院長が失敗から学んだ理念の重要性―医師への選択、医師の選択【第32回】

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著者:野末睦(あい太田クリニック院長)

 

身をもって知る、理念が理念たる理由

わたしが庄内余目病院に就職して、間もないころ、外来をやっていると、腰の曲がったおばあちゃんが、袋に入ったものをわたしに差し出しました。「これは何ですか?」と尋ねると、「岩海苔だよ。わたしがとったんだ」と。徳洲会の理念に「患者様からの贈り物は一切受け取らない」というものがあり、それを知ってはいたのですが、自分で採った岩のりをくださる、その心がうれしくて、わたしは何のためらいもなくその袋を受け取りました。そしてそれを診察机の引き出しにしまって、忘れてしまったのです。

しばらく経って、引き出しからそれを見つけた看護師さんが、「先生、ここに岩海苔が入っているけど、先生のもの?」と尋ねました。はっと気づいたわたしに、その看護師さんが、岩海苔とは寒い日本海の岩場で、主に女性が足に冷たい海水を浴びながら採るもので、ここ庄内の冬の名物料理「寒鱈汁」の上に「ささっと」かけて食べるとその旨みが引き立つものだということ― きっとその患者さんが大変な思いをして採ったもので、想いが詰まっていること― などを教えてくれました。わたしはそのような説明を聞いて、やっとその岩海苔のありがたさに気づいて、とても申し訳ない思いにとらわれました。

大学時代からの変化

それと同時に、その岩海苔をいただいた時とは違った感情が湧き上がってきたのです。それは、「もらうべきではなかった」という気持ちです。筑波大学から庄内余目病院に移ったばかりのころは、患者さんからの贈り物に関して、ほとんど抵抗がありませんでした。なぜなら大学では、時々受け取っていたからです。患者さんからのお礼を受け取る“言い訳”として、大学の給料が、他の病院の同年代の医師よりかなり低かったこと。そして、自宅の電話番号を患者さんに伝えていたことを考えていました。当時は携帯電話などなかったですから、このようなサービスをすることが、患者さんの安心につながっていたことは確かです。でも、余目に来て、もらわない習慣が半年も続いて、その岩海苔を見た時に、もらわなければよかったなと感じたのです。

それから10年以上、現在でも患者さんからの贈り物をいただくことはありませんが、とてもすっきりした気持ちです。徳洲会に入った当時は、少し違和感のあった「患者さんからの贈り物は一切受け取らない」という理念は、思っていた以上に大事なものだと感じています。そして、このような理念は、職員全員で共有して、実践していくことがとても大事だと強く思います。

「あなたは勤務先の理念について重要だと思いますか?」への私的結論

組織の理念を確立し、それを職員全体で共有し、実践していくことが、その組織のパワーとなります。理念を建前としてしまうと、力は出ません。リーダー自身の実践する姿が、理念の確立に結びつきます。

≫次回に続きます≪

野末睦(のずえ・むつみ)

初期研修医が優先すべきこと2―医師への選択、医師の選択(野末睦)筑波大学医学専門学群卒。外科、創傷ケア、総合診療などの分野で臨床医として活動。約12年間にわたって庄内余目病院院長を務め、2014年10月からあい太田クリニック(群馬県太田市)院長。
著書に『外反母趾や胼胝、水虫を軽く見てはいませんか!』(オフィス蔵)『こんなふうに臨床研修病院を選んでみよう!楽しく、豊かな、キャリアを見据えて』(Kindle版)『院長のファーストステップ』(同)など。

 

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