桜新町アーバンクリニックが、半年ごとに席替えをする理由とは?

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意欲の高いスタッフが積極的にアイデアを出し合い、業務改善に取り組む──。そんな組織のカルチャーは、どうすればつくることができるのでしょうか。多職種が集う医療機関ではピラミッド型の組織構造が根づいてきたこともあり、現場からのボトムアップが進みづらい側面も。そんな中、フラットかつ多様性を大事にしたチームづくりでスタッフの主体性や強みを引き出しているのが、桜新町アーバンクリニック(東京都世田谷区)です。たとえば、診療を効率化・標準化するためのパスづくりや看護小規模多機能型居宅介護施設の開設、地域でのイベント開催…こうした取り組みの多くはスタッフ発の企画だと言います。一人ひとりの主体性を伸ばしチームのアウトプットに結びつける秘訣を、事務長の村上典由氏、看護師の五島早苗氏、総務課の上総海人氏の三名に聞きました。

よいチームは、よい人材から。その採用基準とは

──桜新町アーバンクリニックでは、地域でのイベントやセミナー、遺族会、クラブ活動など、診療以外にも多岐にわたる活動を展開されています。いずれもスタッフのアイデアとのことですが、どうすれば個々が主体的に業務に取り組むチームをつくれるのでしょうか。

村上氏:
まずは良い人材を採用することに尽きるのではないでしょうか。イベントといったものばかりではなく、在宅緩和ケアや認知症ケアなどの追求と言った臨床的なものも含めて、当クリニックのほとんどのスタッフは、何らかのやりたいことがある人たちが集まっていると思います。

【左から五島氏、村上氏、上総氏】

面接では、地域医療や在宅医療をやりたい理由、思いのある方を採用してきました。人手不足だからといって「誰でも良いからとりあえず」と採用基準を緩めずにやってきたから、今のようなチームになれたのだと思います。

選考の方法は、これまでに色々と試行錯誤を繰り返してきましたが、今は、採用したい職種のリーダーが中心となって、院長、事務長などのメンバーとともに面接しています。

──「優れた人材」をいかに見極めるのか、なかなか難しいところかと思います。どのような採用基準を設けているのでしょうか。

五島氏:
主に見ているのは、向上心や協調性、コミュニケーション能力などです。求職者の方には実際に訪問診療に同行見学をしていただきます。その中で、ふとした時の反応などから人となりやチームとの関わり方、どのように医療に携わりたいのかという方向性など、垣間見える部分が大きいと思います。ただ、在宅医療に真摯に取り組める方であれば、基本的には「いろんな個性の方にきていただきたい」というスタンスです。

上総氏:
思いさえあれば、間口は広く受け入れています。入職後もあせらずステップアップできるよう、先輩スタッフみんなで優しく見守る風土がある。だからあまり戸惑うこともなく、比較的すんなりと当クリニックの雰囲気になじんでいく方が多いように感じます。

丁寧な発信が広報にもつながる

──採用では、クリニックの方向性や理念に共感してくれる求職者を集めることも大切かと思います。広報や、募集の段階での工夫があれば教えてください。

村上氏:
良い人材を採用するために、ブログやSNSでの発信や記念誌の作成、見学者の受け入れ、その他メディアの取材などに丁寧に対応するなど、当クリニックの情報発信には力を入れています。発信する内容についても、スタッフが日々、患者さんや地域のために取り組んでいることをベースに、私達が日々どんなことを考え、力を入れているかを発信するようにしています。様々な取り組みがあるので、発信するコンテンツに困ることはないですね。

上総氏:
また、当クリニックでは求職者に限らず、在宅医療に携わりたい、あるいは興味があるという方向けに訪問診療の同行見学やカンファレンスへの参加、短期間の研修を受け入れて、よりよい在宅医療の啓発に取り組んでいます。見学をされた方から口コミが広がって、興味を示してくださり応募につながることも少なくありません。

【上総氏】

五島氏:
そうですね。見学や研修は数日間~数か月間と、参加者の希望によっても変わりますが、「病院では想像できなかった患者さんの生活を支える医療が見れた」「在宅医療についての知識の取得と体験ができた」などと、ご好評をいただいています。

村上氏:
採用活動では紹介会社さんにも協力してもらっています。紹介会社さんに対して、心がけている点は基本的には広報活動と同じです。良い取り組みがベースにあって、あとはそれをいかに伝えるかというところだと思っています。たとえばクリニックの魅力が伝わるような求人パンフレットを作成する、求人情報をお伝えする際に、よくある質問についてQ&Aをまとめた資料を一緒にお渡しするといった具合です。こうすることで、紹介会社さん側も問い合わせなどの手間が省けるし、当クリニックのことをより知ってもらえると思っています。

高いモチベーションの秘訣は、“一緒に遊ぶ”!?

──様々な個性や経験のスタッフがいる中では、お互いの目線合わせも大切になってくるかと思います。桜新町アーバンクリニックでは研修参加や院内勉強会が活発で、学会発表にも多くのスタッフが参加されると伺いましたが、クリニックとしてはどのようなサポートをしているのでしょうか。

村上氏:
毎朝15分程度の勉強会を3年近く続けているのですが、これも、もともとはスタッフの提案から始まったことですね。医療から最近読んだ本、趣味まで幅広いテーマについて全スタッフが持ち回りでプレゼンして、年に1回は全員の投票で一番よかった回を決めるんです。
それ以外にも外部研修の受講などを経済的・時間的に支援していることもあって、互いに刺激を受ける機会は多いのではないでしょうか。

【村上氏】

五島氏:
インプットの場は多いですよね。内部での勉強会だけでなく、希望すれば外部へ研修や見学に行くことも可能です。私自身、昨年は福井県の医療機関や宮崎県の介護施設に何人かのスタッフと一緒に見学に行ってきました。中には働きながら大学に通うスタッフもいるんですよ。

誰かが「〇〇したい」と言ったことに対して、どうすれば実現できるかみんなで考え話し合おうという雰囲気があるので、自分が学びたい・やりたいことについて声をあげやすいんです。その姿がまた他のスタッフの刺激になって、チーム全体のモチベーションも高まります。もちろん、全てがうまくいくわけではなく、「やるぞ!」と決めていつのまにか立ち消えになってしまうプロジェクトもありますが…(笑)。でも、まずは「やるぞ!」と言えることが大切だと思うんですよね。

村上氏:
何かをやるときに、せっかくだから楽しもうという姿勢を大切にしています。院長を中心にみんながそれを意識しているので、それがチームの士気や一体感にもつながっているのかもしれません。なので、みんなで遊ぶことが多いですね。登山やゴルフといった部活動も盛んです。有志で富士山に登ったり、屋久島に行ったり、キャンプに行ったりしています。 “ものづくり部”というクラブもあって、クリスマスリースを作ったり、年賀状のハンコを作ったり、といった活動もしています。あそこに飾ってあるお正月飾りも、ものづくり部がつくったものなんです。

上総氏:
毎年、診療の合間に行う餅つきやお花見といった年中行事もスタッフが自発的に企画・運用していて、とても盛り上がります。職種に関係なくみんなで遊んだりすることもコミュニケーションが活発になって、チームづくりに一役買っている面もあると思います。

当クリニックでは年に2、3回席替えをするのですが、その方法が「くじ引き」なんです。院長を始め医師や看護師、ケアマネ、ソーシャルワーカー、事務…といった全職種が平等にくじを引いて、席を決めます。壁も仕切りもないワンフロアのオフィスなので業務上の支障はありません。在宅医療部のスタッフ数も30名以上と規模が大きくなっている中で、席替えが色々なスタッフとコミュニケーションを取れるいいきっかけになっています。こうした工夫も、職種間の分断やヒエラルキーが生まれにくく、それぞれの視点から意見を言いやすい空気をつくることにもつながっているのだと思います。

組織が大きくなっても、チームで同じ方向を向くために

──コミュニケーションの取りやすさが、学びや主体性にも結びついているんですね。メンバー間で意見の相違が起きたときはどのように解決されていますか。

五島氏:
相手の意見を否定せず建設的に話し合う文化が根付いているので、対立が生まれる場面自体、そこまで多くはないと思います。また、もしメンバー間ですれ違いが生まれても、誰かしらがそっと間に入って修復しますね。チーム愛の強いスタッフが多いので、自然治癒力は高いと思います。

【五島氏】

村上氏:
“患者さん本位”という方向性はみんな一緒なので、多少意見の食い違いが出たとしても、どこかで良い答えが出せると思っています。

たとえば、当クリニックでは看護小規模多機能型居宅介護(※)のサービスを提供するため「ナースケア・リビング世田谷中町」を2017年に開設したり、世田谷区の認知症施策全般を請け負う「認知症在宅生活サポート事業」を2018年に開始したりしてきました。新たな試みだったことや、情報共有がしっかりできていなかったこともあり、クリニック内で意見が分かれる場面も。でも、その取り組みがよりよい医療の実現につながるなら、きちんと情報共有さえすれば、協力関係は築けるんです。

(※)…2012年にできた新しい地域密着型サービス。ひとつの事業所が一連の介護サービス(訪問介護・訪問看護・リハビリ・通い・泊まり・ケアプラン作成)をまとめて提供することで、利用者の在宅での生活を支援する。

──ここまでお話を伺って、文化・価値観を土台にした採用→自分の「やりたい」を実現できる環境で活躍→定着→個々の取り組みがまた新たな人材を呼ぶきっかけに…と良いサイクルが生まれていることがよくわかりました。最後に、今後の課題について教えてください。

上総氏:
これまでは年間で4~5名を採用していたのに対し、ここ2年ほどは年間15~20名と急激に増えました。事業所数も増えて、組織も拡大していますので、以前の仕組みのままだと組織運営がうまくいかない場面も出てきています。

五島氏:
これまで、クレドのような理念や行動指針を明文化したものはなかったし、あまり具体的な目標設定をするような文化ではありませんでした。そのあたりをもう少し決めたいという意見はスタッフ間でも出ていて、昨年末から年始にかけて何回かワークショップを開催しています。そうした場で改めて、みんなが共通した価値観を持っていることを確認することができました。まだきちんと言語化できてはいませんが、これから理念や行動指針のようなものを作っていこうという動きが出てきています。

村上氏:
同時に、一人ひとりの主体性や組織としての多様性も失われないような環境・仕組みづくりもしていかなければいけないと思っています。組織内の情報共有のあり方を改善するなど、組織が大きくなってもよりシームレスに動けるよう整備を進めていきたいですね。組織の大きさや形にかかわらず、楽しく働けて、みんなが目指す「患者さん本位の医療」実現のためになにができるか、共に考えながら良い形に変化していきたいです。

<取材・文:角田歩樹/取材・写真:浅見祐樹>

>>桜新町アーバンクリニック村上典由事務長のキャリアについてはこちら
“マネージャー”として医療者を輝かせたい──桜新町アーバンクリニック 村上典由事務長

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