“大学依存”では医師のキャリア拓けず ~2035年の日本を生き抜くプランは自らの手で~

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森田麻里子(仙台厚生病院麻酔科)

2015年9月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

先月、「レジナビ」という医師向けの合同就職説明会に出展側として参加した。新専門医制度の説明ブースには黒山の人だかりができ、関心の高さが伺えた。

初期臨床研修制度が2004年にスタートして以降、実は後期研修先選びも難しくなっていると感じる。初期研修で市中病院に出ていった後、何を専門として、どうやって実力を付けていけばよいか迷い、既存の制度における最適解として大学病院に戻るというパターンも多いように思う。周囲では、大学病院に戻ったものの、働く施設を自分で選ぶことができない不自由さなどから、大学を出たいと言う人もいる。

医師のキャリアは社会情勢に大きく影響される。20年ほど前までは大学にも経済的、人的資源の余裕があった。旧七帝大系などの国立大学では、臨床・教育の傍ら、先輩医師たちは自らが興味を持つ分子生物学を中心とする基礎研究に没頭した。若手医師は入局して幅広く臨床業務を行いながら、大学院での研究を自身の専門性として確立していった。

しかし、状況は変わった。1990年に12%だった65歳以上の人口は、2013年には25%まで上昇し、しかもその約半数は75歳以上である 1)。

社会保障費は1990年の約3倍である31.5兆円にまで増大し、国債発行額は約5倍の36.9兆円となっている1)。厳しい財政状況から、2004年の独立行政法人化以降、大学への運営交付金は毎年約1%ずつ減額されている 2)。

一方、人口の高齢化に伴い、患者数はますます増加しており、臨床業務が多忙を極めている。ニーズが増大し続ける臨床がより重視されるようになり、1990年代にナンバー内科は廃止され、診療科は臓器別に細かく区分けされるようになったのだ。

そしてここ数年、行き過ぎた専門志向への反発か、ジェネラルに診療を行う医師の育成が重視されるようになってきた。内科の新専門医制度では全ての内科医に内科全般の研修を要求しており、専門的で症例数が少ない症例も経験が必須とされている。結果として、新しく後期研修を開始しようとする医師は、症例数不足で資格が取れないことを恐れて大学へ戻る傾向になってきたという話を聞く。

これで、いいのだろうか。そもそも現在制度設計に関わっている医師たちは、大学で臨床と研究をして成功してきた世代だ。その世代にとっては、大学に医師が集まれば医師不足や医療費の問題も解決に向かうように見えるのかもしれない。

しかし、社会状況を考えてみると、日本の若年人口は既に減少してしまっている。移民受け入れがない限り、出生率が多少改善したとしても、私達が生きている間に高齢社会が解決されることはない。

つまり日本にいる限り、社会保障費は拡大し、大学への交付金が増える見込みはなく不採算部門が削減されていく中で、生きていかなければいけないのである。黙っていても大学にいれば研究費が降りてくる時代はもはや過去のことだ。これからは、患者のニーズを汲み取り、できる限り無駄なく応えていくことが必要だ。

ではこれからの医療に対するニーズとは何だろうか。高齢者は高血圧や糖尿病といった疾患を抱えることが多く、健康状態を管理する地域医療の担い手も当然必要だ。同時に、2人に1人が罹患すると言われている癌や、高血圧等の基礎疾患をベースとして発症する心血管系疾患の患者数も大幅に増加すると考えられるため、それらに対応する高度医療の専門家も必要だ。さらに、大学交付金の削減や消費税増税だけではもはや支えきれない日本の社会保障をどうすべきかを考える上では、医師の立場からその在り方を研究する人材も必要だろう。

もし高度医療の専門家を目指すなら、早くからトレーニングを積んだ方がいい。症例数と、いかに自分に診療を任せてもらえるかが重要だと思う。

私が現在研修している仙台厚生病院は、循環器・呼吸器・消化器疾患の高度医療に選択と集中を行った病院である。症例数は全国でも5本の指に入るほど多く、特に循環器疾患は宮城県の45%をカバーしており、2位に続く東北大学病院の9%を大きく引き離している。私が所属する麻酔科に関しても、心臓・呼吸器・消化器の手術症例は年1900件と、400床の病院としては非常に多い一方で医師数は少ないため、後期研修医にもたくさん症例数が割り当てられ、経験を積むことができる。

また、福島の被災地で診療を続けながら、高齢社会や震災後の影響について社会に役立てるよう発信している若手医師もいる。福島県の相双地域では私の大学の同期や先輩が5人勤務しているが、彼らはボランティア的な立場で福島入りしたわけではない。もともと医師不足の地域であるため臨床医として自分でできることも多い上、地域の問題や自分の経験を論文の形で発信することが、彼ら自身にとってプラスになるからだ。

医師の教育は、制度そのものだけではなく、実際の指導者や制度の運用によって大きく影響される。大学に多くの研修医を集めても、一人ひとりの特性に合わせてキャリアプランを組むような余裕はなく、結局は満遍なく平等にローテーションさせることになるだろう。しかし、何でも診療できる医師という理想は、いまだ現実化したことがない仮説にすぎない。自分の専門外の疾患について、どこまで自分で診療してどこから専門家に任せるかはいつもグレーだ。万能選手を育てるつもりが、何でも見たことはあるけれど、そのどれにも精通していない医師ばかりが育つ危険さえある。

どんな医師が求められていて、自分はどの立場で社会に貢献するのか、そのためにはどこで研修を積んだらよいか、もっと自分で考え、最も適した環境を選んでほしい。本来、専門というのは誰かに与えられ認定してもらう類のものではない。自分で考えることが、プロフェッショナルとしての専門家への第一歩だと、私は思う。

【参考文献】
1)厚生労働省 『社会保障・税一体改革』
2)文部科学省『国立大学法人等の現状について』

森田麻里子:
2012年3月に東京大学医学部医学科を卒業後、千葉県鴨川市にある亀田総合病院での初期研修を経て、現在は仙台厚生病院麻酔科に勤務。

(2015年9月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 より転載)

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