広報専属スタッフ16人!多施設経営病院の広報戦略のヒミツを探る―洛和会ヘルスケアシステム――病院マーケティング新時代(18)

これまで小倉記念病院の松本さんの広報術をメインにしてきた病院マーケティング新時代、今回から気になる病院に取材をしていきます。

今回は、京都を中心に医療・福祉など約170カ所の施設を経営する、洛和会ヘルスケアシステムの広報部門を取材しました。広報の専属スタッフはなんと16人体制!その事業規模の大きさから、各施設に広報担当者を設置するのではなく、広報を専門とする2社(有限会社アールプランニング、株式会社Rマガジン社)が、グループ全体の広報活動をしています。今回は、有限会社アールプランニングの杉本浩規さんと岩井宴子さん、株式会社Rマガジン社の藤原真代さんにお話しを伺いました。

岩井宴子さん(左)、杉本浩規さん(中央)、藤原真代さん(右)

広報スタッフ16人で、医療介護など全施設を対応

――洛和会ヘルスケアシステムの概要と広報体制を教えてください。

杉本:洛和会ヘルスケアシステムは、5つの病院と4つのクリニックからなる「医療」部門と、「介護」「健康・保育」「教育・研究」の分野で約170カ所の施設を展開しており、合計5,000人を超える職員が在籍しています。

当会は、人の一生全てに関与させて頂ける事業を展開しています。施設によって、利用される方のライフステージが異なるため、利用者さんや地域の方々には、グループ全体の情報を包括的にお伝えできるように努めています。また利用者さんだけではなく、地域に対して安心安全な街づくりにどのように貢献できるかもミッションとなります。

――施設は全国規模で展開されていますが、16人の広報専属スタッフは、ワンフロアにいらっしゃるのですか。

杉本:そうです。1カ所にいながら、170施設の広報を担当しています。扱う媒体も多種多様です。取材・撮影から制作まで可能な限り内製できる広報チームを作り上げています。

――すごいですね!例えばweb担当や広報誌担当など、広報スタッフごとに担当部門が決められているのですか。

岩井:個人の得意分野を生かしつつ、どのスタッフもさまざまな広報業務が行えるように勉強会や研修を設けています。医療従事者として現場で働いていた者もいるので、現場での経験を非医療系の広報スタッフに伝えてもらっています。

院内広報のカギは、現場スタッフとの密なコミュニケーション

――病院の情報発信は、どのようなスキームで行われているのでしょうか。

杉本:広報は、情報収集が要です。このため、①本部、②各病院の経営層、③現場の声(広報部会)――の3つの軸で情報収集をしています。

岩井:具体的には、病院ごとにヒアリング担当スタッフを決めています。スタッフは担当病院でのさまざまな会議に参加するなどして、院内情報の理解を深めながら院内スタッフとのコミュニケーションを積極的にとっています。各病院の管理部長(事務長)とも定期的に情報交換しており、人事やその病院の現状、今後目指す姿をお聞きします。病院以外の事業では、施設ごとではなく、事業部ごとにヒアリングしています。また洛和会本部スタッフとも会議の場を設けることにより、グループの経営方針を確認し、組織と各施設の情報発信の方向がぶれないようにしています。

――院内には、各部署から委員を定めた広報委員会などはあるのですか。

岩井:各部署から委員を選出していただくことはありません。月2回の広報部会が、現場スタッフの声をヒアリングする場になっています。「この取り組みにスポットを当ててほしい」「このスタッフを取材してみてほしい」など、現場から広報の依頼を受けることも多いです。広報部会では積極的に意見や要望が出て、オーバーフローするくらいです(笑)

――現場から広報にリクエストできる環境を作り上げているのが素晴らしいですね。広報委員会を立ち上げている病院は多いですが、「とりあえず組織を作ってみたけど、結局動かない」という事例をいろんな病院から聞きます。

杉本:広報スタッフが取材を積み重ね、現場と打ち解けているからこそですね。広報から企画を提案した場合も、病院スタッフの方々には快く受け入れていただいています。また理事長 矢野一郎の「広報を積極的に活用する」という考えも、職員に浸透しているのだと思います。

広報誌は職員・利用者・医療機関向けの3誌を作成

――まさに広報スタッフは、病院情報発信コンシェルジュとして活躍されていますね。次に、広報活動の具体的な内容についてお聞きします。広報誌はどんなものを作っているんですか。

岩井:広報誌は職員向け、利用者さん向け、医療機関向けの3誌を作成しています。職員用広報誌は月刊で、26年以上の歴史があります。組織が大きいため、多領域の現場にスポットを当てた内容です。特に職員教育と20~30代のスタッフの活動をよく取り上げており、インナーブランディングに欠かせない媒体となっています。誌面だけではなくイントラネットでも配信しています。事業数が多いので、スタッフに「自分が所属する事業以外にも、こんな事業や活動があるんだな」と発見してもらうことで、帰属意識の向上につながっています。

――内部職員向けの広報誌を月1という頻度で発行しているのは素晴らしいですね。

杉本:現場の熱量を伝えるために、外部ライターを入れるのではなく、内製していることが功を奏していると思います。取材を通してコミュニケーションの機会も増えます。

――対外的な広報誌には、どのようなものがあるのですか?

岩井:利用者向け広報誌「月刊おとまるくん」は、治療法やドクターの紹介、健康や生活に役立つ情報の発信に加え、施設近くのお店の取材記事もあり、地域に根ざした情報を発信する媒体として読まれています。「まちのお医者さん」というコーナーでは、地域の開業医さんも紹介しているんですよ。月に1万4千部ほど発行し、施設内のラックなどに設置しています。

月刊おとまるくん

――取材されたお店の方は、洛和会のファンになっちゃいますね。

岩井:ありがたいことに、取材したお店に、広報誌を置いていただけることもあります。

――医療機関向け広報誌は、紙質も他のものと違いますね。

岩井:医療機関向け広報誌「RAKUWA」は、紙の素材やデザインに重厚感を持たせています。送付するだけでなく、地域連携課が連携病院訪問の際に持参することあります。年4回の発行で、1号につき1万2千部以上発行しています。地域連携課には広報部会にも入ってもらい、利用者向け広報誌「月刊おとまるくん」の「まちのお医者さん」や「RAKUWA」の誌面の内容を相談するなど、密に情報交換をしています。

RAKUWA

コロナ禍でSNSをどう活用する?

――SNSの活用はいかがですか?

藤原:コロナ禍においては、自粛でお家時間が増えることによる運動不足が懸念されています。その解消に役立てていただきたいと、自宅でできるトレーニング方法をYouTubeでアップしています。またInstagramは今年に入ってから週一回、主に現場目線の発信を目的に導入しました。院内スタッフからは「自分を取り上げて欲しい」と言う声もあります。フォロワー数も着実に伸びているところです。

――現場目線での発信の成果として、今後、SNS活用が採用にも好影響を与えるかもしれませんね!地域住民の方との交流はどのようなものがありますか。

藤原:地域住民との交流の機会は数多くあります。各種イベントへの救護班派遣のほか、お祭りを楽しみながら医療・介護の知識や情報を知ることができるイベントとして、年に一度の感謝祭「洛和メディカルフェスティバル」を実施しています。また、地域の子どもたちの健やかな育成のために、小・中学生の授業の一環として体験学習の受け入れや、看護体験もしています。他にもイベントは多岐にわたり、地域社会への貢献活動に取り組んでいます。

産学連携としては、京都府内の高校・大学や地域企業と協力しています。特に医療系学部以外の大学と連携し、次世代の教育と地域づくりを共創しています。

地域の方向けの健康教室は、週1回のペースで開いており、13年以上の歴史があります。リピーターの方はもちろん、新しい参加者を募るために、さまざまな場所を巡回して開催しています。

<取材をしてみて>

今回の取材で感じたことは、広報スタッフと現場スタッフのコミュニケーションを充実させる重要性です。

日ごろから現場スタッフとの信頼を築き上げているからこそ、広報への意見や要望が出しやすい組織となっていると感じました。よくありがちな「広報専属者がいるから、広報活動はその部署にお任せします」という現場スタッフからの他人事感や、「各部門から選出された広報委員会が当番制で部門紹介や活動紹介していく」という業務的な内容は全く見当たりません。自発的な情報発信を望んでいる現場スタッフが多いことに驚きました。現場の熱量も含めた情報収集ができているのは、月に複数回の院内会議に参加するなどの成果の賜物です。広報専属チームが、院内、利用者、地域住民との信頼関係を構築し、まさにコミュニケーションのプロフェッショナルとして活動をしていることがよくわかりました。

コロナ禍により、現場取材や地域住民との交流活動が制限され、今まで当たり前にできていた活動を見直さざる得ない状況となっていますが、デジタルでの情報発信増加を目指し、院長の院内スタッフに向けたメッセージや、職員講習用に防護服の着脱を解説する動画などを配信しているそうです。今後の活動も楽しみです。

取材からの帰り際、シャトルバス待合室に通院中の老夫婦が入ってくるなり、広報誌を手に取り、「今月の『おとまるくん』や、持って帰ろう」とおっしゃっていました。通院者が広報誌を楽しみにしている場面を目の当たりにし、ファンに根付いた広報誌であることを実感しました。

vol.17 自院ができる医療を伝えることは義務である

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