【第3回】事務長!採用時に苦労しますか、採用“後”に苦労しますか?―事務長の悩みは、99%解決できる

野々下みどり(ののした・みどり)

株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理学会 評議員などを務める。
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「求人しても集まらない、人が定着しない」

「看護師さん集まりますかね、野々下さん」

外は桜の開花の知らせが届き始めた3月終わりの昼下がり。気持ちの良い春の日差しが差し込む打ち合わせ中のカフェで、大きな溜息と共に漏れた呟き。私が外部顧問をしている会社で訪問看護ステーションの開設が控えており、その代表が、「看護師さんの7割は訪問看護したくないというデータもあるそうですよ」と、追い討ちをかけるような情報を加えながら、心配そうに求人票の仕上げをしています。

筆者撮影(今年の花見は次男の野球試合の応援とともに。野球グラウンドにて)

確かに、、、最近の出来事を私は思い出していました。ここしばらく私は、知り合いやクライアント先、知人づてで知り合った院長や事務長に、医療者としての悩みや課題をインタビューしていました。

収益や患者数の伸び悩みなども多く挙がりましたが、皆さんの声が大きくなるのが「人」についての問題でした。医療や介護という業界は、主に「人」がサービスを提供する場所ですから、「人」は重要な経営資源となります。「人」についての悩みは皆さん同じように抱えている悩みや課題でした。仲が悪くて雰囲気が悪い、教育体制がない、リーダーがいない等々。こと、皆さんが共通に頭を抱えられていたのは、「求人しても集まらない、人が定着しない」でした。

嬉しい悲鳴

私が病院での仕事を通じて問題意識を持ち、大学院で学んだのが高齢者医療でした。そして、実現しようと強く決意したのが「本人の意思を尊重した最期、本人の望む生き方」です。そんな医療の実現のために、病院やクリニックをお手伝いしたくてコンサル業を始めたのですが、この冒頭の訪問看護ステーションは、私の決意を直接実践できる最初の場となりました。

患者さん第一の訪看を、「患者さんの人生に向き合えて幸せだ」と本気で思ってる看護師さんと作りたい。そして看護師さんの人生も幸せにできる場にしたい。そう意気込んでいました。

しかし、ここでぶつかるのが「人」の問題。看護師さんが集まらなければスタートできません。「どうしよう、集まらなかったら」と、私も珍しく不安になりました。でも、志が同じ人と一緒に仕事がしたい、そこは妥協できない!不安を振り払い、代表に「求人票に理念、思いをしっかり書きましょう。そこに共感できる人と訪看を作っていきましょう」と伝えました。

それから理念作りをスタート。代表の思いを引き出します。自分の思いや考えを分かりやすく言語化することは、容易ではありません。出てくる言葉を文字にするとニュアンスが違っていたり、言霊とよく言われますが、言葉に思いがいまいち乗っていなかったり。みんなの道しるべとなる理念ですから、分かりやすく相手に伝わるように、言語化しなければなりません。繰り返し繰り返し代表に問いかけ、看護師さん達に伝わるように修正を加えていきました。そして、求人票や求人サイトに、「患者さんの人生と向き合い、寄り添える看護を提供したい。患者さんの『家に帰りたい』、『自宅で最期を』を叶えるために一緒に働いてほしい。きっと、その先には患者さんとご家族の満足があり、皆さんの感じる仕事への本当の満足があります」と思いをぶつけました。待遇や勤務条件の記載よりも、想いを語った文章量の方が5倍くらい多かったでしょうか。

(筆者撮影)

するとどうでしょう。2週間くらいの間に10名を超える応募がきました。驚くべきことに面接にお見えになった看護師さんのほとんどが「患者さんの『家に帰りたい』を実現したい」と、訪問看護の経験が無い方も、「一緒に新規オープンのここで新しい訪問看護ステーションを創っていきたい」と口にされる情熱にあふれる人ばかりでした。人の確保を心配していた予想を裏切る展開となり、採用人数を増やすべきかという嬉しい悲鳴でミーティングを重ねている最中です。

「タカラ」に見えた看護師さん達

このコラムでもずっとお伝えしている「医療経営は、すべて理事長や院長というトップにかかっている!」ということ、「トップが患者さんや住民のために組織のあるべき姿を明確に設定し、スタッフに伝えることが重要である!」ということ。あるべき組織の価値観を共有できた「人材」は、「人財」になります。今回、応募時から価値観を共有できた看護師さんたちは「タカラ」に見えました!

給与などの条件も大事です。でも、人が動くのは「思い」。特に医療者はそれが大きいのではないでしょうか。私は昨年から、診療情報管理士の専門学校で非常勤講師もさせていただいているのですが、その学生さんたちと接していてもそのことをものすごく感じます(学生さんたちのお話も、今後ぜひお伝えしたい!)。

釘をさされていた採用面接

私も病院勤務時代に採用に携わっていましたが、求人票はまったく意識しておらず、面接では病院や業務の紹介程度。しかも現場の責任者からは、応募者の辞退を避けるために、あまり厳しいことを言わないよう釘をさされていました(笑)。しかし、仕事をこなせそうな方を採用しても、採用した後になって、教育や理念を理解してもらうことに苦労していたように思います。

人材は、「人財」にも、ただいるだけの「人在」にも、ひどいと「人罪」にもなります。妥協して後に教育などで苦労をした経験は、皆さんありませんか。

「違う、そうではない!」教育体制

(筆者撮影)

この写真の2つ並んだデザートは、先日あるカフェで食後に運ばれてきたデザートです(もう船員を例にしなくてもいいですね笑)。皆さんどう思われますか?同じメニューを注文して運ばれてきたものです。片方の大きさが半分くらいで、しかも倒れており、飾られたミントも落ちています、、、。たしかに注文通りではありますが、ただデザートを出せばいい、という問題ではないと思いませんか。

さて、こうしたことは医療の現場でも起こります。業務内容だけでなく、ビジョンや思いをスタッフにどう伝えていくか、教えていくか。それこそが人の定着や教育に頭を抱えている方の、悩みの本質だと思います。こうした悩みの本質は、驚くほど認識されていません。だから、「違う、そうではない!」と叫びたくなるような教育体制がさまざまな病院に残っています。私はそれを前職の病院でも、現在のいくつかのクライアント先でも改善させてきました。詳しい方法は次回に譲りたいと思います。

今回は、開設を控えた訪問看護ステーションの看護師さんの採用面接時で、私も実感した「恐れるな、“ビジョン”や思いはしっかり伝えよ」という出来事を紹介しました。

「令和」という新しい時代も幕開けし、私自身もこれから他にも新しい病院の職員さんとの出会いや新規コンテンツの立ち上げ控えており、新たな関係性の広がりを感じていて、とてもワクワクしています。そこに働く人が、お会いした目の前にいる方がHappyになるために、そうすればその先の患者さん達がHappyになることを信じて、私は明日もクライアント先に向かいます!

【読者の皆さまからのご質問をお預かりしています】
連載で取り上げるテーマの他にも、みなさんの「今」のお悩みについてもいっしょに考えていきたいと思っています。「事務長の~」というタイトルではございますが、お役職問わず、お気軽にお問い合わせください。ご質問はコチラから。

<編集:塚田大輔>

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