遠隔医療画像サービスの未来


株式会社エムネス代表取締役社長
霞クリニック院長

放射線診断専門医
北村直幸
2018年7月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

*本稿の英語版は2018年6月17日、MRIC Global で配信されました。

私は1993年(平成5年)に広島大学医学部を卒業し、同大学の放射線医学教室に入局しました。一般病院に勤務した後、2000年に遠隔画像診断センター・エムネスを立ち上げ、2015年には霞(かすみ)クリニックという検査センターも開設し、現在は社長と院長を兼務しています。エムネスというのは、Medical Network Systemsの頭文字を取った会社で、遠隔画像診断とクラウド上で作成しているプラットフォームのLOOKRECを広めていくのが二大事業です。
従業員は医師に関しては、放射線診断専門医が11名常勤、また非常勤務医として、放射線診断専門医が14名、脳神経外科医が12名、その他、外科、内科、病理等の専門医がいます。女性が半数以上で、在宅勤務にして、子どもが病気になったときでも対応することもできます。実際、当社では3名が産前・産後に仕事をしたという実績もあります。

広島市南区の東雲本町にあるクリニックには、MRI装置1.5テスラが2台とCT装置が1台あり、社屋の3階部分が画像診断センター、1階と2階がクリニックで、年間検査数は約8000件です。一番多いのは、近くにある広島大学病院からの検査依頼です。それを検査し放射線診断レポートを付けて返すのが主要業務です。もともと広島県というのは、北海道の次に無医地区が多い都道府県です。
日本はCTやMRIなどの診断撮影装置はたくさん入っていますが、放射線診断医が少ないため、広島県の島嶼部、山間部を中心とした地域の遠隔画像診断をやろうというのがきっかけです。
現在は、広島県を中心とした42の医療機関とネットワークを結んでいます。従来はフィルムで放射線画像を扱っていましたが、デジタルデータとして4~5年前からGoogle Cloud Platform (GCP)上にシステムを構築し始め、ちょうど1年少し前からクラウド上のシステムLOOKRECがほぼ完備できたので、もっと幅広いネットワークの構築を目指しており、新たな転換期を迎えています。

2018年1月に脳ドックを専門的に実施するメディカルチェックスタジオ東京銀座クリニックがオープンしました。こことも提携し、画像データについて遠隔診断を行っています。撮影された画像データはクラウド上に上げられ、放射線科医がファーストチェックをします。そして、従来は余り無かった脳神経外科医によるセカンドチェックも行っています。クラウド化によりこれが可能となり、現在は広島大学、鹿児島大学、徳島大学、さらに海外留学中の医師にも参加してもらい、ダブルチェックをしているわけです。医師不足を補う1つの方策ともなっており、国内に留まらず世界のどこでも共同作業が可能となっています。

さらに脳ドックの動脈瘤診断においては、画像解析を専門とするベンチャー企業エルピクセル社とも提携し、人工知能(AI)による検出支援への取組が臨床現場で実際に開始されています。まだAIの薬事承認は取れておらず共同研究の段階ですが、脳外科医、放射線科医の診断にAIを組み合わせることでより良い結果が出るのを期待しています。脳動脈を調べるMRA検査では、元画像を百数十枚から200枚近く評価する必要がありますが、通常我々は最大値投影法(MIP)処理をした画像を回転させながら動脈瘤を探していきます。
より精度を高めるために元画像も見ていく必要がありますが、その診断工程をAIに肩代わりしてもらい、より見落としを少なくすることを目指しています。今後は脳血管狭窄、そして脳のボリューム測定、あるいは脳脊髄液のボリューム測定、さらには白質病変の定量化といったところを共同研究開発中です。脳についてかなり大量のデータが集まるため、良質な教師データを作ることで、質の高いAIによる診断支援システムを早く構築したいと考えています。

また、乳腺MRIにおける乳癌の検出支援システムも構築しています。乳癌の精査のときに病変を見つけたり、その広がりを評価したりするに当たって、造影剤を急速静注し、その病巣、あるいは乳腺に入っていく様子の時間経過を追うダイナミックスタディーを行います。単純撮像に加え、造影の早いタイミング、第2相、第3相と撮像し、各相の画像が200枚近く、計800枚近くの画像があります。従来の方法では、医師はこれら画像を同期させ、かなりの労力をかけて病変を見つけ出していく作業を行っています。
疑い病変はそのエリアを囲って、時間信号曲線(ダイナミックカーブ)を作成し、急速に造影剤が入って抜けていくことが多いという癌の特徴を捉えるような診断のための一つの指標を見つけていきます。我々のシステムでは、この作業を自動的にピクセル・ボクセルごとに信号値の変化を表すシステムとし、そのカーブを幾つかのパターンに分けます。乳癌で多いとされるrapid-washout、急速に入って出ていく病変を赤で示し、癌の診断に役立てるわけです。腫瘍内部の不均質性の評価も、今後十分な期待が持てる可能性があります。腫瘤を形成するタイプではなく、非浸潤性乳管癌のようなものも、かなりの精度で描出可能な印象があります。

これら脳動脈瘤と乳癌に関する2つシステムは日々の臨床で試用していますが、手放せないという正直な実感を臨床医として持っています。その他、胸部CTにおける肺結節の自動検出や、膝のMRI画像の半月板部分をAIによって自動的に3次元的に再構築するシステムも作成しています。後者は、口径数ミリの関節鏡データとの対比等を行って、今後の研究開発を進める予定です。

以上のように、放射線診断医として現在AIに期待しているのは、日常業務の中で、特に大量の枚数の画像を医師が見ていく過程を補助し、特定の構造物や領域の識別と抽出、さらにその定量化を行うシステムの構築です。例えば、脳萎縮は主観的な診断で、脳外科医と放射線科医の診断結果でもかなりばらつきがありますが、それを自動で定量化することにより新たな診断基準などが生まれる可能性も考えています。たくさんの画像シリーズを比較し、その変化量をコンピューターで計測することで、病変の検出、あるいは正常な構造であってもその動態変化を捉えることが臨床的に非常に有用になるのではないかと思います。最後は、放射線診断医が行っている、検出された病変の質的診断までいけばいいのでしょうけれども、それは現段階では未知数です。

また、画像とは直接関係なく、放射線診断レポートの部分も自然言語処理を用いたAIの補助システムが稼働しています。キーワードや文章、例えば「肝細胞癌」という単語を入れると、瞬時に「肝細胞癌」が含まれる過去データの解析結果が出ます。過去レポートを引用するだけでなく、どの読影者がどういう表現を使っているのか、個人差も含めて同定することができますので、報告方法の標準化を進めたりすることも可能です。こういった付加情報もAI技術で入手できるため、今はまだ考え及んでいないことも今後の診療の役に立つ可能性があります。

以上のように、私共はAIを利用した遠隔診断と、プラットフォームの事業に力を入れています。医療データをクラウド上に展開にするためには、クリアしないといけない問題はまだ少なからずありますが、現在はGoogle Cloud Platform上にプラットフォーム基盤を整えています。今後はAmazonやAzureなど、いろいろなところでこれを作って、医療機関、国内外を問わず、データをクラウドに上げ、放射線科医に留まらず、画像に関わる先生方にどんどん参加してもらい、その知見・英知をここに集約すること考えています。何百万人のデータが一気に持ち込まれる時代に入っているので、日本の良質な医療、データ大国日本の良質なデータを用いて、技術者と協力しながら臨床の役に立つシステムを早く構築することを目指しています。

(MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)

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