ケアプロ訪問看護ステーション東京 看護師・保健師
小瀬文彰
2017年1月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
ケアプロ訪問看護ステーション東京では、2013年4月に新卒の看護師を1名採用し、新卒訪問看護師が誕生しました。これまで、看護の業界では「新卒には不可能」という都市伝説が強くありましたが、私たちは今後の超高齢社会に向けて、地域の医療を支える人材の確保としても新卒訪問看護師のキャリアは非常に重要であると考え、その成長プロセスや育成方法などを形式化して社会に広げていくことが重要だと考えました。
しかし、実際に新卒訪問看護師の育成してみると、一筋縄ではいかぬことばかりでした。
まず、新卒訪問看護師自身は、これまでほぼ前例のないキャリアであり、自らの成長目標やプロセスがイメージできない上に、教育方法も試行錯誤で定まっていない状態で、後に新卒訪問看護師の1年目について振り返り「一年目は、ずっと『一寸先は闇』であった。」と述べていました。また、新卒訪問看護師の育成に携わったスタッフも、病院に就職する看護師とは異なる環境での指導や、新卒訪問看護師ならではなく成長プロセスなどに戸惑いを感じ、訪問看護師として育てていけるのか不安に思いながらの教育でした。
そのような中、ケアプロ訪問看護ステーション東京が大切にしたのは、新卒訪問看護師自身が自らの成長や行われる教育について課題に思ったことを、1つ1つ改善しながら教育プログラムの開発を行ったことです。そのため、教育プログラムの開発会議には、教育しているスタッフのみならず、新卒訪問看護師も中心となって参加しました。
これまでに例のないキャリアであるからこそ、新卒訪問看護師の率直な意見や想いを中心に、帰納的な教育プログラムの開発を心がけました。新卒訪問看護師の経験より、どのような教育体制であるとよいか、教育の方法や教育の過程を明確にし、新卒訪問看護師と教育スタッフが共通の認識を持つこと、そして新卒訪問看護師の成長プロセスや特徴を、形式的にまとめ、教育プログラムを開発しました。
また、2014年度からは、聖路加国際大学の山田雅子先生らや全国訪問看護事業協会の方々とともに、「きらきら訪問ナース研究会」を発足しました。この研究会では、新卒訪問看護師に関する研修や普及の活動を行うことを趣旨としています。2013年度には、「きらきら訪問ナースの会」と題し、新卒訪問看護師や教育スタッフがそれぞれに実践報告を行い、また参加者と新卒訪問看護師の育成に必要なことは何かを考えるセミナーを実施し、のべ189人の参加者とともに、新卒訪問看護師の育成についてディスカッションを行ってきました。
また併せて全国訪問看護事業協会の研究事業として、全国の訪問看護事業所や看護教育機関へアンケート調査を行い、新卒訪問看護師への意識や採用有無などに関しての調査を行いました。(平成26年度一般社団法人全国訪問看護事業協会研究事業 新卒訪問看護師のための訪問看護事業所就業促進プログラム開発に関する調査研究事業)
そして、2015年度には、引き続き新卒訪問看護師の育成に関するセミナーを開催するとともに、『地域で育てる新卒訪問間看護師のための包括的人財育成ガイド』の作成を行いました。(平成27年度全国訪問看護事業協会研究事業 訪問看護ステーションにおける新卒看護師採用及び教育のガイドブック策定事業)
このガイドは前年度の調査結果やセミナーでのディスカッション内容などを踏まえ、きらきら訪問ナース研究会の委員にて検討を重ね発行致しました。新卒訪問看護師の育成にあたっては、受け入れた事業所のみでなく、教育機関や地域の関係者、行政などあらゆる方々が包括的に支えていくことが重要であり、ガイドではそれぞれの関係者が新卒訪問看護師の支援として考えていくべきことについてまとめてあります。また、「5つの心得」と題して、新卒訪問看護師や受け入れを行った事業所がきらきらと輝く新卒訪問看護師としての成長・育成するための心得を作成し、それぞれにチェックができるようにしました。
本ガイドは、全国訪問看護事業協会会員事業所と看護協会、厚生労働省や文部科学省、全国の看護教育機関などに無料で送付しました。また、訪問看護事業協会や「新卒・新人訪問看護師応援サイト CAN-GO!!」より、無料でダウンロードができます。本ガイドをより多くの方が活用いただき、新卒訪問看護師の採用や育成などにご活用いただければ幸いです。
きらきら訪問ナース研究会では、2017年度も引き続き活動を行う予定で、来年度は「きらきらナース育成者養成講座」を聖路加国際大学で開催する予定です。「新卒には訪問看護は不可能」というイメージは、以前より少なくなってきている印象がありますが、業界としては小規模の事業所が多く、また訪問看護師の人材育成を積極的に行っている事業所が少ない現状があります。そのため、新卒訪問看護師を採用し育てていくことのできる事業所を増やしていくための活動を行い、今後も新卒訪問看護師が当たり前なキャリアになるように新たな取り組みを始めていきます。
2013年4月、私がはじめての新卒訪問看護師として、ケアプロ訪問看護ステーション東京に入社してから、もうすぐ4年が経とうとしています。入社直後、とある雑誌のインタビューで、「私は、新卒には訪問看護はできないという業界の壁に風穴をあけるために新卒訪問看護師になりましたが、一人分の風穴しか開けることができません。でも、あとに続く方がいれば、けもの道ができ、いずれは道路になると思っています。」と話をさせて頂いたことがありました。
それから5年経ち、ケアプロ訪問看護ステーションでは、私の入社後も、2015年1名、2016年2名と新卒訪問看護師を採用し、すべてのスタッフが当たり前のように新卒訪問看護師の教育を行い、当たり前のように新卒が訪問看護師として育つことのできる道が整ってきました。そして、株式会社学研メディカル秀潤社様より、貴重な機会を頂き、ケアプロ訪問看護ステーション東京 看護室長の岡田理沙と、2016年度12月27日に「ケアプロ式 新卒・新人訪問看護師教育プログラム」を出版させていただくこととなりました。まだ、新卒訪問看護師の教育に関しては情報が少なく、「採用してみたけど、定着しなかった」という声を聞くことも少なくありません。そのため、きらきら訪問ナース研究会で発行したガイドに加え、ケアプロでの教育ノウハウを全国に共有し、業界全体として、毎年100人、1000人と新卒訪問看護師が育っていくようになればと思っています。
新卒訪問看護師のキャリアは、まだ課題も多くありますが、新卒訪問看護師が当たり前のキャリアにできるように、今後も取り組んでいきたいと思います。
<プロフィール>
ケアプロ訪問看護ステーション東京
小瀬文彰(看護師・保健師)
・2013年4月~:ケアプロ訪問看護ステーション東京に入社。ケアプロ初の新卒訪問看護師として入社し、その後教育プログラム開発、新卒訪問看護師の教育担当などを行う。
・2014年4月~:きらきら訪問ナース研究会 委員。
・2015年1月~:「全国新卒訪問看護師の会 -Fresh Visiting Nurse.net-」を創立し、代表。
(2017年1月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)
看護師の倫理教育を考えたい
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