外国人患者さんの受け入れ、どうしてますか?【体制づくり編】─東京医科歯科大病院・二見茜氏

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東京医科歯科大学附属病院・国際医療部で、医療コーディネーターとして月間400~500件の外国人診療をサポートしている二見茜さん。その豊富な経験から、外国人対応を始めようとしている全国の医療機関が講演や助言を求めています。
二見さん自身、1年前に国際医療部を立ち上げたとき、現場スタッフの理解を得ながら受け入れ体制を整えるのは一筋縄ではいかなかったとか。どのように院内外で連携体制を構築したのか伺いました。

受け入れにかかるコストをどう捉えるか

―言語や文化・宗教への対応など、外国人患者の受け入れには時間・コストがかかりがちです。診療報酬も現状ついていない中、費用対効果をどのように捉えればよいでしょうか。

たしかに一定のコストは伴うかもしれませんが、外国人受け入れの体制を整えることは医療安全の視点からも重要です。いかに安全かつスムーズに医療を受けてもらえるか、を考えることが患者さんだけでなく病院・スタッフを守ることにつながります。

その上で、現場の努力を経営に反映する意識も必要だと思います。病院は、日本の健康保険証を持たない患者さんに対して自由に診療価格を設定できます。当院では、私のようなコーディネーターや通訳にかかるコストを鑑み、日本の健康保険証を持たない患者さんに対しては、保険診療した場合の診療報酬点数で、1点につき30円で請求しています。1点30円にした理由は、近隣の医療機関の対応に合わせたということもありますが、日本の医療が加入者の保険料で整備されてきた背景を踏まえると、未加入の人が加入者と同じ点数では不公平、という考え方もあります。これは日本国籍を持つ患者さんにも適用されます。設定の要件を“外国籍を持つ患者さん”としてしまうと、「差別ではないか」と患者さんの納得感を得にくいためです。

受け入れ体制を整え適切な診療価格を設定した結果、当院では未収金がほぼゼロに。未収になった患者さんも分割払いで毎月支払っていただいる方もいます。さらに医療ツーリズムの患者を受け入れたことで、収益増につながっています。

体制づくりは“困ってる人”を見つけることから

―外国人対応の専属部署がない病院では、誰がその役割を担うべきでしょうか。

受け入れには医療の知識だけでなく、保険や医療制度に関する知識も必要になります。「担当者に全ておまかせ」ではなく、院内全体で体制をつくっていくことが大切です。担当者が疲弊し退職してしまうというケースも耳にしますから、そうならないためにもチームをつくるところから始めましょう。

まずは、院内で勉強会を開催してみてはいかがでしょうか。勉強会に参加してくれるのは実際に困った経験のある人・関心の高い人が多いので、勉強会を通じてネットワークを構築していくといいでしょう。たとえば医療安全の対策の一環として取り上げたり、勤務時間内に実施したりと、より多くの人に参加してもらえるよう工夫してみてください。

―現場スタッフをいかに巻き込むかも重要そうですね。

当院の国際医療部も実務部隊は2名のみなので、現場スタッフの協力は課題でした。たとえば、通訳ツールの活用もその一つです。外国人患者さんとの意思疎通で齟齬が生まれないように、まず看護師長会で師長さんに動画などを用いて通訳ツールの使い方を伝えました。すると師長さんが看護師さんたちに使い方を教えてくれたんです。また、各診療科のカンファレンスでミニ勉強会を実施してノウハウを共有したり、ポスターを作成し院内の各所に掲示したりとキャンペーンを行いました。そうやって「国際医療部に行けばあのツールが借りられる」と周知した結果、徐々に使ってもらえるようになりました。

国際医療部を設立したばかりのころは部の役割や意義が浸透していなかったので、フローや連携体制の構築が全てスムーズにいったわけではありません。しかし、実際に未収金が大幅に削減されたことで、現在は他部署もとても協力的です。

―院外との連携についてはいかがでしょうか。

周辺病院とのネットワークは広げるべきです。以前、他院の紹介で外国人の患者さんを受け入れたときのことです。その患者さんは意識障害のため名前を言えず、身元を特定できる所持品もなかったので、最初の病院では医療費が未払いになってしまっていました。しかし、当院では患者さんの名前が分かって保険証も再発行できたので、最初の病院にも共有したところ、無事に医療費を回収できたそうです。逆に、他院から外国人患者さんについて情報を共有していただくことも多く、とても助かっています。

今後は、回復期・慢性期の病院との連携も強化していきたいです。当院は大学病院ですから、急性期を過ぎた患者さんは本来、長期間の入院はできません。しかし、外国人患者さんは受け入れ先が見つからないケースが多く、退院調整が非常に大変です。現時点では急性期病院の方が対応に慣れていると思うので、回復期・慢性期の病院には積極的にノウハウ共有していきたいですね。困ったときはお互い様なので、対応のしかたが分からず不安という病院はぜひお問い合わせいただきたいです。

オリンピックを体制整備のきっかけに

―現在は東京医科歯科大学での業務のほかに、沖縄県で外国人患者受け入れのアドバイザーも務めていると伺いました。

沖縄県は外国人観光客が急増していることに加え、病院間の距離も遠いのでそれぞれ個別に体制を整えざるをえない状況です。そこで県予算を使って、全ての病院に電話通訳を導入しています。私は定期的に現地に伺うほか、医療機関からのメール・電話相談を受け付けています。

沖縄県に限らず、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、全国的に外国人患者受け入れの意識が高まっていると感じます。全国各地で国際医療部の設立や研修会、講演会などに関わらせていただく機会も増えました。

オリンピックをひとつのきっかけとして、各医療機関が通訳などの体制を整備することは、長い目で見て地域貢献にもつながります。オリンピック以降も訪日・在日外国人は増加する見通しですし、日本全国で同じように外国人患者の対応ができるよう、今後は人材育成にもより力を入れていきたいです。


外国人人口の多さが全国の市区町村で2位の横浜市が主催する、外国人患者受け入れ対応セミナーの様子。二見さんは同市の地域性をふまえた上で、手続き・体制構築の流れや注意点、コミュニケーションのポイントといった実践的なノウハウについて、事例をまじえ講演。「外国人患者対応は患者さんのためになるのはもちろん、医療安全の確保、訴訟の防止などにもつながる」と力を込めた。
参加者からは、現場スタッフとの協力方法や災害時の対応などに関する質問が寄せられた。同市では2019年7月より電話による医療通訳サービスも導入している。

元看護師が、外国人対応に尽力する理由とは

―二見さんはもともと看護師でした。ここまで外国人患者の対応に注力されるのはなぜなのでしょうか。

当院の救命救急センターは「断らない」をモットーにしており、医療スタッフは命を救うため24時間、必死で医療を行っています。そうやってみんなが一生懸命、治療・ケアしているのに、たとえば英語の診断書が発行できない、という理由で未収になってしまうのは悔しい。また、以前は救急外来で外国人が来ると、医療スタッフがご家族を探したり、お金の心配をしたりしていました。慣れない対応で現場スタッフが疲弊している状況を見て、私たちがサポートすることで現場スタッフが医療に集中できる環境をつくれれば、と思ったんです。

―実際に始めてからは、いかがでしたか。

この仕事は大変ですが、毎日ドラマがあってとても楽しいですよ。日本にいながら異なる文化やバックグラウンドを持つ人と接することができるのは、私にとって大きなやりがいです。思い返せば私自身、旅行や海外の文化が好きで学生のころからさまざまな国や難民キャンプにも行きました。日本語も英語も通じない場所で言葉の壁に困った経験もあります。そんなとき、現地の方々の優しさに救われました。その感謝を何らかの形で返したいという想いが、モチベーションになっています。

ある患者さんは「日本語ができないから不安だった。でも、あなたがいてくれてよかった」と言ってくれました。外国人であるためにいくつもの病院で診療を拒否され、ようやく当院で医師の診察を受けられたという患者さんもいました。言葉の通じない場所で病気になるのは、とても心細いことです。日本に来た外国の方が体調を崩した時、せめて安心して医療を受けられるようにしたい。それが私の願いです。

体制づくりのポイント
  1. 外国人対応は担当者まかせにせず、院内全体で取り組む
  2. まずは勉強会で仲間を増やす
  3. ツールを導入するだけでは現場で機能しないので、院内周知の徹底を

<取材・写真・文:角田歩樹>

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【未収金予防編】
【コミュニケーション編】

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