異業界から34歳で病院の事務長に。─生和会グループ 有松吾郎事務局長

1984年に山口県で病院を開設して以来、地域に根を張りながら拡大を続けてきた生和会グループ(中国・関西地方で14病院1977床)。その事務局長としてグループの成長を支えているのが有松吾郎氏です。医療未経験で300床規模の病院に入職し、わずか4年で事務長に就任。現在は中国エリアの事業責任者として、複数施設・法人の運営や事業の拡大を推進する同氏の、キャリアの軌跡に迫りました。

<インタビュイープロフィール>
生和会グループ 法人事務局 局長
有松 吾郎氏

アパレルから医事課員へ…転身のきっかけとは

──まずは、有松さんのファーストキャリアについて教えてください。

大学卒業後は、ジーンズを製造するアパレルメーカーの営業担当として、神奈川県の横浜市で勤務しました。私の出身は生和会グループの本拠地である山口県ですが、大学時代を関東で過ごしたこともあり、「まずはこの地で社会人としての経験を積みたい」と考えたのです。ただ、長男という立場上、将来的に山口へ戻ることは視野に入れていました。

──その後、どのような転機があったのですか。

横浜の営業所で3年ほど勤めた後、東京都内の営業所に異動となりました。そこで営業活動の幅が広がり、出張で全国の小売現場に足を運ぶように。週の半分、家を空けることもしょっちゅうでした。それなりに充実した生活を送っていましたが、30歳を前に2人目の子どもが生まれたタイミングで育児の環境を考えたとき、「東京で無理に続けるより、今のうちにUターンした方がいいのでは」という妻のアドバイスもあり、転職先のあてもないまま山口に戻りました。

──生和会グループへ入職された経緯を教えてください。

地方ではそもそも求人が少ないですし、条件面で折り合わないことも多く、転職活動は非常に苦労しました。仕事を探す傍ら、アルバイトで生計を立てる日々が1年ほど続いたころに出会ったのが、医療法人社団 生和会 湯野生和会病院(現:周南リハビリテーション病院、210床)の募集です。当時は、営業職で前職の経験を活かそうと考えており、医療機関での勤務は選択肢になかったのですが「とにかく早く仕事を決めなければ」という一心で応募しました。

募集枠1名に対し20名以上の応募があったため、未経験の自分は不採用だろうと応募時から落ち込んでいました(笑)。ところが、選考後に即日で内定をいただき、医事課にて勤務することになったのです。

後から知ったのですが、生和会が管理部門の体制強化を図ろうとしていたこと、また社会保険事務局との折衝や統計資料の作成を担う人材が必要とされていたことから、レセプト等の経験よりも幅広い業務に対応できるかどうかを重視していたようです。

“医療界の常識”にとらわれない発信がチャンスに

──ご入職後は、どのような業務を担当されたのですか。

湯野生和会病院(現:周南リハビリテーション病院)で、医事課の一般職員からスタートしました。しかし、すぐに統計資料の取りまとめや施設基準の届出対応、監査対応、病院の委員会活動など、様々な業務に関わらせてもらうように。医療業界に関する知識が全くなかったので、帰宅後に勉強したりとキャッチアップするのがなかなか大変でしたね。

一方で、異業界出身だからこそ組織の課題が見えることもあったように思います。知識・経験はすぐには身につきませんが、自分なりの視点を活かすことで貢献できればと、先入観なくアイデアを出したり情報発信したりすることを意識していました。その中で、医事課以外の部署とつながりがうまれ、総務課や病院機能評価受審の責任者なども経験させてもらいました。入職から4年ほど経ったころ、当時の上司が新病院立ち上げのため異動することになり、その後任として事務長を拝命しました。

──未経験にもかかわらず、入職4年で事務長は大抜擢ですね。

当時、私は34歳でした。県の事務長の集まりなどにお伺いすると他の参加者は1~2回り年上の方ばかり。周囲も異例の人事と見ていたのではないでしょうか。

若造ながら事務長に登用していただいたのは、病院機能評価受審の経験が大きいかもしれません。責任者として他部署と連携する中で、事務部門はもちろん、各病棟のドクターや看護部長・師長といったメディカル部門と密にやりとりする必要がありました。当時は苦労も多かったですが、「審査をクリアし認定を取る」という共通の目的に向かい、多くのスタッフと一丸となり取り組めた経験があったからこそ、院内全体にわたり信頼関係を築けたのだと思います。おかげで、事務長として就任してからもスムーズに業務を進めることができました。

──事務長に就任されてからの取り組みについて、教えてください。

事務長に就任した2007年頃、グループ内では新病院の立ち上げや既存施設の機能転換など、事業の多角化が進んでいました。当グループはそれまで慢性期医療の提供を通し拡大してきましたが、生き残りをかけ、ニーズの高まっている回復期機能も強化する方針へと舵を切ったのです。湯野生和会病院では回復期リハビリテーション病棟の立ち上げが喫緊の課題であり、そのために各プロジェクトを推進することが私の大きな役割でした。

たとえば、リハビリ強化にあたってはセラピストを大幅に増員する必要があります。そこで私は、中国・九州地方の専門学校に足しげく通い就職説明会にも参加するなど、スカウト行脚に出ました。新病棟立ち上げということで、提示できる実績がない中での採用活動でしたが、結果としては目標以上の人数を採用することができました。当時入職してくれたスタッフは、今でもグループのリハビリ部門の柱として活躍してくれています。

また、リハビリが強みであることを打ち出すため、思い切って病院名も「周南リハビリテーション病院」に変更。患者様や求職者への印象づけを意識した広報活動なども進めていきました。

本部の役割は管理でなく、現場力の向上

──現在はグループの事務局長としてご活躍されていますね。

事業の多角化が進む中で、複数施設の人員管理や新規事業に関する情報収集などを行う“調整部門”の必要性が増していました。それまでは現会長の白川(編注:白川重雄氏)が1人で担っていましたが、この拡大期を機として2010年よりグループ全体にまたがる事務局を設置する運びに。私が事務長と兼任で事務局長を務めることとなりました。事務局の機能が膨れ上がっていったため、事務長業は後任に託し、現在は事務局長に専念しています。

──事務局長の役割は何でしょうか。

当グループは関西・中国エリアを中心に事業を展開しておりますが、私は主に中国エリアの事業責任者として業務を行っています。といっても特定の担当業務があるわけではなく、各法人・施設の運営状況を鑑みて病床稼働率や人繰りにおけるボトルネックを探り、解決に向け施策を進めたり施設間の連携を調整したりしています。状況把握のため、定期的に各施設をラウンドして、院長や看護部長、事務長とこまめに情報共有することを意識していますね。

──今後、医療業界はグループ化(複数法人・施設の運営)が進んでいくとも言われていますが、グループの本部機能、そしてそれを統括する管理職には何が求められるのでしょうか。

個人的には、本部が現場を「管理する」のではなく「活かす」ことが非常に重要だと思っています。私の経験上、各事業や人員のマネジメントにおいて、トップダウン型よりも現場で各々が最適な判断を下せるボトムアップ型の方が、パフォーマンスが高く成果も生みやすくなります。

組織図上、「事務局」という名称になってはいますが、その機能は“本部が現場を掌握し見張る”ことではありません。裁量は基本的に各法人・施設で持ってもらいます。もちろん状況把握はしますが、私たちの役割は各法人・施設の方向性がグループの方針と大幅にずれていないか確認しつつ、より現場力を高めるのに役立ちそうな情報提供を行うこと。客観的な視点からより円滑な運営をコーディネートするイメージで、現場とコミュニケーションを取っています。

たとえば、人員配置は本部としての強みを活かせる役割です。事務長や看護部長と話していると、「こういう人材がいるからもっとこういう経験をさせたい。だが、自分の施設にはその環境がない。」という声を耳にすることがあります。その状況を放置し退職につながれば、病院にとってはもちろん、グループ全体にとっても大きな損失となりかねません。そんなときに事務局が介入し、施設間の異動などを調整するなど適材適所の配置を進めることで、貴重な人材流出を防ぐことができるのです。

──最後に、有松さんの今後の目標を教えてください。

グループとして事業拡大を進め、「リハビリといえば生和会グループ」と各地域で言われるように組織を成長させていくことです。

昨今、医療に求められるものはめまぐるしく変化しており、リハビリや在宅など、幅広いニーズに対応できる機能を地域ごとに設けていく必要があります。そうした社会背景もふまえ、各ステージに即した医療を提供できるような仕組みづくりをしていきたいと考えています。たとえ病気やけがをしても当グループを利用すれば、リハビリもしっかり受けられるし地域の中で生活していける、そういう安心感を地域の方に持ってもらえるようになりたいですね。

そのために必要な施策をしっかり推進しつつ、現場の職員たちがより誇りややりがいを持って働けるような環境づくりにも取り組んでいきたいです。

<取材・文:浅見祐樹、編集:角田歩樹>

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