「医事課のミッションは?」「QI活動を定着させるには?」病院事務職を中心に勉強会

HealthcareOps Connect
寒さが厳しさを増す11月下旬、東京都内で事務職を中心に約20人が集まり、勉強会「HealthcareOps Connect」(主催:一般社団法人HealthcareOps)が開催されました。有名病院の事務職2名が登壇したほか、大手医薬品卸・アルフレッサのグループ企業からも講演があり、さまざまな視点から医療や病院について考える機会になりました。

登壇者

<ミクロ編>
・「医療経営人材の人材育成と人脈育成」「医事課 何を成すべきか
 金城悠貴氏(済生会横浜市東部病院 医事企画室 主任)
・「Quality Indicatorを用いた質改善活動の進め方~聖路加国際病院における12年のノウハウ~
 堀川知香氏(聖路加国際大学 情報システムセンター)
<マクロ編>
・「Specialty時代の患者別サプライチェーンについて
 福神雄介氏(エス・エム・ディ株式会社 代表取締役)

勉強会は今回が2回目で、ミクロ編とマクロ編の2部構成で進められました。ミクロ編には、2病院から1人ずつ登壇し、「委員会・研究会運営」を中心としたノウハウを共有。マクロ編では、医療に限らず、変化の起こっている分野での最前線として、医薬品サプライチェーンの世界が取り上げられました。

院外勉強会がもたらすもの

金城悠貴氏(済生会横浜市東部病院 医事企画室 主任)1人目の金城悠貴氏(済生会横浜市東部病院 医事企画室 主任)が発表したテーマは「医療経営人材の人材育成と人脈育成」。神奈川県の医療経営士でスタートした研究会について発表しました。

金城氏らによって2014年に発足した研究会は、これまでに12回開催され、累計400名程が参加。研究会を開催してきた目的として、以下の3点を掲げました。

研究会を開催する目的

(1)継続的な学習のため
(2)志のある人財同士の、志の確認のため
(3)現場レベルでの人脈育成のため

その中で、(2)については「病院事務職は数人のスーパーマンで回していることが多いのではないでしょうか。これでは、自分を“仕事のできる人間”だと思い込み、次第に仕事を多く抱え、そのうちバーンアウトしてしまう。“井の中の蛙”にならないよう、院外に出て、頑張っているのは自分だけでないと認識することも必要です」と、逆説的に説明しました。

そして、こうした目的を毎回語ることが重要だと指摘したほか、運営のポイントとして、普段から事務局間で情報共有することや黒字運営などを挙げました。

その結果、医療経営士同士での病院訪問や、県外からの参加者との交流が生まれるといった成果にもつながったそうです。今後の課題としては、参加者に企業勤務者が多く、病院事務職が少ない点を挙げ、「病院事務職の主体性不足が経営のボトルネックになっている。この悔しい状況を打破したい」と意気込みを語りました。

オーバーワークの解決には「人工(にんく)」の概念

金城悠貴氏(済生会横浜市東部病院 医事企画室 主任)金城氏は続けて、「医事課 何を成すべきか」のタイトルでも発表。冒頭で「医事課のミッション」という問いを立て、その答えとして、「売上の最大化」を挙げました。この答えに違和感を覚える医療職もいることを認めつつ、「非営利組織である病院が利益を上げること自体は認められています。その利益を株主に還元することは認められませんが、資本金として設備投資などに回していくことは問題ありません」と話しました。

その上で、病院関係者が弱いのは、ミッションを達成しようとする姿勢だとも指摘。具体的に取るべき行動として、「総務・人事と違い、医事課は(医療の)プロセスに介入できることが強みの一つ。データを“見える化”して、(必要に応じて)医師に行動を変えてもらえるよう働きかけるのが大事です」と強調しました。

また、医事課の問題点として、「余計な業務を生んでオーバーワークになりがち」とも指摘。その例として、「医事課の職員は真面目なので、自ら質を上げていくんです。だから次第に、質の最低ラインが引き上がっていく。そして新しい業務が発生すると『現状で手一杯です』となり、人を増やすしかなくなります」と説明しました。

その解決には「人工(にんく)」の概念が必須だと力説しました(※)。「職員はタダ働きしているわけではありません。自分の労働時間が“原価”だと認識しなければいけない」と説明しました。

※人工(にんく)とは
作業量(工数)を表し、単位は「人日」や「人月」。1人が1か月にできる作業量を「1人月」と表します。たとえば、1か月20日勤務で1日8時間労働であれば、1人月は160時間。仕事Aが0.3人月、仕事Bが0.6人月、仕事Cが0.3人月であれば、合計1.2人月のため、作業者を増やすか、作業量を減らす必要があります。

参加者からは「コア業務に集中できない理由として、チェックが二重三重に続くことがあります」と相談され、金城氏は「わたしが入職したとき、医事課7人で調定(請求額を確定する業務)に多くの時間をかけていました。それはチェックを4回も5回もしていたからです。調定は本来、100点満点でなく95点くらいでいい仕事ですから、ダブルチェックに留めたら(工数が)3分の1になりました」と実体験をシェアしました。そして、「ここで大事なことは、作業量を削減したことでなく、この空いた時間で価値のある仕事ができること」とも付け加えました。

はじめは苦労もあった聖路加国際病院QI活動

堀川知香氏(聖路加国際大学 情報システムセンター)2人目の堀川知香氏(聖路加国際大学 情報システムセンター)は、医療の質を可視化して改善するQI活動について、その先駆けとして知られる聖路加国際病院での活動を紹介。QI委員会が発足した2006年からの動きを振り返りました。QI活動が始まった当初は、院内からの理解が得にくく、良好な計測結果を報告すると診療科スタッフから喜ばれる一方で、芳しくない結果は素直に受け止めてもらえないこともあり、苦労もあったそうです。

「始めから協力してくれる人は少ない」というQI活動も、約12年の地道な活動を経て、30名だったQI委員会が現在では総勢80名近くにまで成長しました。委員長には院長、その下に事務局と、医師40名をはじめとした現場スタッフが参加。各診療科・部署で1つ以上の指標を設定し、3か月ごとにQI委員会で報告しています。

QI活動の流れ

(1)指標の選定
(2)指標の測定
(3)改善策の検討
(4)改善策の実施
(5)再測定からの評価(1に戻る)

QI活動では、どのような指標で医療の質を測るか、つまり指標が重要になります。そこで堀川氏は、指標の選定基準として、(1)構造(ストラクチャー)、(2)過程(プロセス)、(3)結果(アウトカム)―を紹介した上で、「構造の変更、つまり物品購入などは現場にとって手が届きにくい。QI活動に着手する診療科には、プロセス指標を勧めています」と解説しました。ほかにも選定基準として、「30%など低いものから手を付けた方が改善を見込めます。ただ、低い指標を選べるのは、当院がQI活動を長年続けているからだという面もあります。以前は、低い数値の指標を公表することに対し、診療科・部署から躊躇されていた時期もありました」と明かしました。

現在の課題としては、指標の数が100近くになっていることが目下の悩みであるとし、今後の展望として優先順位をつけるなどして整理したいとも語ってくれました。

最後には、QI活動を開始・継続するための秘訣5点を挙げ、「仲間が増え、データが出せることが認識されていくと、自ずと現場から提案が生まれます。まずは、やってみないとわからない。問題はその都度考えていけばいいんです」と話し、発表を終えました。

QI活動を開始・継続するための秘訣

(1)リーダー(病院長)が積極的に介入するor味方をつける
(2)指標を自分たちで調べてみる
(3)データを作ってみる
(4)現場と一緒に改良する
(5)仲間を作る

患者の状況に応じたムダのない医薬品流通

最後には、国内の医薬品卸各社の流通を一元管理する福神雄介氏(エス・エム・ディ株式会社 代表取締役)が、医薬品における先進動向をシェア。「スペシャルティ医薬品」と呼ばれる、取り扱いに注意が必要なために通常流通での供給が難しい医薬品について、いくつかの事例を紹介しました。

福神雄介氏(エス・エム・ディ株式会社 代表取締役)たとえば、ある治療薬では、投与タイミングがやや複雑で、導入期は1日目、15日目、29日目、64日目で、その後は4か月ごとになります。そして1瓶で900万円以上することもあって在庫は必要最小限にし、投与タイミングに合わせた流通が必要になります。そこで同社では症例登録システムを用意して患者個々の投与スケジュール表を作成。関係者にリマインドメールを配信しています。2017年8月に稼働したばかりでリマインド先はMRやMSにとどまっていますが、「ゆくゆくは医師・薬剤師、患者も対象にしたい」と展望を明かしました。

こうしたシステムの意義について、福神氏は「人は病気の苦しさを覚えている導入期は服薬を忘れませんが、だんだん忘れてしまいます。共有システムができると、薬の安定供給に加えて、患者さんのスケジュールを誤るヒューマンエラー防止や、治療に対するサポートにも役立つと思います。データを(医療機関や卸、医薬品メーカーなど)さまざまな方で共有した方が、医療者・患者のためになります」と意義を語りました。

トヨタのかんばん方式は医薬品にも通用する?

また、「究極のサプライチェーン」として、福神氏はトヨタ自動車のかんばん方式を紹介。かんばん方式は「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」を実践しているため、現場の在庫量を抑えられ、コスト削減につながると説明しました。そしてかんばん方式に必要なものとして、販売情報・生産情報・部品サプライヤ-の情報共有を強調しました。

医薬品でかんばん方式が使えるかどうかについては、「たとえばがんは投与を中止することはあっても、増量はなかなかないので、治療計画が立った時点で薬をピッタリ届けることも可能になるのではないでしょうか。(サプライヤー側のマンパワーも)救急病院に3時間ごとに医薬品を届けているような現状もある」と話し、可能性は十分にあるとの認識を示しました。

ただ、医薬品サプライチェーンの現状については、製造拠点から医薬品メーカー、医薬品卸、医療機関、患者などがいて、「どこまで情報共有ができているでしょうか」と疑問を投げ掛けました。それどころか医療機関内ですらも、「診療部と薬剤部で治療計画をどこまで共有できているでしょうか。共有した情報を、コスト削減や在庫圧縮に活かせているでしょうか」と、課題があることを示しました。

「医療機関も薬局もサプライチェーンのお客さんではありません。患者さんに医薬品を投与することがゴールだとすると、皆さん一緒のプレイヤーです」と指摘し、今後の医薬品サプライチェーンにおいて医療機関に求められる視点を提示しました。

発表内容の詳細はCollective HealthcareOps(事例集)をご覧ください。

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