東日本大震災時の人工透析の恩返し、道半ば


ときわ会常磐病院 臨床工学課
永沼利明

2018年9月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

東日本大震災の時の福島県いわき市の透析治療は、長期的な断水、原発事故による風評被害により継続不能に陥った。そこで、東京、千葉、新潟へバス29台、約600人の市内の透析患者がスタッフとともに集団移動して、各地の医療機関、行政の方々に大変お世話になったという経験をしている。
私が勤務しているときわ会常磐病院は、現在では透析装置数153台、透析患者数約550名と、東北最大規模の人工透析施設となっているが、震災時はときわ会いわき泌尿器科がグループでの透析の基幹施設であった。当時の常磐病院は、透析装置数35台、透析患者数130名(内入院患者70名)と、療養病棟での入院透析がメインという位置付けであった。

常磐病院がある常磐湯本地区は、上水道復旧のめどが立たず、給水車による水の供給が必要であった。しかしながら、透析治療における水の重要性についてときわ会事務局長が水道局にかけあうが、ある程度理解は示したものの十分な水の確保ができなかった。透析継続の危機を感じたときわ会グループ会長と事務局長が、再度水道局へ直談判した結果、震災3日目の3月14日(月)には、なんと、浄水場から常磐病院までの給水車の移動をパトカー先導にて行ったのである。この日は、渋滞している道路をかき分け、1時間おきに5回、計10tの水が供給されたのである。これで透析患者全員の最低限の透析おこなえると安堵していた矢先、福島原発3号機の水素爆発により事態は一変した。透析治療を急遽中止し、外来透析患者、小さい子供がいるスタッフが避難をおこなった。
これにより給水車もストップし、マンパワーも激減した。自分で行動できる外来透析患者は避難できるが、多くの残された入院患者はどうすればいいのか不安になった。人もいない、水もない、入院患者を見放なすしかないのか、とまで思っていた自分がいた。そんな時、グループ会長の決断により透析患者の集団搬送が決定した。これには私自身、救われた、という気持ちになったことが今でも覚えている。受け入れてくださった医療機関、スタッフの方々には本当に感謝の気持ちしかなく、これから私たちは、この時の恩返しを透析でしなければならないという強い気持ちを持った。

2016年4月に起きた熊本地震の時は、看護師、臨床工学技士14名が交代で1ヵ月にわたり、熊本市内にある透析クリニックの業務支援をおこなった。その時感じたことは、東日本大震災と熊本地震、災害の規模の違いはあるにせよ、被害を受けた方々の心のダメージは変わりないということであった。1年後、クリニックの皆さんから、一人ひとりコメント入りの横断幕をいただいた。支援物資よりも現場で一緒に働き、勇気付けられたことがとてもうれしかったというメッセージがあった。感謝されたことがとてもうれしかった。これからも透析が困難な状況におかれた施設があれば、真っ先に駆け付ける思いでいる。

そんな中、2017年4月に同じ福島県の浜通り地方であり福島原発の北に位置する相馬市、南相馬市の透析患者が、仙台、岩沼まで透析のために週3回、1~2時間かけて通院しているという情報が入った。スタッフ不足のため新たな透析患者の受け入れが困難であるということであった。相馬中央病院から支援要請を受けた私たちは、2017年7月から月に6回程度看護師と臨床工学技士2名体制にて業務支援をおこなった。全自動透析システムの導入や業務効率に関する提案を行うことにより、支援を終えた2018年6月の1年間で20名近くの透析患者さんを相馬中央病院で受け入れることができた。相馬中央病院まで車で5分の場所に住んでいる患者さんからは、「透析が終わってから長距離を運転して帰るのがとてもつらかったが、本当に今は体が楽だ。ありがたい。」と感謝の言葉を頂いた時は、少しは恩返しができたかなという思いになった。

南相馬市も同様に、透析患者の受け入れが厳しい状況であった。相馬市と違うのは、南相馬市立総合病院が新規に透析室を立ち上げるということであった。透析経験のあるスタッフがいないという状況下で手を挙げた及川友好院長の、南相馬の医療を何とかしなければならないという思い、心意気に私も協力したいという強い気持ちを持った。2017年秋より透析室設立の準備を始め、今年の3月26日に透析ベッド8床でスタートさせた。オープン当初は試行錯誤しながら業務にあたっていたスタッフも、現在、5ヶ月目に入り徐々に患者も増え、軌道に乗ってきている。最終的には20名以上の透析患者が地元の南相馬で治療を受けられるようになることを目標に、南相馬市立総合病院のスタッフの皆さんは日々奮闘しているところである。

東日本大震災の時の恩返しはまだまでできているとは考えてはいないが、現在取り組んでいることは、災害時における常磐病院での透析患者受け入れの構築である。震災での教訓を活かすべく、市内全透析施設との間で無線通信でのテスト交信を6年前から毎月実施している。さらには、2014年4月に常磐病院の敷地内に地下水を掘削し、現在、7割の地下水を生活用水と透析治療のために使用しているが、災害時の有効活用を考えている。

今後起こるであろうと推測されている南海トラフ巨大地震や異常気象による大規模災害時の透析患者の受け入れに関して、いわき市内全透析室のスタッフと、定期的な会議を開きシミュレーションをおこなっている。

この取り組みが、少しでも恩返しに繋がればという思いで進めているところである。

(MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)

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