事務職の成長を促すため、組織に風穴をあける―武蔵野赤十字病院 原口博事務部長

東京都北多摩南部地域の3次救急を担い、臨床研修マッチングで上位に入るなど、若手医師からの注目度も高い武蔵野赤十字病院(東京都武蔵野市、611床)。病院運営の足元を支えるために換算人員170人以上の事務職員が働く同院では、院外の人材や情報を受け入れるなど、硬直化しがちな病院組織に風穴を開けるような取り組みが行われています。入職以来、組織の変遷を見てきた原口博事務部長に、事務職の自発的な学びを引き出す方法を伺いました。

管理職はジェネラリストの時代へ

武蔵野赤十字病院

―武蔵野赤十字病院における事務職員は、どのような経緯で入職されているのでしょうか。

現在は、大学卒、専門学校卒、中途採用を問わず、幅広く受け入れていますが、私が入職した1980年頃は医療事務などの専門学校を卒業した人がほとんどでした。それは病院事務のファーストキャリアとなる医事課で、即戦力として活躍できるからだと思います。とはいえ、大学を卒業している方は幅広い教養を身につけているので、病院の中長期的な戦略を考えるには必要な人材ということで、現在の採用方針になりました。

―採用方針を転換したのは、即戦力の人材を採用しているとジェネラリストが育ちにくいということでしょうか。

そうですね。私が入職してしばらくは、スペシャリストを目指す方が多い風土だったと思います。10年ほど前からは定期的に人事異動を行うようになりましたので、管理職の候補者は3年から5年ほどのペースで異動し、さまざまな経験が積めるようになっています。彼らは幅広い視点を培ってから管理職になることが求められているのです。

―管理職を目指してさまざまな部署を回るとき、経験したほうがいい部署は何でしょうか。

外来・入院の両方で医事課を経験してほしいと思います。私も医事課からキャリアを始めた身なのでよく分かるのですが、病院の収入を扱う医事課を一通り経験すれば、病院にまつわる基礎知識はおおむね身につくと考えています。その知識を土台に、他の部署のことも理解できる管理職になっていただきたいですね。

学ぶには、自分の部署から飛び出すこと

―事務職のキャリアアップをサポートするために組織全体で工夫していることはありますか。

8年ほど前から「業務チェックシート」を導入しています。具体的には事務部にある医事、財務、調度(用度)、人事といった各部署の具体的な仕事内容、所属1年目や3年目の職員に覚えてもらいたいこと、各課の担当者を一覧表にして、業務の可視化に取り組んでいます。これは先ほどもお伝えした定期人事異動に連動していて、異動者や中途入職した人が困らないように、また業務が属人化しないようにと始まったもの。今では新卒で入職した人も、ひとつの道標として参考にすることができます。他方、日本赤十字社の本部では、各部署の仕事内容を学ぶeラーニングが試験導入されています。

―本部とも連携して取り組んでいるのですね。そのほか、組織的に取り組んでいる教育や研修はありますか。

全国92の赤十字病院間で人事交流研修を行っています。2週間ほど、他院の部署に所属して実践しながら学ぶ研修で、職員には勉強したいこと、病院には受け入れ可能な部署を聞き、マッチングして実施されます。今年は22カ所の病院で行われ、当院の会計課職員がさいたま赤十字病院(638床)の会計課へ病院建築の財務の視点について勉強しに行ったり、長野赤十字病院(680床)からは病院建築のこと、名古屋第二赤十字病院(812床)からは医事課や企画課のことを学びに来たりしました。自然とお互いの情報交換ができますし、新鮮な空気にもなります。

当院は他院との情報交換を積極的に行ってきました。また、地域の医療機関と情報交換を行うために「多摩メディカルマネジメント研究会」を立ち上げたこともあります。

―多摩メディカルマネジメント研究会について詳しく教えてください。

近隣にある杏林大学医学部付属病院、榊原記念病院と一緒に発足した研究会で、診療報酬改定の対応について勉強したり、病院見学やディスカッションをしたりする会のことです。諸事情があって今はやっていませんが、5年ほど行い、他院の仕事の進め方をお互いに知れたのはとても勉強になりました。その後も、外の風を取り入れる大切さを実感しているので、全国医事研究会を立ち上げたり、日本病院会に関わったり、院外に出て情報を集めるようにしています。

こう考えられているのも、昔の上司が日本病院会などで活動していて、他院のことにも精通しているからこそ、院内でも活躍できている姿を見ていたからです。私自身も上司と同じような背中を後輩に見せつつ、当院の職員の学びを応援できたらと思っています。

経営企画室時代の元部下・佐藤英樹事務部企画課長職務代理 兼 経営企画室長と

<取材・文・写真:小野茉奈佳>

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