次世代の育成、どう進めればいい?【解説編】─病院経営ケーススタディーvol.8

【目次】
中小病院の強みは小回りが利くこと
効果的なアプローチ方法を知る、ステークホルダー分析
S事務長に求められるマネジメントとは

中小病院の強みは小回りが利くこと

意思決定のあり方は組織の規模によって異なります。私は、職員数約3000人・900床規模のマンモス病院から、職員数約70人・50床規模の小規模病院まで経験しました。前者は部門別・機能別に組織されており、一人ひとりが自身の専門性を発揮できる環境でした。反面、他部署との関わりが薄いため顔も名前も知らない職員が多く、意思決定のプロセスも複雑で、いちスタッフの立場で何か新たなことをしようとすると、多大なエネルギーと時間を要しました。
一方、後者では1人に課せられる業務負担・責任は重いですが、自分のやりたいことを組織運営に反映させやすく、スタッフ皆が顔なじみのため部署間の連携も容易でした。トップならずともアイデアを形にできるため、仕事の達成感を得やすい環境だったと思います。

しかし、X病院では小規模な組織ならではの強みをうまく発揮できていないようです。パンフレット制作のプロジェクトを成功させ、次世代がチャレンジ・活躍できる環境をつくるために、S事務長にはどのようなマネジメントが求められているのでしょうか。

効果的なアプローチ方法を知る、ステークホルダー分析

各メンバーへのアプローチを考えるには、仕事への姿勢、専門職としての技術、モチベーション、向上心といった人財の特性を把握することが重要です。そこで役立つのがステークホルダー分析です。なお、チームビルディングのステップやリーダーシップタイプ別の人財分析についてはvol.6の解説で詳述しているのでそちらをご参照ください。

ステークホルダーとは、組織の活動によって影響を受ける全ての利害関係者を指すビジネス用語です。組織視点によるステークホルダーは多くの場合、企業や団体、属性単位で大きくまとめられます。病院のステークホルダーといえば、患者、近隣の連携医療機関、製薬会社、医材会社、卸売会社、薬局、各種委託業者などが当てはまるでしょう。しかし、プロジェクトや事業視点の場合には、個人単位や部署単位、事業所単位などステークホルダーを細分化して扱うこともあります。

ステークホルダー分析では、これら利害関係者の中から活動を推進していく際の重要人物をピックアップし、どのように働きかけるかを分析します。実際に今回のX病院でプロジェクトに選ばれたメンバーで分析してみましょう。

(1)ステークホルダーの影響度と関心度を評価し、マトリクス上にプロットする

ここで言う影響度とは、発言力や決裁権など、プロジェクトメンバー内における影響を指します。そして関心度とは、プロジェクト自体やメンバーに対して協力的か、関心をどの程度持っているかです。

(2)メンバーに担ってほしい役割を考える

もし私がS事務長だったら、医事課主任をプロジェクトリーダーに指名します。ムードメーカーとして推進力を発揮してもらいたいからです。特に、初めての試みではチームの雰囲気・空気感は重要です。だんまりな会議にならぬよう、医事課主任の“お調子者力”がメンバーの緊張を和らげることを期待します。また、職種柄、医療を理解しつつ、お金の感覚を持ち合わせていることも強みです。全体の進行管理・多職種の取りまとめという責任ある立場を経験することで、将来の医事課長、事務長候補としてマネジメント能力を高めてもらいたいですね。

療養病棟看護主任には、サブリーダー的な位置づけで実行部分のディレクションを担ってもらうのがいいと思います。経験豊富でしっかり者という実力はもちろん、彼女の経歴も考慮に入れてのことです。というのも、彼女は大学病院からの転職ということもあり、X病院の医療レベルや自身の業務レベルへの不安・不満を持ち合わせている可能性があります。優秀な看護師に活躍の場を設定できなければ、人材流出のリスクも。看護部長や看護師長と調整を図りながら、多くの機会を創出しましょう。

パンフレット制作への関心が高いMSWには、コンテンツの内容や構成、他院事例の収集などを含め実務を積極的に担ってもらいます。また、最年少でプロジェクトにいささか及び腰の総務課主任には、成功体験を積んでもらうことを目標にまずは庶務的な作業を担ってもらうのがよさそうです。

S事務長に求められるマネジメントとは

メンバーを巻き込むためには、それぞれにどのような役割を期待しているかきちんと伝えることが重要です。その際、メンバーがこれまでの経験を通しどのような能力を身に着けているか自覚してもらうとともに、その能力を活かし新たなチャレンジをすることが彼らのキャリアにどのような意味をもつのか、を説明してあげるといいでしょう。メンバーにとって、単なる業務としてだけでなく、成長ステップの1つとしてプロジェクトを位置づけてもらうのです。

その上で、S事務長には各メンバーの特性に合わせた働きかけ・サポートが求められます。医事課主任に対しては、やはり“お調子者力”を上手くマネジメントすることが重要です。たとえばプロジェクト会議の前には、進め方や決めるべき項目といったマイルストーンをしっかり共有するなど、話は盛り上がったが脇道に逸れ何も決まらなかった、という事態を避けるべく、事務長が意図的に関わりましょう。一方で会議中は彼からのヘルプがない限りは見守りに徹し、決してリーダー役を奪わないことが鉄則です。

また、看護主任とMSWに対しては、臨床業務へ支障をきたさないよう、十分な配慮が必要です。看護主任はまだお子さんも小さいようですから、会議は勤務時間内に設定するとともに、人手が足りない中で病棟師長や先輩看護師から反発が起こらないよう、S事務長が緩衝材となるなど、プロジェクトに参加しやすい環境をつくりましょう。
MSWは本プロジェクトへの思い入れが人一倍強いようですが、控えめな性格です。医事課主任に根回しして、会議ではMSWに発言を促してもらうなど、どんどん意見を引き出すよう意識します。地域連携・広報といった専門性を十分に発揮しできるよう、行動を後押しして成果を認め、自信をもってもらうことが肝要です。

総務課主任に対しては、S事務長にとっても自分の過去と重なる部分があるため、色々な思いが交錯するかもしれませんが、まずは手取り足取りでサポートに回り、経験値を上げることを優先させましょう。

ボトムアップ型の組織風土をつくり上げるには、日頃から1人でも多くのスタッフとコミュニケーションを取り、各々の特性や仕事に対する想いを把握して適材適所で活躍してもらう環境を設定することが肝心です。これをやりやすいのが中小病院の利点です。大病院のように組織が大きい場合は、各部署の責任者がステークホルダー分析の視点を求められるでしょう。

環境を設定したら小さなプロジェクトからで良いので確実に実行することが大切です。そうやって成功体験を積み重ねることで、「自分はこの組織で存在価値がある」と承認欲求が満たされます。これをきっかけに「うちの病院はここが問題なのではないだろうか」「もっとこうしたら良いのではないか」といった発言が生まれるようになりますから、そうした声をもとに、新たに課題を設定してプロジェクトチームを立ち上げるのもよいでしょう。肝心なのは、無責任な評論で終わらせるのではなく、職員の問題意識と解決策をリンクさせ、それを実行できるよう環境設定を繰り返すことです。

時代が変わり、終業後に同僚や先輩、上司と飲みに行って愚痴や熱い想いを語り合う「飲みニケーション」も若者には敬遠されがちです。まずは病院行事などのイベントを最大限に活用し、スタッフ同士のコミュニケーションの場を意図的に創出し、次世代を担う職員の仕事に対する思いや考えを引きだす工夫も求められていますね。

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