2018年10月9日、厚生労働省(以下、厚労省)より疑義解釈「その8」が送付されました。疑義解釈は、診療報酬請求の算定要件や施設基準を補足説明するものとして、Q&A形式で通知されています。実務の参考になるのはもちろんですが、解釈が出された背景にまで目を向けると、現在の医療の課題や運用面への影響などが読み取れます。今後の医療の展開を先読みすることもできる、実は奥の深いものなのです。今回は問3に記載されている医師事務作業補助体制加算の疑義解釈について、ご紹介したいと思います。
指定研修は担当者が変わるたびに実施しなければいけないのか?
今回通知された疑義解釈8では、医師事務作業補助体制加算の施設基準となっている32時間研修に対する解釈が補足されました。長年現場を悩ませてきた「既存の講習等(基礎知識)」の実施について、「医師事務作業補助者が新たに配置される前に基礎知識の習得に係る研修を受けている場合には、改めて研修を受ける必要はない」と明示されたのです。具体的な内容は以下の通りです。
問3 区分番号「A207-2」医師事務作業補助体制加算について、「疑義解釈の送付について」(平成20年5月9日付け事務連絡)の問8において、基礎知識習得については、適切な内容の講習の時間に代えることは差し支えないとされているが、医師事務作業補助者が新たに配置される前に基礎知識習得に係る研修を既に受けている場合には改めて研修を受ける必要があるのか。
(答)医師事務作業補助者を新たに配置する前に、当該医師事務作業補助者が基礎知識を習得するための適切な内容の研修を既に受けている場合は、当該医師事務作業補助者に再度基礎知識を習得するための研修を行う必要はない。ただし、業務内容についての6ヶ月間の研修は実施すること。
※下線は筆者による
医師事務作業補助体制加算の施設基準では、研修について以下の2点が定められています。
- 当該責任者は、医師事務作業補助者を新たに配置(筆者注:届出と同義)してから6か月間は研修期間として、業務内容について必要な研修を行う
- 6か月の研修期間内に32 時間以上の指定研修(基礎知識の習得+医師事務作業補助者としての業務を行いながらの職場内研修)を実施する
問いの中で言及されている2008年の疑義解釈(問8)とは、別の目的で実施する「既存の研修」を(2)の研修に置き換えることができるかを問うたものです。その際は“「基礎知識の習得」に限り研修時間に代えることはできるが、診療報酬請求やワープロ技術、単なる接遇などの医療事務講習を含めることは認めない”とする回答が通知されました。
ただし、2008年の疑義解釈は、医師事務作業補助者を配置後の6ヶ月間に実施された研修について指示したものであり、配置前に関しては一切触れられていませんでした。このため医療機関の中には、異動や退職によって担当者が変わるたびに、すでに院外で指定の研修を修了した人材であっても再度研修を受けさせる必要があるのではないかと考える施設があったのです。こうした解釈のブレに対応するものとして、今回の疑義解釈が出されたようです。
教育環境の整備が裏テーマ
一方、問いで言及されている「医師事務作業補助者が新たに配置される前に基礎知識習得に係る研修を既に受けている場合」に該当するケースとしては、“医師事務作業補助者として勤務経験のある人材の転職”だけでなく、“事前に医師事務作業補助者向けの指定研修を修了した医療系の学生の採用”が想定できます。実は今回このような解釈が出た背景には、そうした医療系学生に対して医師事務作業補助者の教育環境を広げて、資質の向上を図る狙いもあるのです。
現在、医療機関では、医師事務作業補助者として配置した職員の適性や能力差の大きさが課題になっています。また退職も多く、なかなか人材が定着しない状況が続いているようです。このため、書類作成などの事務作業まではできても、医師の診療に関わる業務へとさらなるタスクシフティングには踏み込めない現実があります。
今回の疑義解釈は、早期から医師事務作業補助者の能力を高め、そうした状況を打開することを期待しての内容となっています。筆者が想像するに、院外で医師事務作業補助者教育や研修を実施している病院団体、医療系の専門学校、大学は、既に動き出し始めているのではないでしょうか。今後、さらなる展開が見込まれます。
ア 医師法、医療法、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和33年法律第145号)(以下「医薬品医療機器等法」という。)、健康保険法等の関連法規の概要
イ 個人情報の保護に関する事項
ウ 当該医療機関で提供される一般的な医療内容及び各配置部門における医療内容や用語等
エ 診療録等の記載・管理及び代筆、代行入力
オ 電子カルテシステム(オーダリングシステムを含む。)
<編集:角田歩樹>
・【連載一覧】診療報酬請求最前線
・“働き方改革の切り札?医師事務作業補助者40名体制を築いた10年間―医療法人財団 荻窪病院【前編】
・医療クラークが「医療機関を支える存在」になるためのチーム体制―医療法人財団 荻窪病院【後編】
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