約20年にわたる支出管理で知った「用度」の役割―第一東和会病院 行本百合子事務長【後編】

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医療材料から日用品まで、病院のコストを管理している「用度」。稼ぐよりも守るという部署柄、病院内ではあまり目立たない職種かもしれませんが、過剰支出は病院の利益圧縮につながるため、病院経営の鍵を握る存在と言っても過言ではありません。今回は薬剤部と用度課で20年以上にわたってコスト管理を経験した医療法人東和会 第一東和会病院(大阪府高槻市、243床)の行本百合子事務長に、用度担当者の役割や仕事における心がけについて聞きました。

支出管理のポイントは「見込み収入」

―薬剤部や用度課など、病院の支出管理経験が20年ほどある行本さん。改めて用度担当者の役割について教えてください。

病院によって数値は多少異なるでしょうが、医療材料の支出が全収入の10%以内に収まるように購入・管理することです。この目標を決めずにいると支出割合が15~20%になり、全体収益の圧縮につながってしまいます。薬剤部でも支出割合が全収入の10%以内になるようにしていましたが、薬剤は処方箋に沿って、保険請求である程度カバーできる特徴があります。一方、用度が扱う医療材料は保険請求がほぼできませんから、ここを効率的・適切に運営することが病院経営を左右すると言っても過言ではありません。

ただ、病院は患者さんを中心に回っています。そのため、用度担当者はコスト管理ばかりを優先するのではなく、「どういう医療材料・医療機器を提供したら患者さんが喜ぶか」という意識を忘れないでほしいと思います。こうした意識のもと、患者さんからのクレームがない、医療現場で不具合や医療事故を起こさない、という院内安全を守るのも大切な役割です。

―医療材料の支出を全収入の10%以内に収めるために、担当者が心がけるべきことは何でしょうか。

支出を考えるときは見込み収入を押さえておくことと、医療材料を必要以上に買わない・置かないということです。

まず、収入部分は医師と合意をとったほうがいいでしょう。ただ、材料1つ1つにルールを決めるとお互い窮屈になるので、最低限の手術件数だけ押さえておけばいいと思います。現在は私が事務長なのもありますが、当院なら腹腔鏡手術を少なくとも60件、整形外科手術を100件以上、眼科手術は160件以上などと決めているので、必然的に1カ月あたりの見込み収入がわかります。その見込み収入に基づいて支出を管理し、締め日に想定の数値と乖離していれば、黒字か赤字かに関わらず、その原因まで明らかにして感覚を磨き続けることが大切です。

コミュニケーションは努力次第

―支出を確実にコントロールするためには院内でのコミュニケーションが欠かせないということですね。ただ、医師と話す場合、対等に話せるようになるまでは時間がかかるのではないでしょうか。

確かに時間はかかりますが、努力次第だと思います。私は淀川キリスト教病院で約150人の医師と関係性を築いた経験があったので、就職時に当院にいた約30人の医師ともすぐにコミュニケーションがとれるだろうと思っていました。しかし、蓋を開けてみれば全員と意思疎通ができるようになるまで1年かかりました。医師の中にもよそ者には警戒して教えない、人柄がわかるまで心を開かない人がいます。そんな中でもコミュニケーションをとろうと、事務職から働きかけ続けることが大切ではないでしょうか。

―具体的にはどのような努力が必要でしょうか。

たとえ先生に近寄りがたくても「教えてください、何でもやります」という姿勢を示すことです。とはいえ、中には素直に教えてくれない人もいるでしょう。そんな時は近くに行って様子を見せてもらい、気付いたことを質問するところから始めたらいいと思います。

あとはひたすら勉強でしょうか。私が用度担当になった頃は医療材料に関する書籍がほとんどありませんでしたが、今では書籍、インターネットともに情報がいくらでもある。私は書籍がない中でも、手術室の見学前は手術の漫画本を読んで手順等を予習して臨んでいました。そうやって自分の引き出しを増やす努力を怠らなければ、先生からふと悩みを相談された時に、「それならこんな材料があるので試してみてはどうでしょう」といった提案ができるようになると思います。

―他方、院外の各業者とも折衝が必要だと思いますが、そこで気を付けたほうがいいことは何でしょうか。

お金の話ばかりしないことです。もちろん価格交渉は重要なのですが、そればかりだとお互いに気まずくなるので、「こういう時、今よりも安い費用でできる医療材料を紹介いただければ先生におつなぎします。そこで好評なら採用します」というようなお話をしていました。

あとは日常的に医師と話したり、臨床現場を観察したりしていれば、「こんな時にこんな医療材料があったらいいのに」という気付きが生まれることもあります。ある意味、医療現場とメーカーの橋渡しを担うのも用度担当者の役割だと思うので、そのためには先ほども申し上げた通り、医療に関する勉強を続けることが大切です。

自ら気付くから、職員が育つ

―最後に、用度担当者を育成するにあたり、どのような仕組みがあるといいでしょうか。

本来は医事、用度、施設管理といった他部署をジョブローテーションするのが理想ですが、人員の関係でできないのであれば、少なくとも1つの部署内でローテーションする体制を整えることをおすすめします。当院の場合、用度は発注・締めの担当、病棟担当、手術担当と分けていて、この3カ所をマスターすれば一人前になれるようになっています。

この体制を築くには、はじめからジョブローテーションがあることを職員に伝えておいたほうがいいでしょう。それは職員に「私は仕事ができないから異動になった」と誤解させないため。人によって業務内容の合う・合わないはありますし、実際にくすぶっていた人が、異動したら目をキラキラさせて働く姿を何度も目にしてきました。

そして、ローテーション中は上司から指示するだけでなく、部下自らが課題に気付けるような仕組みを取り入れてほしいです。私が用度職員によく出す宿題は、当院の医療材料がどこに、どのくらい、どのような種類があるのかを分類して樹形図を書くこと。これをやると職員が自ら気付き、喜んで取り組んでくれます。このように、病院事務の仕事は楽しいと思ってもらえる環境をつくることも、事務長として力を入れていきたいと思います。

<取材・写真:浅見祐樹、文・編集:小野茉奈佳>

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