【第5回】職員が育たないのは事務長の「やり方」が悪いから! ―事務長の悩みは、99%解決できる

野々下みどり(ののした・みどり)

株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理学会 評議員などを務める。
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店員にデザートを正しく出してもらうには

同じメニューを注文して運ばれてきたデザート(筆者撮影)

もう見飽きたかもしれませんが(笑)第3回の記事でご紹介した、あるカフェで食後に運ばれてきたデザートです。同じメニューを注文して運ばれてきたものですが、右側のデザートが自分の方に置かれたら「ちょうどダイエット中だから、このくらいのサイズがうれしい。私ってラッキー!」、、、とはなりませんよね。仮に、仮にそうだったとしても、「ちょっと待った!」と多少なりとも不服な気持ちになりませんか。

さて、このような接客を受けるお客様を増やさないためには、従業員をどう教育したらいいでしょうか。

「いいかい、デザートは同じ大きさにしてお出しするんだよ」
このような指導は、決して間違いではありません。

「ちゃんと、マニュアル通りにね」
マニュアルがあればまだいい方ですが、あったとしても、これだけではまだ足りないものがあります。

我々医療の現場でも、こういうことはよくある話。スタッフに業務内容だけでなく、ビジョンをどう伝えていくか、教えていくか。これらはスタッフの定着や教育に頭を抱えている方の悩みの本質であり、それが驚くほど認識されていないことを以前の記事でも述べました。

 「違う、そうではない!」という教育が起こる原因

今回は、新入社員の指導を任された2人の先輩の事例をご紹介します。医事課の職員で、保険証の確認を指導している場面のようです。

A先輩
「保険証は、月に一度は確認することになっています。受付時に、患者さんに声かけをして預かってね。預かったら、医事コンのここのボタンからここのページに移って、保険証の番号を確認してね。確認したら、ここにチェックボックスがあるので、チェックを忘れずにね」

B先輩
「保険証は、月に一度は確認をすることになっています。健康保険法や療養担当規則で決められていて、医療機関の責任として、保険の受給資格がある患者さんかどうか、確認することが義務でもあるため。記号・番号が間違っていたり、会社が変わっていたり、資格がないことを見逃した場合、レセプトが返戻されてきて病院にお金が入ってこないし、私たちが後で患者さんに確認をしなければならないといった手間も増えるのね。患者さんにご迷惑がかかることもあるから、誤りがないかをきちんと確認してね。私たち医事課は、病院や患者さんのお金を取り扱う担当者でもあり、病院の顔。接遇も大事だし、このような患者さんに対する正しい対応も大事なの。パソコンに、このページで保険者の番号があるから、ここを確認してね」

A先輩とB先輩、この2人の違いはなんでしょう?

先ほどのカフェのデザートを運んできた店員さんは、どちらのタイプの先輩に教育をされたのでしょうね。

• その業務が出来る人材を教育するのか
• こういう人材になってほしいと思って教育するのか

上記は、「スキル」を教えているのか、「マインド」を教えているのか、の違いです。このような違いがうまれるのは、職員教育の目的が違うからです。もしくは、教えること自体が目的となり、こういう人材になってほしいという「目標」が明確でない場合もあるかもしれません。

何が大事なのか。それは、「やり方」ではなく「在り方」を教えること。具体的に言うと「何のために、誰のために」私たちのこの業務は在るのかということです。

「やり方」ではない、「在り方」を教える

事務長! これは先輩たちの教え方が違ったという話ではありません。事務長自身の「やり方」の問題が浮き彫りになったのです。ビジョンや思いをスタッフに伝えていますか?「こういう医事課を作っていく」「こういうふうに患者さんや病院に貢献していく」という役割を伝えていますか?

事実として、医事課経験者ではない事務長も多く、業務が分からないため強く言えない方が多いのも承知しています。それでいいのです。私だって、前職では医事課の業務自体は最初の数年で、紙カルテや紙レセプトしか触っていません。電子カルテやオンライン請求となり、医事コンも、レジさえ触れないし、電子カルテの入力もままならない──それでも電子カルテを導入し、事務スタッフの管理職をしていました。

管理職時代にやっていたのは、ビジョンや思いを伝えること。「こういう目的で、ここを目指している」と目指す方向を繰り返し伝えていただけ。そうすると、私が伝えた組織のビジョンを理解したスタッフは、自分でその山を目指して動き出せるのです。これまで、そういう姿をたくさん見てきました。

今までのクライアント先の医事課でも、他の部門でも、素晴らしい考えを内に秘めた方が必ずいました。みなさんの所にも、きっといます。ただ、その方々がその「マインド」をどのように態度に出していいのか、人に伝えたらいいのか迷っているように私には見えました。

「恐れるな、ビジョンや想いはしっかり伝えよ」

どうか、みなさんの部下に事務長のビジョンをたくさん語ってください。それが彼らの指針となり、業務をするうえでの拠り所となるはずですから。

ゴールから考える

そうはいっても、その「やり方」が分からないという方もいらっしゃるかもしれません。その時は、落ち着いて、誰のために、何のためにという「目的」を思い出してください。「どうしたいのか、どうなりたいのか」というゴールを設定したら、自ずと今、何がどのくらい出来ていないかが分かります。その差を埋めるためにどうしたらいいか。

(1)なぜ出来ていないのか
(2)それはなぜか

を繰り返して、原因追求をしていきます。それをせずに「きっとこうすればいいはず」と思いつきの対策はしないでください。経験がない、昔の経験しかない我々の「勘」ほど、当てにはならないものはありませんから。

さあ、今日はどんなことが起こるのだろう。どんな患者さんに出会えるのだろう。朝のミーティング時に、みんな笑顔の職場が日本中に増えますように。次回は、原因追求の重要性と、「人の最初の言葉は聞き流せ」という私のモットーが生まれたエピソードについてご紹介します。

【読者の皆さまからのご質問をお預かりしています】
連載で取り上げるテーマの他にも、みなさんの「今」のお悩みについてもいっしょに考えていきたいと思っています。「事務長の~」というタイトルではございますが、お役職問わず、お気軽にお問い合わせください。ご質問はコチラから。

<編集:平石果菜子>

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