医療現場を動かすための“経営データの見せ方”とは-北星病院 医事課係長 道下貴裕氏

2025年に向かって業界構造が大きく変わる今、病床機能の転換を迫られている医療機関は全国に存在します。機能転換に際し、どのようなかじ取りをして「ヒト・モノ・カネ」を最適化していくかは、経営層や事務部門の腕の見せどころとも言えそうです。

今回取材したのは、北海道千歳市の北星病院。1963年の開院以降、療養機能に強みを持って地域を支えてきた同院は、2013年に回復期リハビリテーション病院に転換し、収益を大きく伸ばすことに成功しました。機能転換の立役者となったのは、医事課係長の道下貴裕氏。“医事課職人”としてキャリアを歩んできた道下氏はどのように現場の医療職を巻き込み、経営改革を実現させたのでしょうか。これまでのキャリアと経営改革のポイントについて伺いました。

データ分析を通して、他部署との連携を強める

-これまでのキャリアについて教えてください。
DSC_0195_2専門学校を卒業した後、新卒で北星病院医事課に入職しました。
入職以来、気を付けてきたのは、“与えられた仕事をこなすだけ”にならないこと。特に入院レセプトを担当するようになってからは病床稼働率などの数値を意識し、それぞれの指標をどうしたら改善できるか、課題解決の道を探ってきました。当時はちょうど時代の要請もあって、経営戦略を見直さなければならない時期でもあり、患者データを徹底的に調査してシミュレーションを実施したり、看護部や地域連携室などと協働したりしながら「慢性期の病床を今後どう転換させていくか」などと頭を抱えていました。

もともと慢性期機能を特徴とした病院として地域に親しまれてきた当院ですが、院内での検討の末、リハビリテーションを求める声にも応じていこうと、最終的には2013年に千歳保健所管轄内ではじめて回復期リハ病棟の基準を取得し、回復期リハ病院として体制を新たにする方針を打ち出しました。その後、一連の取り組みが評価されて、現在わたしは医事課係長として法人全体の経営に関わるようになっています。

現場医療職を動かす“データの見せ方”とは?

-データに基づくシミュレーションが出発点となって院内改革を進めたとのことですが、データを示したら医療スタッフからの協力はすぐに得られたのでしょうか。
正直なところ、そう簡単ではありませんでした。
わたし自身、病床転換を推し進めようとしていた当時は周りを巻き込むための事前の根回しが足りていませんでした。振り返ってみると、当時は、「データ分析をもとに経営改善を提案する」という仕事を優先するあまり、経営企画の全体像を見て仕事ができていなかったのだと思います。病床機能転換を実現させる上では、周囲のサポートもありましたし、一定の時間を掛けて根気強く現場のスタッフと話し合うことが必要でした。

DSC_0170_2当時の反省も踏まえて、病院の経営方針に関わらせてもらうようになった今は、会議の場でいきなり企画をぶつけるのではなく、院長や事務長、企画に関係する部署にも話を通しておき、施策の意義を徐々に浸透させられるように意識しています。看護部に対してもベッドコントロールの状況を数値とビジュアルで定期的に開示し、「どうしたら患者さんの満足度を高めつつ、経営的にも良い状態をつくり出せるか」と話し合っています。コミュニケーションの機会を意識的に取ることで、ベッドコントロール以外のことでも気軽に情報交換できる関係性が築けたので、今後さらなる院内改革を行う際は、協力が得やすいのではないかと考えています。

-医療スタッフにデータを示す上で、気をつけていることは何でしょうか。
資料の理解のしやすさでしょうか。医師や看護師は時間がなかなか取れないので、見た瞬間に理解してもらう必要があります。「資料を見た瞬間に、伝えたいことが分かること」「補足の説明をしなくても意味が伝わること」「後から見直しても同じメッセージが伝わること」の3点を意識しています。

“どれだけ沢山のアウトプットをできるか”が事務職の価値

-最後に、これからの事務職に向けたメッセージをお願いします。
まずは学ぶことと、アウトプットをすることが大切だと思っています。
「ブラッシュアップはもちろん、自分がやれること、知っていることをどこまで行動に移せるか」が病院事務職の価値ではないでしょうか。裏を返せば、自分の提案の幅を拡げ、質を高めていかないと強みが失われていってしまいます。事務職としてより大きな仕事をしたいと思うのなら、自院のみでの活動では限界がすぐに来るので、地域にどんどん出ていって、「他の病院事務職が何をやっているか」「他の職種が何をやっているのか」などをインプットすることが必要です。その上で、得られた知識を自分以外の事務職や他職種に向けて正しくアウトプットし、実現していく練習をすること。病院は多くの職種の方々からの協力がないと、事が進みません。そのためには良質なコミュニケーションを行うことが必要だと思います。

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