【第25回】現場から挙がるさまざまな課題、何からどうやって手を付ける?―事務長の悩みは99%解決できる

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野々下みどり(ののした・みどり)

株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり社会医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理士会評議員などを務める。

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「僕は事務長に向いていない」

今回もまた、事務長の愚痴から……。

「僕は、事務長に向いていないです」。

梅雨の晴れ間。気持ちの良い天気の日に訪問した先の事務長に、「最近、どうですか」と尋ねたら、唐突な“向いていない宣言”が返ってきました。

私:「なぜ、そう思うんですか」

事務長:「僕は、自分で決定することがなかなかできないんです。みんなの意見を聞いたり、相談されたりしたら、『そう思うよ』とか『いいんじゃない』とか意見は言えるけれど」

私:「それでは、ダメなんですか」

事務長:「こうするべきだ、という自分の意見をパッと出すことができないのは、事務長としてダメでしょう?」

相談に対して、自身の考えを答える。みんなの意見を尋ねて、「こうしたらいいのではないか」と答えを導き出す。そんな事務長は、本当にダメ事務長なのでしょうか。

「強さ」以上にリーダーに必要なことは…?

以前のコラムで、「慣れ親しんだアニメの影響で、世代ごとにヒーロー像(リーダー像)が異なる」という話をしました。時代は、“みんなを守る強いリーダー”から、“みんなに支えられながら一緒に頑張るリーダー”へと変化しています。このようにモデルは多様化しているとは言っても、現場では「リーダーたるもの、強く、たくましくなければならない」という思い込みがまだまだ根強いのかもしれません。

「強く決断力があるリーダーはかっこいい」と、私も病院勤務時代は確かに思っていました。自分で「そんなリーダーになりたい」と目指すのはもちろんいいのですが、それ以上に大切なのは、チームメンバーと信頼関係が作れているかどうかだと思います。

私はこの信頼関係の部分で、たくさん失敗をしてきました。スタッフから信用・信頼されるリーダーは、周囲を見て、今どのような状況か把握し、みんなの意見を聞きながら、一番いい選択は何かを考えて、決断できる人。つまり、先程「向いていない」と悩んでいた事務長のリーダーシップのとり方は、事務長の一つのあり方として正解なのです。

スタッフの声を聞いて、整理して、課題を見定める

先日、ある事務長から「職場でさまざまな問題点が挙がっている。それぞれしっかり解決したいのだが、なかなか進まない」と相談があったので、スタッフとのミーティングに参加させてもらいました。

「まずは、何が問題なのか整理した方がいい」と思いましたので、スタッフには、事前にそれぞれ抱えている問題点を挙げてもらい、

  1. なぜそれを問題点として挙げたのか
  2. その問題を解決しなかったら何が起こるのか、どんな状況になるのか
  3. その問題がない理想の姿には、どうすれば近づけるか

という3点についても、事前に検討してもらった上で、ミーティングに参加するようにお願いしました。

実際に議題に挙げられた問題点は、大きくまとめると

  • 業務の質の低さ
  • 患者減少
  • 人手不足

の3つ。

これらは一見バラバラの問題のように思えますが、各々の意見を整理していくと、実は次のようなつながりがありました。

  1. メインのターゲットではない、対応が難しい患者さんが多く来院している
  2. 対応に時間が取られるため、人手がかかる(人手不足)
  3. 受け入れられる患者数が減少する(患者減少)
  4. 1~3の連鎖により、スタッフがモヤモヤを抱えながら業務をこなさなければならず、業務の質が上がらない(業務の質の低さ)

解決のためには「メイン領域の患者を増やすために、病院の“ウリ”を発信することが重要」「まずは、情報発信の基盤構築に取り組むべきだ」という共通認識が生まれました。

病院理念と行動指針、現場に落とし込めていますか?

新型コロナウィルス感染症の流行は、人間の想像を遥かに上回るスピードで脅威となりました。これほど先の見えない時代でも、事務長がやるべきことは山積みです。状況を整理するために、まずは何が問題なのか考えて、書き出してみるのも1つの手です。自分だけで分からなければ、職員に尋ねてみてはいかがでしょうか。

「なんだかうまく行っていない」と思ったとき、まず最初にすべき大事なことは「目標設定」。つまり、なりたい姿、あるべき姿の設定です。実は、みなさんの職場には、すでに「病院理念」という形で存在しています。

事務長は、自分の病院が地域で果たす役割、存在意義を骨の髄まで理解していますか。病院の存在意義(存在する目的)が明確になってこそ、目標が立てられます。そして、その理念を噛み砕いて、具体的に現場に落とし込めているかも重要です。理念に基づいた行動指針を設けられていますか。日々の業務、職員の行動、言葉、態度、身だしなみ……。院内のスタッフだけでなく、出入りする委託業者や取引先の業者まで。そして、その理念は、住民や患者さんに伝わっているでしょうか。

また、地域が欲しいサービス=自分たちが提供するサービスになっていますか。そうでなければ、住民、患者さんからは選ばれません。欲しがっているものを売る、売れるものを売る、需要と供給ですね。先ほどの事例での“ウリ”にも関連するところです。

「とりあえず走るから」では、がんばれない

私がよく使う比喩ですが、「とりあえず、走るからトレーニングしなさい」と言われて、皆さんはすぐにがんばれますか。この指示では、「走る」が短距離走なのか長距離走なのかも分かりません。

「マラソン大会にでるから」と言われました。さあ、トレーニングはスタートできますか。これでも難しい。なぜなら、目的や目標がわからないからです。

では「健康のためにチャレンジする」なら? 少し目的が見えてきました。

「完走したら賞金をあげるよ」。……やる気が出てきました(笑)。

「3カ月後の○○大会に出るからね」。

◯◯大会要項を見てみると7時間という制限時間があります。あなたが日常的にランニングをしているマラソン経験者で、4時間で完走できるのなら、いつも通りのトレーニングで目標達成できそうです。でも、あなたがマラソン未経験だったら?年齢は?体重は?体力は?条件や状況によって、3カ月間のトレーニング内容が変わってきますね。

そうなのです。まずは目的があって、目標が生まれます。そこから現状を分析して、到達したい点との差が見えれば、おのずと日々やらなければならないことが分かります。

事務長、職場のさまざまな問題に振り回されつつも、ただ、なんとなく日々の業務をこなしていませんか。事務長が忙しいということは、もちろん分かっています。でも、少し立ち止まって、考える時間を作り問題を分析してみたら、「実はやるべきことはシンプルだ」と気づくかもしれません。

日々のトレーニングをしていなければ、大会本番だけがんばっても、特別な「力」を発揮することはできません。事務長が課題について考え、日々の業務を変えていくことで、病院目標の達成にも近づいていきます。

千里の道も一歩から。事務長の道も一歩ずつ、です。

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