データで経営陣を巻き込み、武蔵野日赤の意思決定を支える―武蔵野赤十字病院 佐藤英樹事務部企画課長職務代理 兼 経営企画室長

3次救急を担う地域中核病院であり、約1500人もの職員が働く武蔵野赤十字病院(東京都武蔵野市、611床)。その中の企画調査課(現:企画課)で、データに基づいた経営分析を行っているのが佐藤英樹氏です。入職当初は与えられたシステム導入の業務を行いつつ、データ分析を独学し、陰ながら病院の意思決定を支えるスキルを身につけた佐藤氏にこれまでのキャリアを伺いました。

仕事に行き詰まり… 一念発起でビジネス講座に

―佐藤さんは現在に至るまで、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。

高校卒業後は、音楽好きが講じて音楽クラブのある自衛隊に入隊しました。その後、テレアポや給食配達などの会社を経て、日本医療事務センターで医療事務の資格をとり、異動しながら3カ所の病院に勤めました。その後、たまたま募集が出ていた武蔵野赤十字病院に応募して、受付業務のつもりで入職したら企画調査課(現:企画課)に配属され、今に至ります。

―さまざまな経験をした上で病院事務職になられたのですね。その後、武蔵野赤十字病院で携わった業務について教えてください。

給食のオーダーリングシステムの導入、医療連携システムの導入、紹介患者管理システムの導入、手術室支援システム導入のための現状調査など、何でもやりました。よくよく聞いたら、私が企画調査課に配属されたのは、オーダーリングシステムを導入するためだったそうで、入職早々に医師が出すオーダーと、栄養士が受け取るオーダーが別機械だったところをうまく調整する、という仕事に取り組みました。最初はわからないなりに何とかできていましたが、結局、“何でもできるけど強みがない”状態で…。2年ほど経って自分の仕事になんとなく行き詰まりを感じるようになりました。

―行き詰まりを感じたとき、佐藤さんはどのように解決したのでしょうか。

厚生労働省の教育訓練給付制度を使って「大前研一氏総監修の本質的問題発見コース」という講座を1年間かけて受講しました。具体的にはデータの収集と分析、問題を抽出する手法、論理展開と表現の仕方を学ぶものです。自分が好きだったビール業界を題材に選び、データ分析のためのフレームワークや効果的な見せ方などを学んでいきました。なかなか時間がとれなかったり、自分の理解が追いつかなかったりして、修了レポートを3回差し戻されたのも今ではいい思い出です。

―そこで学んだことは業務にどうつながっていますか。

簡単なところでは病床稼働率や平均在院日数といった情報を組み合わせたり、グラフ化したりするときに役立っています。私が入職する前から基礎データはありましたが、それを集計したり、分析したりする人が少なかったのでその点は活かせていると思います。

―佐藤さんがデータを作成する際に心がけていることは何ですか。

シンプルに見やすく、情報量を少なくすることです。本質的問題解決コースでも教わったことで、フレームワークに落とし込むにしても分岐は3つまでを意識し、ひと目でわかるくらいを意識しています。

組織の意思決定を左右する業務、その責任とやりがい

―分析したデータは、院内でどのように活用しているのでしょうか。

院長が出席する経営企画室の定例会議で使用します。現在の経営企画室には兼務として企画課長職務代理(経営企画室長)、看護副部長、調度課長、外来・入院それぞれの医事課長、会計課長、経営アドバイザーが所属していますので、現場と経営の両面で検討をしています。データをもとにした施策を院内へ落とし込むときにハードルとなるのが院内調整だと思いますが、当院は検討会議の時点から看護部や現場の事務を巻き込んでいるので、調整がとてもスムーズです。組織が大きい看護も、看護副部長が実現できるかどうかを判断・調整してくださるので非常に心強いですね。そのほか、調度課や会計課は病院の支出に関わる部署として参加いただき、病院収支をトータルで見られるのが当院の経営企画室の強みだと思います。

私たちの会議では、最初から「できない」と言わないことが暗黙のルールのようになっているので、すごく建設的な話ができているのもありがたいことです。

―実際、経営企画会議での検討を経て、経営改善につながった事例はありますか。

看護師の「窓側のベッドが人気」という言葉から始まった経営改善があります。窓側と廊下側で患者さんが不公平に感じないよう、差額室料を大部屋の窓側に設定したところ、増収にもつながりました。その際、とりあえずやってみるのでなく、病床稼働率や平均在院日数の変化を予測し、導入する場合の金額も算出して、そのデータを基に実現しています。ほかには経営にダイレクトに反映されているかはわかりづらい例ですが、当院は外来も完全紹介予約制をとっているので、紹介元との関係を強めるために定期的に紹介状の返書率を出し、全科目80%以上を目指して改善を始めているところです。

経営企画室がまとめたデータから現場に改善してほしい点が見つかれば、院長から現場の職員にお話されるのが基本ですが、特に意識してほしい指標は職員食堂の前など、目につくところに貼り出しています。病棟ごとや診療科ごとに出すと、他との差が明らかになるので、自分たちで気付いていつの間にか改善につながっていることも多いですね。

―あらためて、この仕事のやりがいを教えてください。

私の分析したデータが意思決定に反映されることがあるところです。意思決定者にデータを提供し、それが病院経営に直結していることがあると思うと責任ある仕事に取り組んでいると実感しています。

―事務職として、やりがいのある仕事に挑戦したいと考えている読者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

上司の原口部長からも入職当時から言われていたことですが、どんな環境であれ、自分がやりたいことに取り組むには「質問をされやすい人材になる」ことが大事ではないでしょうか。私自身、よくわからないことでも腹をくくってできるようになったことがたくさんあります。私が外に学びに行ったように、時にはわからなくても飛び込んでみることが大切かもしれません。飛び込んだ世界から新たに見えてくることも、案外あるのではないでしょうか。

初代経営企画室室長でもある上司の原口事務部長と

<取材・文・写真:小野茉奈佳>

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