飲食経営者が医療G管理部門長になって大事にしている考え方―桐和会Gの組織拡大を支える“異業種組”

ファミリー層からその土地に根付いた高齢者まで、多様な医療・介護のニーズがある東京都・城東エリアを中心に40以上の施設を運営し、3000人近い職員が働く桐和会グループ。2019年4月には浦安および市川での新病院の開設、また川口にある既存病院の新棟拡張もあり、一気に390床が増える予定となっています。法人の規模が大きくなる中で、組織をより良くするにはどうしたらいいのでしょうか。同グループの事務部門を束ねる小原伸生管理部長に、急拡大が進む組織で大事にしている考え方と管理職として求められる姿について話を聞きました。

<インタビュイープロフィール>
医療法人社団桐和会グループ
管理部 部長  小原 伸生 氏

法人を前に進めるため、採用をいっそう強化する

桐和会 小原伸生

-設立20年余りで40施設以上を展開するなど急拡大が進んでいる桐和会グループですが、管理部門の実態を教えてください。

私は2017年7月に入職し、管理部長に就任してまだ1年も経過していませんが、就任当時の管理部は30名と、現在の半分ほどの人員体制で運営していました。就任直後に感じたことは、客観的に見て、40施設以上という規模に対して本部の人員が少なすぎる、ということです。物理的に回っておらず、スタッフにも大きな負荷がかかってしまっている状況がありました。時には仕事量の多さが離職を招き、負の連鎖も生まれている有様でした。

そのような状況も踏まえ、私が真っ先に進めたのが採用計画の立案と実行です。グループとして拡大を続けるには欠員募集といった現行業務に合わせた人員配置だけではなく、次のステップを意識した“攻めの人員配置”が必要になってきます。ようやくそこに着手できてきた、というところです。

-1施設を1名以下で担当する計算ですね。そのような体制を敷いている理由はあるのでしょうか。

当グループはこれまで、売上をあげない管理部門で人数をあまり増やしたくないという考えがありました。ただ、直接収益を生まなくても、機能させることで収益につながるアクションは間違いなくあります。たとえば、人材採用の手順や事業所と本部の役割を明確化したり、人事稟議ワークフローや決裁プロセスを見直し、迅速化したりすることによって、人員をよりスピーディーかつ確実に採用することができるようになりました。わたしが採用活動に注力することで、管理部門の重要性がグループ内に浸透し始めていると感じました。

-法人としての採用基準はありますか。

決められた業務をこなすだけではなく、一緒に法人を前に進めていく人が桐和会グループの採用の軸になっています。私はいつも採用面接で「現在、桐和会グループは発展途上国である。先進国にしていくために力を貸してほしい」とお話しています。

さらに、現在はグループの拡大に合わせ、人間性や性格を非常に重視しています。なぜなら組織拡大とともに起こるさまざまな“刃こぼれ”の原因は「協調性がない」の一言に集約されることが多いからです。たとえ優秀なスキルを持つ人材であっても、周囲と協調できなければ組織として機能しません。個人でできることには、やはり限界があります。組織として機能することで個の何倍ものパフォーマンスが発揮できるので、その重要性を理解してくれる方にご活躍いただきたいと考えています。

働きやすい環境づくりは、管理職が現場に入り込むところから

桐和会 管理部

-他方、医療業界の管理職に求められるものは何でしょうか。ご自身の経験も含めて教えてください。

ハードな現場で働く多種多様なスタッフのために、気持ちよく働ける環境をつくろうという意欲だと思います。私は以前、飲食業を中心とした会社経営を15年ほどやっていましたが、人間性や性格が重要である点は、医療業界も非常に似ていると考えています。

なぜなら、病院は24時間365日稼働して、多職種のスタッフが常に動いているハードな現場です。この環境でスタッフの労働状況を監視し続けることは物理的に難しく、スタッフに裁量を委ねるしかありません。そのためには、スタッフとの信頼関係が欠かせないのです。信頼関係さえあれば、あとは職場環境のストレスを減らし、前向きに仕事ができるようにすることで、たとえ管理職が見ていなくても良いパフォーマンスできる組織になるものなのです。

-ちなみに、医療業界未経験から管理職になることは、難しいでしょうか。

結論から言って、業界経験の有無は関係ないでしょう。ただ、1000人以上など、それなりの規模になった法人の管理は難しいので誰でもできるわけではないと思います。まずは自分の経験を活かせるポジションで現場に入っていきながら、組織をよく知っていくことが必要です。

-小原さん自身はいかがでしょうか。

私が入職当初に行ったのは、グループ法人の病院を順々に勤務することでした。業界未経験でもあったため、大きなことはできませんでしたが、細かな業務に関わったりイベント等にも出席したりすることで、まずは顔と名前を覚えてもらうことを意識しました。

印象的だったのは、各現場のスタッフから仕事の愚痴を聞けるほど、信頼関係が築けたことです。後々になって笑い話になるようなものも多かったのですが、同じグループのスタッフとして共に同じ時間を分かち合うプロセスを共有できたので、非常に重要な時間でした。このように現場に入り込んでいったことは今、私の大きな資産になっています。

-一般的な管理職の考えでは、なかなかできないアクションだと思います。

回り道のように見えるかもしれませんが、結果的にはこの方法が最適だったと思います。現場の重要性は前職の経験からも感じていたので、まったく抵抗感はありませんでした。

知識は本を読むことだけでも身につけられるかもしれません。ただ、わたしは現場を知ることでより知識の必要性を感じ、また本を読み、それを現場で実践するなど、そういった繰り返しでこそ知識を深めていけると考えています。

-病院経営における事務職スタッフの重要性について、ご自身の立場からどのようにお考えですか。

資格職が多い医療業界では、事務職がノンメディカルと揶揄されることも多くあります。専門性が重要視される業界では、職種による違いが生まれることは仕方ないのかもしれません。しかしながら、現代の病院経営には、「医療」の専門家と同じくらい、「経営」や「管理」の専門家が求められています。そういった意味では、専門家として誇りを持って働きつつ、事務職を育成していく環境づくりが必要になってくるのではないでしょうか。私は、ノンメディカルが日本一働きやすく、そして活躍できる医療グループを目指しています。

<取材・文:浅見祐樹、編集:小野茉奈佳>

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