病院広報の費用対効果―病院マーケティング新時代(3)

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本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がオムニバス形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。

広報は予算ありきで考えるのか、投資として考えるのか

著者:小山晃英(こやま・てるひで)/病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director
京都府立医科大学 地域保健医療疫学
京都府立医科大学附属脳・血管系老化研究センター 社会医学・人文科学部門

広報とその効果測定に関しては、2つのカテゴリーで考えられます。1つ目は個々の広報活動と具体的な成果に関するもの。プロセスとアウトカムの関係で、メディア掲載数や暴露人数などです。2つ目は組織の目標に、どれだけ貢献したかというもの。集患人数や紹介患者数、求人応募者数などです。

広報における2つの効果測定
(1)個々の広報活動と、具体的な成果に関するもの(メディア掲載数など)
(2)組織の目標に、どれだけ貢献したか(紹介患者数、求人応募者数など)

どのようにベンチマークするかなど、各論を記すことは譲りますが、どの医院であろうといずれも最初に現状把握し、それぞれの広報活動を観察することから始めなければなりません。その際、上記2つの観点から費用対効果を予測することになります。つまり、投資した額にどれだけのリターンがあるのか、ということになります。ここで私がお伝えしたいことは、広報予算の掛け方に対する考え方です。

たとえば広報予算をゼロにすれば、現在の広報予算をそのまま他に回すことができます。特に保険診療の場合、何にも投資しないことは支出減になりますので、近視眼的には収益をあげることに繋がります。これは合理的でしょうか。経営の観点からは、費用をかけたからには費用を上回る成果を得たいと思うのが世の常でしょう。しかし、広報は院内の業務改善でも医療行為でもありません。投資したからといってすぐに効果が出るものではありません。さらには、正しい指標を定めない限り、広報費用の効果を計ることにミスリードする可能性があります。

広報は投資対象として魅力的

近年、医療法人が増加し続けている一方で、地域医療構想が進み、病床数は減少しています。(図1.医療法人数と病床数の推移、厚生労働省より)この状況で、「自院は広報の必要がない」と言い切れる病院は限りなくゼロに近いものです。存在の認知は、コミュニケーションのファーストステップです。コミュニケーションには継続的な接触が欠かせないため、病院広報は未来への投資とも言えるわけです。医療広告ガイドラインに則った広報であれば、炎上することはありませんので、広報はリスクがない投資になります。

多くの医院は予算ありきの広報活動となっていますが、費用対効果で考えれば、必要不可欠かつリスクのない投資である広報には、非常に魅力があります。もちろんむやみに広報に予算をかけるわけではなく、効率よく情報発信するために戦略をたてる必要はあります。しかし、「広報予算は最低限で良い」や「コスト削減の第一候補」といった認識で取り組むべきではないでしょう。

集患?求人?webブランディングから分かってきた病院広報の費用対効果

著者:竹田陽介(たけだ・ようすけ)/病院マーケティングサミットJAPAN President
株式会社Vitaly 代表取締役

「病院広報の重要性」は今や多くの病院関係者の共通認識となってきましたが、限られた予算の中で広報にどこまで「ヒト、モノ、カネ」のリソースを費やすべきかは非常に悩ましいところです。本稿では病院webブランディングにおける集患・求人の費用対効果について、目安をお示しします。それが病院経営層や広報担当者の皆様の参考になれば幸いです。

従来、病院広報においては広報施策にかかる費用とそれがもたらす便益の因果関係がファジーであり、費用対効果を定量的に議論することが難しいと言われていました。しかし最近では、webユーザー行動分析と実際の集患・求人指標の推移を擦り合わせることにより、webブランディング施策の費用対効果を少しずつ数値化できるようになってきています。

集患から考える病院webブランディングの費用対効果

病院広報として集患を重視したwebブランディングを図る場合、年間費用は約100~600万円と考えられ、メインとなる集患効果は専門診療への外来患者数の増加(セカンドオピニオンや開業医からの紹介)です。集患効果の期待値として、webブランディング介入から6ヶ月後の時点で月間新患数が10-30%の増加を認めれば十分な成功と言えます(外科症例の新患数が増加すれば病院経営的にも大きなインパクト)。

実際のwebブランディングにおいてユーザーの行動変容(セカンドオピニオンや開業医からの紹介)に最も寄与するwebコンテンツは「自院医師による専門診療の紹介、患者・紹介元へのメッセージ」です。しかし、やみくもに業者に任せてwebコンテンツを量産するのは良策とは言えません。

webブランディングによる集患効果は、webコンテンツとして紹介する疾患の有病率や自院の診療アクティビティなどに左右されますので、「希少疾患」や「自院の診療実績が乏しい」場合は効果が減少します。逆に言えば「よくある疾患」で「自院が地域有数の診療実績をもつ」場合は効果が増大します(都市部という立地や、患者の治療意識が高い疾患なども効果を増大する要因)。病院広報担当者は地域医療の実態を踏まえた上で、「自院のウリとなる専門診療」にフォーカスした集患webブランディングに取り組む必要があります。

求人から考える病院webブランディングの費用対効果

求人を目的とした病院webブランディングは「医師」、「看護師」、「その他」の3つに分けて考える必要があります。多くの病院では「医師」、「看護師」のどちらかもしくは両方を求人強化のターゲットとしており、求人webブランディング全体の年間費用は約200~500万円(紹介会社の仲介手数料は除く)です。採用応募者数が成果指標となり、webブランディングによる求人効果は、年度単位もしくは月間平均の採用応募者数で20-60%の増加を期待できます。

集患と比べ期待値が高く、webユーザー行動分析を元に高い精度でコンテンツを最適化できるのが、求人を目的とした病院webブランディングの魅力です。もちろん集患と同様、採用候補者の地域分布や自院の診療アクティビティなどに効果の程度は影響されますが、求人効果はローコスト&ハイリターンと言えます。なぜなら、病院求人の実際において、少なくない病院が紹介会社に多額の仲介手数料(年間数百万〜数千万円)を支払っており、webブランディングを通じて直接の採用応募が増加することで仲介手数料のコスト削減になりうるからです。

求人webブランディングにおいてユーザーの行動変容(問い合わせ、採用応募)に最も寄与するwebコンテンツは「自院職員による教育・研修内容の説明、実務や現場風景の紹介」です。

病院求人の分野では、webブランディングが高い確度で成果につながり、かつ費用対効果にも優れています。特に毎年多くの職員の入れ替わり(医師、看護師が数十人単位など)のある大規模な病院ほど、人事面にも費用面にも大きなインパクトを与える広報施策として、webブランディングの効果が期待できます。

施策別にコンバージョン(受診契機)を求めるべからず。

著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課

「松本ってさ、Facebookとか運用しているけど、それで患者さんは何人増えたんかね!?」っていう声がたまに聞こえてきますね。割と大きめで(笑)。気の小さい平社員なので反論もしませんが(笑)。

私は一つひとつのツールにコンバージョン(ここでは商品やサービスの購入契機と捉えましょう)を求めるのは意味がないと思っています。
なぜならブランディングとはタッチポイントにおけるユニークな連想の積み重ねであり、情報が溢れた現代では複雑なカスタマージャーニー(サービス購入までに触れたタッチポイントの時系列)が存在します。
例えば車を買う際に、「私は試乗だけで決めた」「私はパンフレットだけ見て決めた」「私はwebだけ見て決めた」「私は友人のススメだけで決めた」という人、いますかね?? いませんよね。誰しもが幾つかのタッチポイントに接触しているはずです。これは病院業界でも同じです。

指標にはリーチ数とコミュニケーションの質

タッチポイントの話を踏まえると、効果を測る指標は、初診紹介患者数や新入院患者数とするよりも、リーチ数(情報に触れた人の数)とコミュニケーションの質にすると取り組みやすいです。しかし、リーチ数は数値化できますが、コミュニケーションの質を数値化するのは難しいかと思います。
たとえばYoutubeを利用した動画の施策は再生率やwebでの滞在時間数などで見える化できますが、Face to Faceのコミュニケーションだと数値化できない部分もあります。ただ色々な施策に取り組んでいると肌で感じられるようになります。感覚的なコメントで申し訳ないですが、私も先生方もこの感覚を共有しています。特に当院では院長が色々な施策に参加しているので、院長自身も同じ感覚をお持ちだと思います。この感覚は「どうやったら少しでも当院を好きになってもらえるだろうか」と創意工夫を重ねることで、身につけられるものです。
もちろん、web分析ツールや競合調査による分析、市民公開講座・初診紹介患者・医療連携機関(それぞれ年間5,000名参加、年間750名回収、隔年430施設回収)への調査も続けていますので、データもきちんと見た上での肌感覚ではありますが。

最終的に、結果として新入院患者数を確認します。ツール別に患者数を求めるべきでないとは言いましたが、広報全体の効果として患者数が増えているかどうかは重要です。
なぜなら、私みたいに医療機関でマーケティングの仕事をしている人は絶対に集患から逃げてはダメだと思うからです。社会的インフラとして病気や怪我で困った生活者を助けるのが病院の社会的役割ですから、より多くの人を救えた方がいいですよね。患者から選ばれないけど広報として社会の役に立っているという姿勢なのであれば、自身で会社を立ち上げて社会の役に立った方がいいと思います。
組織は働く職員が豊かに生きていくために必要な場所でもありますが、何のために自院が存在しているのかを忘れてはいけません。

小さな積み重ねが結果につながる

最後にツールは多々ありますが、これだけやれば大丈夫というものは存在しません。
院内で「ホームページはいろいろな人が見るので効果はあると思うけど、SNSとかLINE@とか患者年齢層(高齢者)は見てないだろ。効果は薄いんじゃないの!?」という意見もいただきました。確かにそうかもしれません。ホームページの利用率は高いです。でも、ホームページはどこの病院でもありますよね。広報誌もだいたいどこの病院もありますよね。

そこから他院との差別化を図るためには、小さな積み重ねを繰り返してリーチ数を増やしていくしかないのです。もしも一発で大きな効果を出せるツールがあったら、誰かが使っていることでしょう。生活者のうちSNSやLINEをやっている数%、講座に参加してくれた数%、テレビを見てくれた数%、こういったものをできるだけ積み重ねて差別化を図ることが、結果を違ったものするのです。

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