院長先生! “チーム”ではなく、“組織”を創りましょう!―溝口博重の「院長、それじゃみんなは動きません」vol.6

院長先生! “チーム”ではなく、“組織”を創りましょう!―溝口博重の「院長、それじゃみんなは動きません」vol.6

「溝口さん、チームと組織は何が違うの?」という質問を頂きました。
チームも組織も複数のメンバーで構成されているので、改めて違いを聞かれるとよくわからないかもしれません。しかしこの2つは似て非なるものなのです。
それぞれ、以下のように定義できるかと思います。

【チーム】
基本的に、メンバー同士は顔の見える関係性を構築している。互いに協働して業務を遂行することが重要になる集団の単位。

【組織】
名前や顔を知らないメンバーも含め、構成員が価値観(目的・ビジョン)を共有し、その実現に向けて業務を遂行できる集団の単位

チームは組織より単位としては小さく、組織を構成する一部と認識されていることが多いでしょう。
小規模な病院でスタッフも少数であれば、職員は互いのことを見知っているケースがほとんどですから、「チーム」としてうまく機能させることもできます。しかし、300床以上の中規模病院や、もっと規模の大きな病院ともなると、スタッフ全員が顔を合わせるのもなかなか大変です。全員が互いに共同しながら業務にあたるというよりも、それぞれのチームが共通のビジョンのもとで、自らの業務を遂行できる「組織」づくりが必要になってくるわけです。

今回は組織づくりの基本となる、“共通の価値観”の描き方をご説明しましょう。

「組織づくり」のポイント

組織としての目標・目的の明示

一般企業などに比べ、医療機関は国家資格者を多く擁する特殊な組織です。
そして、そのリソースの大部分を患者の治療という領域に割り振っています。
前回も述べたように、そういう意味では組織としての目標・目的を統一することは、比較的容易と言えるでしょう。

病院組織を機能させる“3つの目標”

このように言うと、「だけどね、溝口さん。あなたが言うほどスタッフは動かないよ? だから病院経営は難しいんだろうけど」と反論されることが多々あります。恐らくこれは、組織特性を十分に理解していないがゆえに、うまく指針を設定できていないと考えられます。組織において、指針とすべきは 全スタッフの最大公約数 なのですが、そのことがあまり認識されていないのです。

全スタッフの最大公約数って何?

溝口がよく使う言い回しです。当該組織に属しているスタッフの1人1人が、「この考え方は理解・共感できる」と感じる一定のラインを指します。このラインが見極められると、組織づくりがグンと楽になります。

考え方としては非常にシンプルなのですが、「実践しようとすると意外と難しい」という声もよく耳にします。
各地の医療機関で組織づくりをしている私の経験から言うと、たった3つ、下記の目標・目的を設定することで、大半の医療機関は“共通の価値観”の醸成に成功しています。

図1:3つの目標・目的

この3つを目標とすることで、医師、病院スタッフ、患者それぞれの目線からいい病院とはこういう病院だよ、という価値観を職員全体で共有することができます。一見、いずれもごく基本的な内容で拍子抜けされるかもしれません。しかし、あちこちの病院の組織づくりに関わっていても、この3つを徹底できていないな、と感じる場面は多々あります。当たり前すぎて、かえって見過ごしがちなのかもしれません。

というのは、組織づくりを「病院経営のための組織づくり」と考えがちだからに他なりません。特に病院組織においては、患者さんの治療をする場としての色彩が非常に強いです。そのため、組織づくりで取り掛かるのは、医療をするための組織づくりです。その後に、結果として経営に強い組織にする事は可能ですが、前提として、経営のできる組織をつくっていくことは極めて困難です。

では、それぞれの目標・目的について具体的に見ていきましょう。

「医師が診療に集中できる環境」は組織づくりの基盤

まず、「医師が診療に集中できる環境」について。
たとえば、医師の人件費は全病院スタッフの中でもっとも高額です。
その医師が論文のための資料のコピーなどを延々していたらどうでしょうか?
医療の質を高める上でも、先生が勉強熱心なのは喜ばしいことです。しかし、こうした雑務は医局秘書などを配置し依頼すれば事足りる話です。それにも関わらず、医師が診療以外の雑務を行っている病院は、実は少なくありません。たとえば、医局内の当直のシフト作成やコーヒーの補充、書籍購入に消耗品の申請など…。一つ一つの作業負担は大したことはないでしょう。けれども、医療機関の組織づくりにおいて、 “医師がやる必要のない仕事をやらせない環境づくり” は非常に重要です。

上記は雑務を医師がこなしているという例ですが、この延長線上に、臨床での「医師でなくとも対応できる仕事」も見えてきます。そうやって、医師が診療に集中するために何ができるかを考えている病院は、例外なく生産性が高く、また医師が集まる病院になっています。一方で、医師が雑用を当たり前のようにやっている病院は、医師の潜在的な不満が非常に高いケースが少なくありません。このような病院では、医局に何かものを頼んでも「何でもかんでもはできない」と断られることが多いように感じます。

また、医師は診療の最初のボールの蹴りだし=キックオフをする“プレーヤー”であり、かつ全体を統括する“監督”でもあります。実務とマネジメントを兼任する、一般の企業でいう「プレイングマネージャー」にあたる存在で、その中でも絶対的な権限をもつタイプと言えます。会社勤めの方はよくご存知かと思いますが、プレイングマネージャーは超大変です。そんな超大変なことを、急性期の医療機関であれば、平均10名前後の受け持ち患者さん全てに対し行わなくてはならないのです。しかも、ミスは人命に関わります。
そう考えると、医師に本業以外の仕事をさせるのは酷だと感じるのではないでしょうか。本来なら院長先生がその最たる存在ではあるのですが…今回は、その点はおいておきましょう。

要するに、「医師が診療に集中できる環境づくり」とは、病院の組織づくりの基盤であり、医療機関で働くスタッフであれば納得できるポイント=“最大公約数”である、ということです。ここをスタッフにしっかり理解してもらうだけでも、病院の雰囲気は劇的に変わります。その上、そんなに時間もお金もかかりません。一番初めに取りかかるべきポイントと言えます。

「スタッフが家族に推薦できるか」で改善点が鮮明に

次に、「病院スタッフが自分の家族に推薦できる病院であること」を考えてみましょう。これは、実践するには難易度がやや高めですが、スタッフの皆さんが自分のこととして考えるため、理解しやすいという側面があります。

職員は、院内の良いところも悪いところも知っています。普通の患者さんには見えてこないような課題も把握しているスタッフの皆さんが、「うちの病院が一番」と家族に言えるのであれば、その組織づくりは成功していると言えます。(「周囲の病院に比べたらまだマシ」という場合はちょっと違いますが…)

ただし、医療機関の規模によって多少事情が異なるということは念頭においておきましょう。たとえば中小病院であれば、自分の知っているスタッフが診てくれるという安心感があります。その意味では、組織というよりチームでの診療に近いと言えるでしょう。見ず知らずの他人よりも、自分がよく知っている人の方が安心できるという心理は非常に分かりやすいですよね。規模の小さい病院ほど、この目標・目的は達成しやすいかもしれません。
一方で、病院の規模が大きくなればなるほど難易度は高くなります。職員の多い病院では、自分が知らないスタッフが対応することもありますから、「うちの病院は全体的にうまく機能している」と感じられていなければ、自信をもって家族に勧めることはできないでしょう。

この目標・目的の組み立ては、もっとも組織の改善点が鮮明になるポイントでもあります。それはなぜでしょうか。

普段、病院内のオペレーション改善の会議では、ミスの防止やちょっとした注意事項を取り上げることが多く、抜本的な改革につながることは少ないのではないでしょうか。しかし「自分の家族を自院に連れてこれない理由は何か」をテーマに議論すると、医療安全や医師のパーソナリティ、治療実績といった、専門的な視点からの指摘が非常に増えます。

会議のメンバーは、普段とまったく同じ業務改善委員会の面々です。それにも関わらず、自分の家族を連れてこられるようにするにはどうすべきか、というテーマを与えた瞬間から、いつもならヒヤリ・ハットや連絡事項の通達で終わっていた会議で、病院の組織全体に関わる様々な課題が挙がってくるのです。

少し意地悪な言い方にはなりますが、やはり一職員としての意見と、当事者としての意見は異なるということでしょうか。また、委員会などでは自身が専門職ではない、という引け目から一般職員がなかなか意見を言えていないケースも散見します。「意見を述べたところで聞いてもらえないだろう」「どうせなにも変わらないのに言うだけムダだ」と諦めてしまっていると、せっかく1人1人は “改善のためのヒント”を持っていたとしても、課題が顕在化しません。

これは病院組織に限ったことではありませんが、スタッフは専門職としての視点と、消費者(患者)としての視点の2つを持ち合わせています。この2つの視点を生かして、改善の余地があると思えば、積極的に意見を言ってくれるでしょう。中には、“あるべき論”を振りかざしたり、不平不満を並べたりして、建設的に聞こえないものもあるかもしれません。しかし、それらは専門職あるいは消費者として積極的に発言した結果だという見方もできます。それらを整理して構造的に捉えることができると、組織としてやるべきことが明確になってきます。コンサルタントなどを雇わずとも、往々にして、病院スタッフは物事の分析と批判は得意なのです。

図2:あるべき論や不平不満が出ることは改善への第一歩

しかし、課題が明確になったとしてもそれをどう改善していくのか、という点に関しては、医療機関のスタッフはあまり得意ではありません。なので、そこをどう組織づくりでカバーするか、という話になってきます。

ちょっと長くなってきましたので、続きは次回に!

今回の標語
「病院スタッフの最大公約数の意見をみつけるべし」

<編集・角田歩樹>

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