無を確認してください。必要に応じて限度額の引き上げなども検討しましょう。クレジットカードもない場合は速やかに概算金額を伝え、可能であれば概算金額を保証金として預かることが望ましいです。

未収金が発生したらどうすればいい?

―実際に未収金が発生してしまった場合は、どうしたらよいのでしょうか。

支払いできずに帰国あるいは退院する患者さんには、支払い確約書を用意し母国の住所や電話番号、メールアドレス、支払い期日を書いてもらいましょう。支払い確約書は日本語ではなく、相手の読める言語で作成してください。期日までに支払いがなければ、電話や郵便で督促をします。大変な作業ですが、諦めずに何度も連絡をしたことで、全額回収できたケースもあります。

一部の自治体では外国人の未払い医療費補填事業を実施しているので、これを利用する手もあります。たとえば東京都では、(公財)東京都福祉保健財団が「外国人未払い医療費補てん事務」を行っています。都内の保険病院(都立を除く)で外国人患者の医療費未払いが生じ、努力をしても回収できなかった分を補填します。ただし回収の努力を証明する必要がありますから、いつ誰がどのように督促したのか、必ず記録しておきましょう。

未収金を予防するためにはいかに早期発見・早期介入できるかが重要。そのためにも、患者さんと意思疎通できる体制を整えることがキモになりそうです。【コミュニケーション編】では、外国人患者さんとのコミュニケーションのポイントについて聞きました。

未収金予防のポイント
  1. 未収金対策は早期発見・早期介入がカギ
  2. 診療にかかる概算金額はなるべく早い段階で伝える
  3. ビザの有無・保険加入状況をふまえ、患者さんと支払える方法を相談する
  4. 支払い前に退院・帰国してしまっても諦めない

<取材・写真・文:角田歩樹>

【その他の内容はこちら】
【コミュニケーション編】
【体制づくり編】

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