限られたリソースをフル活用する“仕組みづくり”─土屋小児病院が目指すものとは

人手不足が深刻な小児科で、週32時間労働制を実現するなど医師が働きやすい環境づくりに注力している土屋小児病院(埼玉県久喜市・40床)。(具体的な経緯はこちら)。その取組みは、労働条件の整備に留まりません。多職種でのワークシェアや地域の医療機関との協力体制構築…。院内外での連携を通し、限られたリソース下で持続可能な医療提供体制を目指しているそうです。その根底にある思いとは。土屋喬義(つちや・たかよし)理事長に聞きました。

医師事務作業補助者活用のポイントは

──診療報酬で加算ができた直後から医師事務作業補助者を導入するなど、多職種間でのワークシェアにも力を入れていると伺いました。

医師事務作業補助者の導入については、病院事務職員の専門家を育てたいという狙いがありました。そのため、当院の事務職員は原則、医師事務作業補助者として採用しています。つまり、事務系の職員でも診療スタッフと共に行動して病気の患者さまに寄り添った行動が取れるよう、必ず医師事務作業補助者の仕事をしていただくというのが前提なのです。現在19名の事務職員が在籍しており、そのうち医師事務作業補助者は11名。その全員が診療情報管理士を目指し勉強しており、現時点で既に3名が資格者となっています。

医師事務作業補助者は5年くらいかけて育成し、退院サマリーや診断書の記入などが一通りできるようになったら別の職務に切り替えるという循環をつくっています。通常、医師事務作業補助者としての業務に専属であたっているのは2名。他のスタッフは受付など別の業務を担うという形で分業しています。

──導入に際して苦労した点があれば教えてください。

当初は業務内容や他の職種との棲みわけも全て手探りでした。色々模索しながらやっと形になってきた、というところです。

特に神経を使うのは役割分担です。医師事務作業補助者の診療報酬は、算定要件には珍しく業務内容が具体的に規定されています。ところが、現場では業務の線引きがあいまいになりがちです。他のスタッフが医師事務作業補助者の仕事をしてしまうと、本来その人が別の業務にあてるべきだった時間がとられてしまうことになりますから、業務体制が崩れないよう、互いに意識する必要があります。

“多職種ブレーン・ストーミング”でチーム力アップ

──配置すればうまくいくというわけではなくて、現場で機能するには各スタッフへの意識づけが大切なんですね。スムーズな連携のため、工夫されている点はあるのでしょうか。

チームワークの醸成はいま、一番の課題だと感じています。トレーニングの意味もこめて、委員会活動などでグループワークを取り入れ、それぞれの立場から意見を出しあったり、課題意識を共有したりしています。

というのも、勤続の長いスタッフほど、たとえば“年功序列”といった 50年前の雇用体制や考え方を、ある程度引きずってしまいがちだからです。最近では、日本の教育も積極的に自分の意見を述べる方向にシフトしていますが、昔はそうではありませんでした。自分からは意見を言いにくい、あるいは「言ったところでどうせ変わらないだろう」という感覚はなかなか抜けにくいものですから、互いに意見を言いあう練習ができたらと考えました。

具体的な例をあげると、業務改善委員会は多職種のブレーンストーミングの場として活用しています。総勢10名程度の小さな委員会ですが、医師やコメディカル、事務職を含め全職種が参加します。突飛なことを言ってもOKという前提のもと、それぞれ業務改善のアイデアを出し、他のメンバーがフィードバックするという内容です。ルールは、“お金がかからないでできることをやりましょう”です(笑)。たとえば、「診療の流れが悪いのでこの部署の動きをどういう風に変えたらいいか」といったテーマで話し合います。月に2回の頻度で開催していますが、毎回1、2つのアイデアが実現していますね。時には、意外な職種から「こうすればいいのでは」と積極的な意見が出ることも。こうした取組みは引き続き行っていきたいです。

──チームワーク強化だけでなく、多職種で業務改善に取り組むことで全体的な底上げにもつながりそうですね。その他、効率化などの観点から工夫していることはあるのでしょうか。

院内で使うシステムの開発を、一部内製しています。これも、人手が足りないのでなんとか効率化できないかと考え始めたことです。実用化して成果をあげているのが、電話でのトリアージをサポートするシステム。電子カルテと情報を紐づけ、電話がかかってきたら相手の氏名や生年月日、最終来院日、その他の留意事項などが事前にわかる仕組みです。10年ほど前から取り入れ、救急受け入れの適正化などにつながっています。もともとプログラミングに興味があったこともあり、開発は私の担当。現在では一部の事務職員にコーディングを教えて、部分的に運用なども担ってもらっているところです。

──スタッフの育成にも注力されているのですね。

業務改善や効率化という側面ももちろん大きいのですが、スタッフにやりがいをもって長く働き続けてもらうためには、スキルが身につく喜びや、成長を実感できる環境が必要だと考えています。

医療機関同士の連携はwin-winの関係づくりを

──院外での連携についてはいかがでしょうか。

院外での取組みとしては、2009年より、主に二次医療圏内の小児科を対象に「小児連携医療研究会」という研修会を実施しています。もともと院内で行っていたのですが、せっかくなら、と診療面で連携していた医療機関を中心にお声かけしたのが始まりです。各専門領域の講師をお招きしてレクチャーしていただくのが主な内容。毎回20~30名の医師やスタッフが参加してくださっています。もともと小児科は数が少ないので、互いに助け合い地域の医療を守っていきたいですね。

また、近隣の大学病院と連携し、若手医師を非常勤として派遣していただいています。これは、教育的な側面で当院が貢献できる部分もあるのでは、とずいぶん以前から模索してきたことです。当院は地域の二次救急を担っているため、比較的フレッシュな患者さんが多い。早期の段階で多くの患者さんを診療できる環境は、大学病院で学ぶ医師にとっても価値があるのでは、と考え提案させていただきました。もちろん、当院にとってはマンパワーが確保でき大変助かります。そうした若手の医師に対しては、ベテランの医師を傍に配置するなどすぐに相談できるような体制をとって、教育効果を高めていければと考えています。

──他施設と協力関係を構築するにあたってどんなことを心がけていますか。

当院が位置する利根医療圏では、人口約65万人に対し、年少人口(0歳~14歳)は約7万5千人(※2015年時点)。全体の1割強くらいです。患者さんの母数が非常に小さい中で病院を運営している。しかも小児科はお金がかかります。医療機関の経営が成り立つよう集患するには、近隣施設とのバランスにも気を配る必要があるのです。当院では、プライマリ・ケアと高次機能病院の中間をカバーする形で、診療所や大学病院との連携を強化しています。たとえば、初期診療はなるべく診療所にお願いして、ご依頼があれば当院で引き受けるなど、それぞれの役割分担を意識しています。

──互いにwin-winの関係を築くことが重要なんですね。

持続可能性という視点からは、「当院さえよければいい」という考えは非常に危険です。大病院に機能が一極集中してしまうと、もしもその病院が一時的に機能麻痺を起こせば地域全体の医療がダウンしてしまいます。様々な規模の医療機関が役割分担し、いざというときのセーフティネットとなれるよう連携していくことが大切だと思います。

──今後の展望を教えてください。

小児科が置かれている現状は、依然厳しいものがあります。他の医療圏に目をやっても、小児科の病院がない地域もあれば、複数の病院があって各医療機関の経営がひっ迫している地域もある。地域ごとに機能分化を進め、それぞれが安定的な提供体制を設計していかなければなりません。当院なりに、少しでもそこに貢献できればという思いがあります。

小児医療は、“3K(きつい、汚い、危険)”などと敬遠されがちですが、子どもたちの笑顔や日本の将来を守ることにもつながる、非常にやりがいの大きな仕事です。「地方の小病院が大それたことを」と思われるかもしれませんが、日本の小児医療の未来のために、これからも当院ができることに全力を尽くしていきたいと考えています。

<取材・写真・文:角田歩樹>

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