【第2回】理事長・院長先生、事務長の悩みの原因はあなたです。―事務長の悩みは、99%解決できる

野々下みどり(ののした・みどり)

株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理学会 評議員などを務める。
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業務改善の講演をクライアント病院から依頼され、その訪問先の泊まっているホテルで、今回はこのコラムを書いています。あいにくの雨ですが、窓の外にはすぐ大海原が広がり、寄せては返す波、テレビも携帯も切ってその波の音だけで過ごしています。

筆者撮影

ここに来るまでに何時間かバスや電車を乗り継いでやってきましたが、ICカードが使えない(切符を購入しなければならなかった)、携帯のアンテナが1本、時々圏外になる、、、!という地域で、唯一の急性期医療を提供なさっている病院を訪問します。
長旅でお尻も腰も痛かったのですが、電車の窓越しに山や畑、そして家々が視界を流れていく度に「ああ、ここでこの地域の人を守っている病院がある、そこに明日行くんだ」と思うと、心が弾みました。

事務長の悩みの原因はズバリ、、、!!

このコラムの企画は「事務長の悩みは、99%解決できる」ですが、こちらの病院でも、事務長の悩みをいろいろお尋ねしていたところ、結局行き着いたのは「やっぱりそうか」という結論でした。本当は言いたいけれど言いにくい、でもやっぱり言いたい「真実」。事務長の悩みは、ずばり理事長・院長が原因!なのです。

今回ご訪問したクライアントは、業務の改善に取り組みたい、ということでの講演依頼でしたが、各部門が目指すものもバラバラなままに業務を行っており、理念達成や目標に向けた改善ではなく、今のとりあえず困ったことに対応している(修正、訂正程度)、という感じでした。

院長先生は「業務改善を」という号令はかけていらっしゃったのですが、組織としてどこを目指しているのかは明確にされておらず、事務長には「人が足りていないなら採用を」「物が足りていないなら購入を」と、経営状況は考慮されず、ただ投げかけるだけ、という状況だと事務長は頭を抱えられていました。

本稿をお読みの理事長や院長先生からはお叱りを受けるかもしれませんが、医療経営は、やっぱりすべてトップにかかっているという事を改めて確信しました。トップが患者さんや住民のために「組織のあるべき姿」を明確に設定し、スタッフに伝えるということ、これが事務長、ひいては病院の悩みを解決する方法なのです。

船造りスタート

さて、今回のケースを前回同様に船で考えてみましょう。今回はA島行きの船が「豪華客船」だった前提で、まずはハード面についてです。あなたは船長で、船造りから任されたとします(実際の船長は開発・設計をしませんが、イメージとしてお考えください)。

しかし、「豪華客船」というオーダーだけで、船造りはスタートできますか。

どのくらい予算は使えるの?料金設定は?お客様の性別は?女性・男性どちらが多い?年齢は?何人乗り?何日間をどのように過ごしてもらう?まだまだ出てきそうですね。

この項目1つ1つの設定によって、出来上がる船がだいぶ変わると思いませんか。女性をターゲットにした客船であれば、女性が好むものにしなければなりません。20代、30代、、、80代、年齢によっても変わってきます。もしかすると、国や地域などの慣習などで変わるかもしれません。ひとくちに「豪華客船」と言っても、どんな船にすべきかが一隻一隻で異なるのは明らかですね。

思いはハードに宿る

たとえ既に造られた船を任せられたとしても、同じことが言えます。どのような客船にするのか、どうお客様に過ごしてもらうのか――。あるべき姿をもとに内装や調度品、備品を再考できますよね。こうして選ばれた1つ1つに、つまりハードには「思い」が宿るのです。

筆者撮影

私自身は、経営というものを学んでからの気づきでしたが、病院は「買って」から、「作って」から、「雇って」から、それに合わせることが多い場所のような気がします。あるべき姿の設定がなければ、必要、不必要の決定も決裁もできないのに、病院は事後の調整が多い。こういうやり方では、ムダが生まれ、院内の1つ1つに思いが宿るわけがありません。これからの少子・超高齢社会で経営資源が限られる中、それでは通用しないのではないでしょうか。

豪華客船も病院も、あるべき姿を大事に!!

1回目を読まれた船長、つまり船の総責任者であるあなたは、A島までの航行を任されました。そして今回、船造りにまで視野を広げました。船長の仕事はもはや安全な舵取りだけ、ということではありませんよね。
どんな客船にするのかという、ハードづくりが根本から変わってくる重要なことをあなたが決めなければならないのは、もうお分かりでしょう。

病院も同じです。今まで専門業務である医療をひたすらしてきた医療のプロである医師が理事長、院長というトップになったら組織全体のことを考えなくてはならない。病院のあるべき姿は何なのか、その実現には何が必要なのか。ハードであれば、どんな設備やシステム、機材、器具、内装などが必要なのかです。つまり、医療という分野に、経営の概念が必要になります。

今回のクライアントにも、病院経営に不可欠なビジョンをまずは経営幹部で共有する具体的な機会を提案してきました。「依頼されたのは業務改善の講演なのに出過ぎたマネを…」と思われるかもしれません。
しかし、地域住民、働く人、病院がHappyになるためにはビジネスの概念と要素が不可欠です。そしてその支援が私の役割であると考えています。
今回については、そもそも業務改善の講演では対症療法にしかならないというのが率直な意見だったのです。

次回は、ソフト面、つまり船で働く乗組員について、先日あるカフェで運ばれてきたデザートを例に考えたいと思います。

筆者撮影

【読者の皆さまからのご質問をお預かりしています】
連載で取り上げるテーマの他にも、みなさんの「今」のお悩みについてもいっしょに考えていきたいと思っています。「事務長の~」というタイトルではございますが、お役職問わず、お気軽にお問い合わせください。ご質問はコチラから。

<編集:塚田大輔>

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