「オペ室効率化は患者のため」相澤病院が取り組む5つのポイント―相澤病院 小笠原隆行氏(手術センター長/麻酔科 統括医長)

手術室(オペ室)の稼働率を向上させようと努力を重ねる病院は数知れません。しかし、その実現にまで至る病院は多くないようです。
このような状況において、相澤病院(長野県松本市、460床)は、入れ替え時間や在室時間の短縮、空き枠の活用など、手術室が抱えるあらゆる非効率を改善し、稼働率の向上に成功しています。
同院にて、「効率化は患者のために必要」と考え、この改善に大きく貢献したのが麻酔科専門医であり手術センター長を務める小笠原隆行氏(肩書は取材当時)です。同氏に成功のポイント、そして効率化と安全確保の関係についてお聞きしました。

入れ替え時間の短縮で思わぬ効果 オペ時間も短縮

―手術室稼働の効率化に取り組み始めたきっかけはありますか。
取り組んだ動機は色々です。前職でも同じでしたが、手術センター長になって1年半、仕事時間が長いので「とにかく早く帰りたい」―― そんな思いがありました。早く仕事が片付けば、休養を取ることができて、新しいことにも取り組む余裕ができると思ったのです。管理職の立場からは、超過勤務や追加職員を雇わなくて済むようになるので、病院の利益にもつながると思いました。

そして何より、患者さんのために効率化が必要でした。医療資源の少ない地方では、1つの病院でたくさんの手術が要求されます。東京のように多くの病院があれば、他院で手術を行う選択肢もあるでしょうが、地方では次がありません。手術ができないと、行き場を失った患者さんが困るのです。ですから、とにかく効率化したいという思いがありました。

―具体的には、どんな取り組みをしたのでしょうか?
ポイントは、(1)朝一番から手術を始める、(2)曜日の格差を無くす、(3)入れ替え時間を短くする、(4)在室時間を短くする、(5)空き枠を効率的に消化する―の5点です。

たとえば、「(3)入れ替え時間を短くする」は、分かりやすい例だと思います。これはスケジュールを1分刻みで見直して調整するだけで、手術開始までの時間が1例あたり15分~20分ほど短縮しました。これだけでも200例あれば50時間もの短縮になるわけです。

これは前職での経験ですが、実は手術開始までの時間を短縮した結果、外科医の手術時間も短くなりました。始めてみて気付いたのですが、準備をテキパキやっていると、その流れで手術に入るため、外科医のリズムも変わるみたいです。
そうすると、最初は乗り気でなかった外科医が「今までオペが多くて22時まで仕事をしていたけど、18時頃に終えられるのか。これだったらビールも飲みに行けるね」と言い始めました。外科医の生活自体が変わっていったんです。

“朝オペ”は外科医の働き方に合う

―たとえば「(1)朝一番から手術を始める」は、医師たちの働き方自体を変えなければ実現できないと思いますが、反対はなかったのでしょうか。
ポイントの1つは、人数の多い診療科に協力してもらうことです。なぜなら、朝でも人員を確保しやすいからです。当院では、それが外科や整形外科でした。そうした科の手術を、他科が入れないような朝に入れてもらうようにしたのです。外科医は元々、朝7時半や8時頃に出勤する方も多いので、従来のライフスタイルを大幅に変更することにはなりませんでしたね。

なかには、どうしても午後しか手術していただけない診療科もありました。ただ結果的に、この診療科の変化が最も大きかったです。当初、わたしから「1日で外来と手術の両方をするパターンから、手術と外来を1日単位で実施するパターンに変えてはいかがですか」という話をしても、なかなか理解を示してもらえませんでした。
そうしているうちに、たまたま医師が増えたため、1人が外来を担当し、他の方が朝から手術をするという話になりました。そしたら、その科の医師が看護師に「生活が変わったよ」と言ったそうです。わたしには言ってくれなかったのですが(笑)その後、離職で1人減っても、朝から手術するスタイルは崩れていません。

―なるほど。むしろ外科医の働き方に合った施策だったということですね。
もう1つ大事な視点は、1日の仕事の進め方を大きな枠組みで考えることです。外来を遅くして良いわけではありませんが、手術は多くの準備が必要です。手術室を確保して、看護師を2名以上、麻酔科医も押さえなければいけません。他の手術が遅れると開始時間を読みにくくもなります。そう考えると、手術を朝の決まった時間からスタートさせる方が予定通りに進めやすい。外科医1人にとっては午前、午後の違いしかなくても、周囲のスタッフや病院にとっては大違いになるという認識を共有することが必要です。

―朝も手術できる科ができてくると、「(2)曜日の格差を無くす」にも影響してきそうな話ですね。
そうですね。ある曜日の午後に手術予約が集中しても、別の曜日の午前に振り替える選択肢が生まれ、手術室の稼働率が平準化していきました。

手術室がめざすのは「稼働率100%」ではない

―先ほど少し出た「(3)入れ替え時間を短くする」について、もう少し詳しく教えてください。何かコツがあるのでしょうか。
入れ替えは20分を目標にしていて、10分で掃除をしたら、外で用意をしたものを運び込んで10分で整えます。診療科によっては片付けが大変なため、もちろんもう少し掛かります。

大学の医師からは「緊急手術が決まってからの動きが早いよね」と言っていただきました。医師は自宅で電話を受けて、1時間後に入室するのが基本になっています。院内にいれば40分くらいです。全国的に見て早いかは分かりませんが、手術に入る準備はかなりスピーディーにできているのではないでしょうか。

―「(4)在室時間を短くする」取り組みは、どのようにしているのでしょうか。
「効率化」と聞くと、手術時間そのものを短縮するよりも、手術の合間を短くするイメージが強いのではないでしょうか。だから手術室の評価指標として、稼働率や空き時間をチェックすることが多いと思います。

でも、手術が8時間掛かって稼働率100%であるよりも、6時間で終わるならその方が良いんですよ。それで早く帰ることもできるし、あるいは、1時間の小さな手術を入れることもできます。埋まっているかどうかでなく、一つひとつを少しずつ短くしていくことの方が、効率化と言えるのだと考えています。

こうした考えの下で手術あたりの在室時間を短くすると、手術数が増えて手術の合間が空きやすくなり、稼働率は100%になりません。しかし、そこは稼働率の数字にこだわり過ぎないようにしています。

空き枠の消化は離床率アップにも

―「(5)空き枠を効率的に消化する」というのは、小さな手術を待機させておくということなのでしょうか。
正確には、緊急率に応じた調整です。緊急手術には2タイプあって、今すぐ始めないといけない「緊急手術」と、数日間は猶予のある「準緊急手術」に分かれます。その準緊急手術をうまく利用することで、手術室の効率的に運用できると考えています。

たとえば骨折の手術です。当院には年間400件、つまり1日平均1―2件の骨折患者さんが来ます。一方で、大きな手術の合間には空き枠がいくつかできますから、そこに骨折手術を入れていきます。当院の場合、骨折手術は2日以内に実施する方針で運用しているため、「空き枠を利用しよう」という心理も働いてうまく機能しています。

―骨折手術を2日以内に実施するのは、空き枠解消のためでしょうか。
いえ、単なる効率アップだけでなく、離床率に良い影響を与えると考えてのことです。

たとえば大腿骨頸部骨折の高齢者の場合、入院してから手術日まで寝たきり状態になると、筋力も落ち、たとえ手術が上手くいっても歩けるまでに時間がかかってしまいます。数年前は、手術実施までに平均5~6日掛かるというデータもありました。このように数日あると、肺炎などを誘発するリスクもあるため、受傷してから手術・リハビリまでの期間を短くした方が離床率も上がると考えています。また、48時間以内に手術をしないと骨折でも死亡率が急速に上がるというデータもあり、当院では48時間以内に手術する方針を取っています。

ただ、空き枠の効率利用に関する一連の考え方には、異論があることも承知しています。これが機能するかどうかは、病院によってだいぶ違うと思います。
 

病院にとっての効率化とは

―医療は人命を扱っていることもあって、効率化には慎重な向きもあります。小笠原さんは効率化をどのように捉えていますか。
病院で効率化を進めようとすると、必ず問われるのが安全性です。ただ、効率と安全性は相反するものでもないと考えています。なぜなら、手術が遅れることこそが、患者さんにとって一番のリスクだからです。

たとえば骨折した患者さんをすぐに手術しないで放っておけば、歩けなくなってしまうこともあります。がん患者さんに至っては、手術を何か月も待たされたら亡くなるかもしれません。死の危険があるのにすぐに手術を受けられないとしたら、これこそが安全性の低い状態ではないでしょうか。

特に地方においては、手術を受けなければならない状況ですぐに手術を受けられるという視点からの“安全性”が必要です。また、入院から手術までの日数が短くなることで家族の経済的負担も医療者側の負担も抑制されます。

必要なときにすぐ手術を受けられることが、患者・スタッフ・医師という病院に関わるすべての人にメリットをもたらすと考えています。

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  1. 宮田主任

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