外国人患者さんの受け入れ、どうしてますか?【コミュニケーション編】─東京医科歯科大病院・二見茜氏

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外国人患者の受け入れ体制を整える中で、ネックになるのがやはり言葉の壁。特に外国人患者がそこまで多くない病院では、通訳を雇用するといった本格的な対応には踏み切りにくい側面があります。体制整備が進まない中、実際に外国人患者がきたらどうすればよいかわからない、と不安を感じる病院関係者も少なくないのではないでしょうか。東京医科歯科大学附属病院・国際医療部で、医療コーディネーターとして外国人診療のトータルサポートを行っている二見茜さんに、外国人患者とのコミュニケーションのポイントを聞きました。

医療通訳は電話・ビデオの遠隔サービスが主流

―未収金を防ぐためにも、まずは患者さんときちんとコミュニケーションをとれるよう体制を整えることが前提なんですね(詳しくは前回記事を参照)。ただ、常に医療通訳を配置するのはハードルが高いように感じますが……。

現在は、遠隔通訳サービスを利用して医療通訳を「必要なときだけ利用する」、もしくは「複数の医療機関で医療通訳を共有する」という考えが主流です。遠隔通訳サービスは24時間対応で、電話やビデオを介して通訳してもらえるサービスです。医療機関では、いつ、何語の患者が受診するかわかりませんし、入院では常時コミュニケーションが必要になります。最近はネパール語やベトナム語など多様な言語の患者さんが増えていて対応が難しくなっていますし、そもそも外国人患者の少ない病院で通訳を雇うのは不採算です。遠隔通訳サービスであれば、必要な時に必要な言語の通訳を受けることができ、とても便利です。

どの言語のニーズが高いかは地域によっても異なるので、まずは病院がある地域にどんな言葉を話す住民・観光客が多いかなど周辺情報をリサーチします。また、サービスを選ぶ際は価格よりも、通訳の質で選ぶことが大切です。医療のコミュニケーションでは専門用語が多く、間違いも許されませんから、適切な医療通訳の研修を受けた通訳者を採用している、個人情報の管理体制がしっかりしているか、もチェックした方がよいでしょう。

当院で利用している遠隔通訳サービスは、コールセンターと病院がビデオ電話でつながっています。患者さんが通訳者に症状や来院動機などを伝え、それを同時通訳してもらう仕組みです。費用は24時間使い放題で月額4万円、対応しているのは10言語です。2018年の実績では外国人患者さんの85%くらいの母国語をカバーできていました。

地域によっては、自治体や医師会が遠隔通訳サービスを団体契約し、地元の病院が無料で利用できます。たとえば沖縄県では、県内の医療機関を対象に、インバウンド医療通訳コールセンターを開設しており、電話・ビデオ通訳、医療通訳派遣、医療機関向けの外国人患者対応相談窓口(電話・メール)を利用できます。ほかに、自治体の補助金で安く医療通訳の派遣を受けられる地域もありますから、ご自身の地域で手軽に利用できそうなものがないか探してみてはいかがでしょうか。

―通訳ツールを利用する際のコツを教えてください。

つい通訳さんやツールの画面ばかり見てしまいがちですが、患者さんの方を向いて話すことが大切です。通訳しやすいようゆっくり、短く区切って、通訳をするための間を取りながら話します。もし対面の通訳を導入しているのなら、通訳してほしい内容について、情報をあらかじめ共有し目を通してきてもらえるとスムーズです。

通訳を介してのやり取りは通常の2倍以上時間がかかりますが、きちんと意思疎通しておかないと後で患者さん・家族から治療への協力を得られません。
たとえばリハビリにしても、目的が伝わっていなければ患者さんにとっては苦痛でしかありませんよね。そうすると「なぜあんな手術をしたんだ」といった不満にも繋がる可能性もあります。信頼関係を築けないまま治療を進めることは患者さんと病院、双方にリスクがあります。最悪の場合、訴訟など思わぬトラブルに発展しかねません。
通訳にかかる時間は、医療安全のためにも必要なプロセスと捉えましょう。

―患者さんが通訳できる人を連れてきた時は、その人に委ねてよいのでしょうか?

大前提として、医療通訳は命に関わるので、絶対に間違いがあってはいけません。日本語が上手な家族・知人が同行しているケースでも、医療の知識がないと誤訳のリスクがありますし、身近な人だからこそ、副作用や余命などネガティブな情報を本人に伝えない、伝えられない場合もあります。守秘義務や倫理といった観点からも、適切な教育を受けた通訳を利用するべきです。

―通訳サービス以外で、何か活用できるものはありますか。

当院では機械通訳も活用しています。「保険証を持っていますか?」「パスポートを見せてください」といった簡単な会話なら、通訳タブレットでも対応可能です。個人レベルでは、医師や看護師がスマートフォンの翻訳アプリを活用しているケースもあると思います。ただし、翻訳アプリは誤訳のリスクもあり、正確に翻訳されているか確認ができないので、診療での使用はお勧めできません。また、各種説明文書や問診票、概算医療費など基本的な書類に関しては厚生労働省のホームページで英語・中国語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語の5言語でフォーマットが公開されています。ワードデータをダウンロードすれば、自院に合わせカスタマイズできるので、こちらもぜひ利用してほしいと思います。

薬の服用に関しては「くすりのしおり」というサイトが便利です。製薬企業を中心とした一般社団法人が運営しています。製品名を入力すると英語版の処方箋もでてきますので、印刷して患者さんに渡してあげてください。日本語の処方箋しかない薬だと、海外の空港では何の薬かわからないため怪しまれて空港で没収されてしまうこともありますし、そもそも患者さんが用法・用量を誤ってしまうリスクがあります。実際に10日分の薬を一度に服用し、救急搬送されてきた患者さんもいました。英語が母語でない患者さんでも、英語表記があれば自分の国の言葉でインターネット検索ができますから、もし処方箋の印刷が難しい場合は、英語で薬品名だけでも書き添えておくとよいでしょう。

文化・宗教への対応にマニュアルはない

―文化や宗教の違いへの配慮で、留意すべき点を教えてください。

未収金や言語の壁にまつわるトラブル以外でよく耳にするのが、「文化や宗教への対応に戸惑った」という声です。知らなかったとはいえ、トラブルや訴訟に発展してしまう可能性もあり、文化や宗教に対する配慮はやはり大切です。ただ、当院ではそのためのマニュアルは作っていません。代わりに、「あなたの治療を行う上で、注意すべきことはありますか?」「食べられないものはありますか?」と、患者さんに直接聞くようにしています。

全ての文化・宗教への対応を覚えることはできません。同じ国でも文化が違うことはありますし、同じ宗教でも戒律をどこまで守るかは人によってさまざまです。ひとくくりにせず、一人ひとりのニーズをきちんと汲みとることが大切だと思います。

―すべてのニーズに対応するのは大変そうですね。

たしかに、食事への対応など限界はあると思います。その場合は、「自院でできること・できないこと」を明確にして、患者さんに相談しましょう。たとえば宗教上、男性医師の診察は受けられないという患者さんがいたとします。しかし夜間などどうしても男性医師しか対応できないという場合、その状況について患者さんに説明し、どうしたらよいか聞きましょう。人によっては「女性の看護師さん同席の上でならOK」と言うかもしれませんし、あるいは女性医師を指定できる病院へ転院するという選択肢も出てくるかもしれません。

文化・宗教への対応は個人の好き嫌いではなく“アレルギーと同様の対応”と考える必要があります。人によっては、宗教が人生そのもの。「ちょっとくらいよいだろう」と思うことでも、きちんと本人の希望を確認することが、トラブルを未然に防ぐコツです。

未収金にせよ、コミュニケーションにせよ、ツールやマニュアルを整えるだけでなくそれをどう使うか、院内に周知することが必要不可欠なんですね。【体制づくり編】では外国人患者の対応に必要な体制のつくりかたや、二見さんご自身自身の活動についても伺いました。

コミュニケーションのポイント
  1. 遠隔通訳を活用すれば低コストでコミュニケーションが可能に
  2. 時間はかかっても、プロの医療通訳を通すことが患者さんだけでなく病院・スタッフをトラブルから守ることにつながる
  3. 文化・宗教は個別性が強いため、本人にきちんと確認・相談を

<取材・写真・文:角田歩樹>

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