医師の負担軽減と24時間対応を両立 在宅医療を進化させ続ける原動力とは―医療法人社団悠翔会 理事長 佐々木淳氏【前編】

在宅医療において、質を担保しながら365日24時間対応し続けられるように、現場ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。今回は、一都三県にまたがる9つのクリニックを通じて在宅医療を提供している、医療法人社団悠翔会(本部=東京都港区)を取材しました。
在宅療養支援診療所が制度化された2006年に設立され、急速に成長を遂げてきた同会では、救急診療部を創設し、地域の在宅クリニックの夜間対応のサポートもしています。法人を展開する中で見えてきた「在宅医療を提供する医療機関の役割」について、佐々木淳理事長に聞きました。

地域の在宅当直センター機能として「救急診療部」を創設

sa_interview―24時間継続して在宅医療を提供するための取組みをお聞かせください。

持続可能な在宅医療を提供したいという考えから、悠翔会は地域の在宅当直センターの機能を担うべく「救急診療部」を創設し、地域の在宅療養支援診療所と連携して夜間対応を行っています。現在、救急診療部は川口と新橋の2拠点あり、北部と南部にわけて東京都全域と埼玉、千葉、神奈川の一部に対し、悠翔会9カ所で約2700人、連携先14カ所で約1700人の合計約4400人の患者さんの緊急往診を可能にしています。このうち、連携から1年が過ぎた7診療所の変化を見たところ、全診療所で在宅患者数も看取り数も増加し、7診療所合計で在宅患者数は409人から727人で1.8倍、看取り数は22件から76件で3.5倍に増えました。この取組みを日本在宅医学会で発表したところ、他の診療所から連携の相談も増えてきています。

長期的に持続可能な在宅医療の提供を目指して

―いつ頃から救急診療部のような取組みを考え始めたのでしょうか。

もともと診療所開設時から、今の救急診療部のような形で夜間帯は当直専任の先生にお願いしたいと思っていました。しかし、この枠組みはそれなりの事業規模がないと実現できないと思っていたため、まずは自分の法人をある程度大きくすることからスタートしました。診療所を大きくする過程では、患者さんにとっても施設関係者さんにとっても、夜間対応の充実が診療所経営を左右する大事な要素で、在宅医療をする上では絶対に必要な機能だと感じました。そこで「365日24時間確実な対応」「在宅医療においての総合的な医療の提供」「価値観・人生観を大切にする医療の提供」の3つの柱を掲げ、その中でも特に24時間対応が評価されたので患者さんの紹介が増えていきました。

一方で、手厚い夜間対応を求める患者さんのご要望を裏切ることはできないという思いから、他の医師に任せきれないという心理が働き、5年半は私一人で900人前後の患者さんを担当し続けました。毎晩コールや往診に疲弊するような状況が続いたころ、当初描いていたように、チームで連携して昼・夜の対応を行うような運営に切り替えるべきだと改めて痛感し、長期的に持続可能な在宅医療の提供を目指すようになったのです。

夜間体制を主治医1 人体制から自宅待機当番体制、そして救急診療部体制へ

―新しい試みでどのような課題がありましたか。

この試みを始めて、それまでご好評を得ていた夜間対応の評判が一気に落ちました。常勤医師の持ち回りオンコール体制に変更しましたが、これがうまくいかなかったためです。医師たちは主治医として自分の担当患者さんには手厚い対応ができる一方で、他の患者さんのことはわからないことも多く、患者さんの対応にバラツキが生じてしまったことが原因です。

そこで、現在の医師、事務、ドライバーによる救急診療部体制に変更し、専任の当直医が患者さんの情報を網羅的に把握した上で緊急対応を行うようにしました。この取組みはうまくいき、主治医と患者さんの信頼関係がしっかりとしたものであれば、緊急対応は主治医でなくても満足度は変わらないと感じることができました。事実、悠翔会では、夜間帯を当直医に任せるようになってから、主治医が一人で当直をやっていたとき、常勤医師が持ち回りでオンコールをやっていた時よりも、患者さんから高い評価を得ています。

佐々木淳(ささき・じゅん)

筑波大学卒業後、当時32歳で「理想の在宅医療を実現しよう!」と、2006年に医療法人社団悠翔会を設立。


一都三県にまたがる9つのクリニック24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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