全国1位の分娩数を支える医師たちの働き方―福田病院 理事長・院長インタビュー(前編)

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産科医・産婦人科医(以下、産科医)の不足を主因に、全国各地の産科が縮小・閉鎖に追い込まれる中、産婦人科メインの福田病院(熊本市、161床)には医師が常勤換算32.7人(常勤29人)も集まっています。そのマンパワーを背景に分娩数は年々増え、日本一にも。
引く手数多の産科医たちは、医師全般に人気の大都市で勤務することも容易なはず。なぜ、産婦人科医たちは福田病院に集まるのでしょうか。また、女性医師の多い産婦人科領域で、日本一の分娩数を支えるマネジメント体制とはどんなものなのでしょうか。河上祥一院長にお話を伺いました。

厳しい産科医療の現状

産科医療を取り巻く状況は厳しく、24時間体制を強いられる環境や、いわゆる大野事件(2006年逮捕)に代表される訴訟リスクの高さなどから、産科医・産婦人科医が2006年までの10年間で1割も減少。その後の10年間で人数こそ以前の水準に戻りましたが、医師全体に占める人数割合は年々悪化しています。そして2017年には、日本産婦人科医会が待遇改善の提言を発表するなど、予断を許さない状況は続いています。

福田病院のある熊本県も苦境にあることは変わらず、産科医養成の観点から見ると、県内唯一の医学部は定員100名強。仮に同数が県内で勤務するとしても、産婦人科を希望する研修医は約4%(※)のため、年間4名程度しか産婦人科医が養成されない計算です。
※「平成29年臨床研修修了者アンケート調査結果概要」(厚労省)を元に計算

「平成28年 医師・歯科医師・薬剤師調査」(厚生労働省)を元に作成

「世のために」を基本姿勢に 半年だけの“修行”も受け入れる


―貴院には多くの産科医・産婦人科医が集まっています。他院と何が違うのでしょうか。

河上祥一院長
社会貢献と働きやすさの面で特徴があると思います。

社会貢献は、患者さん対象のものを数多く行っているのですが、医師に向けては短期受け入れをしています。国境なき医師団(MSF)に参加したい医師を、半年や1年で受け入れているのです。海外派遣先に産科医がいるとは限りませんから、産科以外の医師が、帝王切開や麻酔のスキルを学びに来ています。当院は麻酔科専門医が2名いますし、他院だと麻酔科と産婦人科で縦割りのこともありますが、当院では横断的に学べる環境を用意しています。手術数が多い中で周産期に特化した麻酔科に触れられますから、1年もいれば、帝王切開に必要な麻酔と執刀の技術を、必要最低限は習得できます。

―該当するような医師は多くないでしょうが、医師の想いを後押しする姿勢は、他の勤務医から好意的に受け取られそうですね。

そうですね。わたし達は「世のために」と思って活動していますし、同じ想いの方がいるのなら、それは応援すべきだと思うのです。

グループ診療が働きやすさのカギ

―もう一つの特徴「働きやすさ」は、いかがでしょうか。

勤務医からの評判が良いのが、当直明けが休日になることと、1週間の休暇です。当院の業務は大変ではないとは言いませんが、人数がいるため、一般的な産婦人科に比べると休みやすい環境になっているのではないかと思います。

わたしが言いたいのは、質の高い医療を提供するためには、休みをとることも大事だということです。オンオフがはっきりしないと、ストレスを抱えていき、力量のある人が抜けていってしまう。だから病院上層部は、働きやすさにも目を向ける必要があります。
私もなるべく率先して、1週間休暇などを取得するようにしています。上司が働きすぎると、部下は休みにくいですから。

―以前とは働き方に対する価値観が変わってきていますが、河上院長ご自身はいかがですか 。

働き方については、研修医時代の経験が心に残っています。当時の部長が“残業は美徳ではない”という信条の方で、「研修医は定時に帰りなさい」と、よく言われたん ですよ。もちろん夜の呼び出しはあるわけですが、それは必要があるから。忙しいと思っていても案外、その時間にしなくていいことをダラダラしたりして、ムダな時間の使い方をしていることもあります。今この瞬間、自分が何をすべきかを考えることが大事なのだと思います。

―貴院は予約を受け付けておらず、突発的な対応も多いと思います。人数がいるとはいえ、休みやすさをどのように実現しているのでしょうか。

グループ診療を10年ほど前から採用していて、わたし達の働き方のベースになっています。具体的 には、医師をリーダークラス、専門医、研修医の3層に分け、一部の層に偏らないようにグループ分けにする方式です。当直も原則2~3名で担当し、主治医と他2名の組み合わせです。グループで対応することで、スケジュールの融通も効きますし、一人あたりの負担は減りますね。

診療面でもメリットがあります。医師も人ですから、1人で診断しているとどうしても見落としが出ます。グループで対応すれば、1人が見落としても他の医師が気付ける。
お産は病気でない方を数多く診ていくわけですが、中には何かを患っている妊婦さんもいて、そのスクリーニングが大事です。なにしろ、大病を患った方は「助からないかもしれない」と思うわけですが、お産だと「母子ともに健康で当然」という期待がありますから。見落としては一大事ですし、それが産科の訴訟リスクを高めてきたのだと思います。 その点、当院は開院以来、訴訟に至ったケースはありません。

左上から時計回りに、NICU (24床)、当直室、小児科外来、GCU(41床)で処置中の様子

―妊婦や患者は「気心の知れた医師に付きっきりで診てほしい」と思いそうですが、グループ診療に対する反応はいかがですか。

案外、気にしない方が多いですよ。帝王切開を誰に執刀してほしいか尋ねても、「誰でもいいです」という答えが返ってきます。当院はおかげさまで地域の方には知られていますし、医師個々人への信頼以上に、“福田病院”に信頼を寄せていただいているのかもしれません。

―病院一丸で対応しているわけですね。医師・スタッフ間の連携はいかがでしょうか。

その点は力を入れていて、周産期スタッフによるカンファを週3回、開催しています。医師や看護師、助産師などで、医学的な初見はもちろん、妊婦さんの経済事情や家庭事情といった社会的な側面にも目を向けるようにしています。

ほかにも、全部署で1か月間を振り返るカンファも行います。発生したトラブルなどを現場スタッフが発表していくのですが、発表者は内心、嫌だろうと思います。それでも続いているのは、改善されると分かっているから。トラブルの原因は、大体が個人由来か、ルール/システムによるものです、後者であれば病院として改善に取り掛かります。決して責めるための場ではないのです。

―お互いで補完しあうわけですね。

結局、1人だけだとベストが分からないんですよ。せっかく大勢いるわけですから、みんなで一緒に前進していく方が良い。このカンファにしろ、グループ診療にしろ、協力しあうための仕組みなんですね。

女性医師の活躍には文化づくりを


―「女性医師の活躍」が、医療界の重要テーマの一つになっています。産婦人科は女性医師が多いですが、貴院のスタンスをお聞かせください。

女性のための病院ですし、もちろん女性医師はウェルカムな姿勢です。この手の話では、出産・育児と仕事の両立が話題にのぼりやすいですが、当院では6名がお子さんをお持ちの女性医師です。皆さん、出産してからそれほど経たずに復帰する方が多いですね。

―復帰の直前や直後は「ブランクがあるのに仕事をこなせるだろうか」と不安になる、という声も聞きます。何かサポートなどはあるのでしょうか。

保育園や、小児科に併設の病児保育の存在は、復帰しやすさに繋がっていると思います。

それと、産休・育休からの復帰で大事なのは、いきなり全てを求めないことです。当院で復帰直後からフルタイム勤務することはまずありません。外来だけの勤務から始めて、徐々に当直にも入ってもらって勘を戻してもらいます。週1回、LDR(陣痛、分娩、回復に対応できる部屋)で5~10人程度を診ていくようになると、次第に勘が戻ってくるようです。

そうして復帰する医師が常にいると、出産して復帰するサイクルが生まれてきます。女性医師たちがすぐ復帰する先輩を間近に見ていて、復帰を当然のこととして受け止めるというか、イメージしやすくなるんですね。そういう文化が醸成されていることは大きいですね。

―何事も一過性で終わらせず、文化として根付くまで続けることが大事ですね。ありがとうございました。

<取材・文・写真:塚田大輔>

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