診療報酬改定ってなんで大事なの?―溝口博重の「院長、それじゃみんなは動きません」vol.2

「院長の右腕」を探す前にお読みください―溝口博重の「院長、それじゃみんなは動きません」vol.1”

診療報酬改定、2年に1度のお祭り騒ぎで、そろそろ本格的に忙しくなる今日この頃。多くの病院経営者が、スタッフがもっと自発的に動いてくれればと思っている事かと思います。

診療報酬の情報は厚生労働省のホームページに掲載されていますが、これから半年間、何となく外のセミナーに行って既に知っている情報を確認する作業が何度かあることを「経験的に」ご存知かと思います。

2025年モデルの構築という大きな流れもありますし、みんなを動かすには「組織の原理原則」が大事なので、今日は基本中の基本「診療報酬がなぜ大事なのか」と「その大事さがなぜスタッフに浸透しないのか」について触れてみます。まずは図1を見てみましょう。

図1 病院経営の超基本その1

病院経営で利益を出すための基本は、図1の通りです。収入を増やすか、支出を減らすか、あるいは両方か、それしかありません。何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、この当たり前を経営者は重々承知していても、スタッフは知識でしか知りません。よって、その重要性をしっかりと説明し、理解してもらわないといけません。

そして忘れてはいけないのは、収入の増加に合わせて支出も増えたら、利益はあまり出ないということ。勤務医の先生方は、収入増には熱心でも(これも大事なので、大変ありがたい話ではありますが)、経費については割と無頓着です。

実際、これをお読みになっている院長は、スタッフに向けて、経費削減や黒字化の重要性を会議で訴えた経験がおありと思いますが、手応えを感じなかったのではないかと。

理由は非常にシンプルです。臨床現場のスタッフにとって重要なのは、患者さんの治療と、一緒に働くスタッフの数だからです。彼らは「病院組織に利益を出すために働く」という教育はなされておりません(図2参照)。よって、患者さんの治療も、マンパワーの充足も、黒字経営と密接に関係しているのですが、実感を持って理解できていないということになります。この「黒字経営」が大事だという教育することも、スタッフを動かすためには重要なポイントになります。

図2 病院経営層と現場の価値観

それともう一点。分かり切ったことではありますが、病院経営の超基本その2(図3)があります。

図3 病院経営の超基本その2

売上向上には、単価を上げるか、患者を増やすか、その両方かの3つしか選択肢がありません。診療報酬は「単価」を上げるために必要であって、人数=患者数を増やす類のものではないのです。小難しい経営指南をする外部アドバイザーもいるかと思いますが、究極的には、利益を上げるには「売上増」か「経費減」の施策があり、売上増には「単価向上」か「人数増加」の施策しかない、ということです。

こうした黒字化をめざす考え方は、経営側の都合に取られがちです。「黒字化を訴えても手応えがない」というお悩みは、経営層と現場では価値観の相違があるのに、経営側の都合でものを言って現場から反発が出るという図式でしかありません。この基本を理解できる人材がいればOKです。

確かに診療報酬制度は病院収益に大きく関わるポイントであり、超大事ではありますが、実際は単価向上を図るためのツールでしかありません。2年に1度の診療報酬改定をエポックメイキング的なイベント扱いをしている企業やコンサルタントは多いですが、カタチが決まっている以上、対策を立てるのは「人の問題」を除けば、それほど難しくありません。

図4 病院経営の戦略軸

単価を上げるのも、患者数を増やすのも、一番いいのは、現場の医師が「いくらでも患者さん診ますよ!」「もっと地域に積極的にアプローチしていきたいですね!」と積極的になっている職場であり、看護部長が「非常にやり甲斐ある職場です」「病棟のことなら何でも相談してください」という職場です。現場にやる気があって、活力があり、余力があれば、収入・収益なんて、勝手に上がっていきます。(多少は修正しないとダメですが)

もちろん収益改善方法は診療報酬改定だけではなく、いくつかの方法がありますが「診療報酬改定で、もっとも効果的な増収増益策を企画するのであれば、臨床現場のモチベーションを上げること」であって、経営的判断を臨床現場のスタッフに理解してもらうことではありません。

多くの医療機関では、経営論やら外部コンサルタントの入れ知恵で、臨床現場のスタッフも診療報酬を理解して、病院が黒字経営でなければならないと思われている一面があります。現に、スタッフの理解が進まないとマネジメントに悩む人もいますが、院長自身が勤務医時代にそのようなモチベーションで仕事をしたことがあったでしょうか?診療環境の人的な部分か、設備的な部分か、あるいは私生活が影響していたのかもわかりませんが、過去に充実した臨床lifeを満喫していた時、診療科は増収増益でなかったですか?

診療報酬という公定価格制度を取り入れている以上、国の政策に合致しているかどうかで診療行為の評価の高低はありますが、現場スタッフのモチベーション向上に勝る診療報酬対策はありません。

「診療報酬対策でモチベーションアップとか、意味が分からない」という声もあるかと思いますので、それを次回のテーマとさせていただければと思います。院長の『俺の右腕』育成のポイントにもなる話です。よろしくお願い致します。

今回の標語
「現場のモチベーションこそ、増収増益の早道」
【著者プロフィール】溝口博重(みぞぐち・ひろしげ)
株式会社AMI&I 代表取締役、NPO法人医桜 代表理事。
全国の医療機関の人材採用・組織マネジメントを中心とした経営支援を行うとともに、医学生に人気の研修「闘魂外来」やNPO法人日本救急クリニック協会の立ち上げに携わるなど、現場医療の課題解決にも精力的に参加している。
仕事への基本姿勢は「10年後の医療をもっと良く、さらに良く」

関連記事

  1. 医師という職業とは―医師への選択、医師の選択(野末睦)

コメント

コメントをお待ちしております

HTMLタグはご利用いただけません。

スパム対策のため、日本語が含まれない場合は投稿されません。ご注意ください。

医師の働き方改革

病院経営事例集アンケート

病院・クリニックの事務職求人

病院経営事例集について

病院経営事例集は、実際の成功事例から医療経営・病院経営改善のノウハウを学ぶ、医療機関の経営層・医療従事者のための情報ポータルサイトです。