元看護師トレーナーが語る、イキイキとした組織のつくり方―組織力アップトレーナー 上村久子氏

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職員に活気がない、職種間の連携がぎくしゃくしている――。そして組織活性を促そうと取り組んでいるのに、なかなかうまくいかない医療機関も少なくありません。このような課題に向き合い、医療機関での組織力アップに尽力しているのが、看護師・保健師であり、“組織力アップトレーナー”でもある上村久子氏です。これまで上村氏は、総合病院に勤務する傍ら大学院で人事組織論を研究した後、医療系コンサルティング会社で経営改善や組織活性に携わってきました。今回は、病院の組織力アップ法について伺いました。

「病院はなぜ人の心を大切にしにくい組織なのか」

―2018年現在、医療業界はよりいっそうの組織活性が叫ばれていると感じますが、思うようにいかない病院もあるようです。なぜなのでしょうか。

これまでの病院人事は、採用や技術的な教育がメインになっているのが特徴でした。研修では専門職としての技術を磨くことには力を入れていても、人としての成長やメンタルヘルスの管理は個人に委ねられてきたのです。つまり、組織が人を大切にするという文化が希薄なのが現実でした。

一方で、個々の医療職にも原因はあります。医療職は企業で働く方々に比べて就職先の選択肢が限られており、「自分が何のために働くのか」といったことを考え抜く機会が少なくなりがちです。さらに病気を治すという仕事柄、悪いところを見つけるのが得意になっていく。この「悪いところを探す」という視点は医療者として当然なのですが、多忙を極めると、ともに働く仲間や自分が働く病院に対しても批判的になり、雰囲気も悪くなってしまうことが多いと感じています。自分もその一員であるにも関わらず、です。

でも、医療職の根本には「人の役に立ちたい」という思いがあるはずで、そういった意味では、どの病院にも活性化できる素地はあると信じています。

―上村さんは看護師の勤務経験もありますが、医療現場ではどのような課題を感じていたのでしょうか。

小さい頃から身体が弱かったため「人の役に立ちたい」「白衣の天使になりたい」と思ってこの道に進みましたが、思ったよりも現場は忙しく、良い精神状態を保つことは難しいと感じました。「なぜ病院や医療者は、みんなでたのしく働こうと思わないのだろう?なぜ人の心を大切にしないのだろう?」と疑問に感じていたのです。

―その頃から組織というものに興味を持ち始めたと。

病院組織を変革する必要性を感じたのは、学生時代のある経験がきっかけでした。それは看護助手時代、看護師長が若手の医師に「患者の◯◯さんのことなら全部、上村さんに聞いたらいいよ」と言っているのを聞いてしまったこと。確かにわたしはその患者さんと良好な関係を築けていたのですが、医療者なら資格を持たない助手ではなく、患者さんから確実な情報収集を行った方がいいのではないかと愕然としました。何も思わずに、または良かれと思っての一言だと思います。ただ、患者さんのことを考え、自分の役割を考えられる環境であれば、こんな発想にはならないはず。それが組織を変えなければいけないと感じ始めたきっかけです。

そのためにわたし自身で何ができるか考えたとき、根本から学び直さなければならないと思い、現場で働きつつ大学院で組織論を学ぶようになりました。

いいところを更によく。病院に「たのしい」を持ち込む

―現場の多忙ぶりや病院組織のあり方に疑問を感じていたと。そのような背景を踏まえ、上村さんが研修を行うとき、まずはどんなことを呼びかけていますか。

「たのしく働きましょう」と伝えています。はじめにこの話をすると「人の命を預かる場で不謹慎だ」と言われることもありますが、そもそも「たのしい」には「楽」と「愉」、2つの漢字が当てはまります。ここでわたしが当てはめたいのは「愉しい」という字。この言葉は、心を表す“りっしんべん”に、右のつくりはツボを表しています。つまり、心のツボを押すこと。この漢字の成り立ちは大学院で師事した花田光代教授から教えていただきました。

仕事はたのしいことだけでなく、つらいこともあると思います。でも、仕事を終えたときや何かをやり遂げたときには気持ちいいと感じることがある。そういった意味で、仕事はマッサージのツボ押しと似ているのではないかと思っています。

実際、わたしが大学院時代、ある病院で研修の講師を務めたときに「フィッシュ哲学」の考え方をお伝えしたところ、人間関係を理由とした退職がゼロになったと伺いました。多くの研修の成果は一過性だと思うのですが、それから10年以上経った今なお、フィッシュ哲学の文化が根付いています。うまくツボを押すことで、組織は変われると実感した体験でした。もちろん、ツボを押したのは組織の皆様で、わたしはツボを押すお手伝いをしたまでです。

※「フィッシュ哲学」とは…
アメリカ西海岸・シアトルの魚市場がもとになった概念。お客さんを楽しませるため、さらには自分たちも楽しむために、お客さんから注文が入ったら魚を投げるというパフォーマンスを実施。「仕事を楽しむ」(Play)、「人を喜ばせる」(Make Their Day)、「注意を向ける」(Be There)、「態度を選ぶ」(Choose Your Attitude)という4つの行動原理を導入した概念。

組織活性、成功のカギは?

―上村さんは現在、どのようなテーマ、スタイルで組織活性を試みているのでしょうか。

「表情力」「モチベーション」「コミュニケーション」「メンタルヘルス」といった4つの切り口で、1~2カ月に1度訪問しながらグループワーク型の研修を行っています。

グループワークの内容は、わたしが大学院時代にヒアリングした実例や現場で経験したこと、お客様や友人である医療者からの実話をベースに、ケースワークを行っています。訪問先の病院であった実際のケースを取り上げれば課題解決と組織活性が一度にできていいと感じるかもしれませんが、利害関係を気にして本音の議論ができない可能性が高い。一方、第三者のケースなら利害関係がありません。とはいえ、知らず知らずのうちに自院のケースを想像しながら話す人が出てくるので、思わぬ本音が出ることもあります。

― 一見すると、こういった研修は多くの病院ですでに実施しているようにも感じます。それでも上村さんのもとにご相談が来るのはなぜでしょうか。

おっしゃる通り、すでに課題意識を持っている医療機関はこの類の研修をしています。それでも解決していないのは、継続していないから。わたしは時々「わかっていてやらないのは犯罪に等しい」と強調するのですが、そう思うくらいの本気度と決意が必要です。

とはいえ、続けたからといってすぐに組織が活性し、病院収益も上昇し、とはならないのが組織の難しいところ。意図せずとも患者さんとのトラブルが起こったり、診療報酬制度が変わったり、といった変化の波がありえます。ただ、そうした波は長期的視野で見ると小さなもの。最終的に均したときに右肩あがりになるよう、長い目で取り組んでいけばいいのです。わたしがサポートしている医療機関や企業も、その点を納得してくれていると組織活性に成功しています。

―組織活性でネックになりがちなのが、非協力的な“抵抗勢力”の存在かと思います。

組織活性の鉄則は悪いところを改善しようとするよりも、いいところを更によくするように取り組むこと。最初は少人数でも、コミュニケーションが活発になって関係性が良くなればいいんです。その方々が太陽のようになって、良い関係の輪が広がることが大事なのです。

ある病院では臨床検査技師長がキーマンとなり、職員同士の交流が生まれた例があります。そこは建物が古い病院で、大人数で集まれる場所がなく、職員間の雰囲気も閉鎖的だったのですが、はじめはその方が中心となって食事会を開くことからスタート。しかし、回を重ねるごとに、ご家庭の事情などでどうしても集まれない人がいることに気付きました。そこで、病院にあった空き部屋を使ってカレーを振る舞うなど、さまざまな関わり方が生まれたのです。当然、それだけで職員全員の関係性がすぐに良くなるわけではありませんが、輪が広がった良い例だと思います。その臨床検査技師長は「このような取り組みを通して人と(イベントの告知等で)自然に関わる機会が増えました。わたしだけではなく職員同士で挨拶をする人が増えたと感じます」とおっしゃっていました。

他の病院では、もともと看護師だけで行っていたベッドコントロールを多職種で行うようになったり、薬剤指導や栄養指導を1部門で完結させずに周囲に共有したりするようになるなどの効果が表れています。

このように職員間のコミュニケーションが活性化してくると、不思議なくらいに病院の売上も上がっていきます。わたしは過去に、経営支援や診療報酬などのコンサルティングもしてきましたが、結局、組織がぎくしゃくしていると良い医療は提供できないし、算定できるものも算定できないんです。

組織活性の第一歩は「挨拶」から

―上村さんが思う、活性化している組織の特徴は何でしょうか。

気持ちのよい挨拶ができているかだと思います。拍子抜けするかもしれませんが、組織活性にコミュニケーションは不可欠で、その基本は挨拶だと考えています。案外、職員全員がしっかり挨拶できている病院は少ないかもしれません。しかし、挨拶をしない職員が活発に動いて医療提供している姿を想像できるでしょうか。逆に、組織活性に本気の病院では、病床規模にかかわらず、理事長や院長が積極的に挨拶をしていますね。

―すごく当たり前のことなのですね。ちなみに挨拶ができるようになったら、次の段階でやるべきことは何でしょうか。

会話中に目をあわせたり、名前を入れたり、一言加えたりしていきましょう。組織がぎくしゃくするのはコミュニケーションのきっかけがないことが大きいので、その土台さえ作ることができれば大きく変わっていくと思います。

さらに、自身のコミュニケーションの癖に気がつけるといいかもしれません。過去にわたしがお手伝いした例では、ある事務長さんは第一声に「いや」「でも」「だって」といった否定の言葉を使ってしまう癖があると気付いたり、ある医師は自分の意見を言うときに、相手の事情を考慮せずに押し付けるように伝えていたことに気付いたりすることがありました。これらは自分自身で気付くのは難しいかも知れませんが、そんなときは日頃から接している方に聞いてしまうのもいいでしょう。人間の癖はそうすぐには変えられませんが、意識することが変化のための最初の一歩になります。

―最後に、病院で働く医療職へのメッセージをお願いいたします。

今は保険制度のしくみが変わったり、統合再編が進んだりしている病院経営の過渡期。病院の雰囲気次第で、患者さんの質も変わり、地域の信頼が得られるかどうかが問われるのではないでしょうか。そのため院内に活気がないと思うのであれば、まずは笑顔で気持ちのいい挨拶を続けることから始めてみてほしいと思います。相手を変えることはできませんので、まずは自分から。意外と振り返ってみると挨拶も奥が深いものですよ!

<取材・文:小野茉奈佳、写真:塚田大輔>

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