【前編】重症度の指標記載を要件化、救急医療管理加算を読み解く──診療報酬請求最前線

2020年度改定による変更は、「点数」と「レセプトへの記載事項」

2020年度診療報酬改定では、重症患者として入院した患者に入院から7日にわたり算定できる救急医療管理加算1・2について、「患者の重症度等に応じた質の高い救急医療を適切に評価する観点から要件及び評価を見直す」として、算定要件の厳格化が図られました。

具体的には、重症度を示す指標を診療報酬明細書(レセプト)の摘要欄に記載しなければいけなくなり、算定の適正化を図っています。その一方で、加算1・2とも50点が上乗せされ、手厚い配点となりました。入院から7日を限度として加算されるため、最大で計350点(50点×7日)の加点が見込めます。

A205 救急医療管理加算(1日につき)
1 救急医療管理加算1 950点
2 救急医療管理加算2 350点
注1 救急医療管理加算は、地域における救急医療体制の計画的な整備のため、入院可能な診療応需の態勢を確保する保険医療機関であって、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、当該態勢を確保している日に救急医療を受け、緊急に入院を必要とする重症患者として入院した患者(第1節の入院基本料(特別入院基本料等を含む。)又は第3節の特定入院料のうち、救急医療管理加算を算定できるものを現に算定している患者に限る。)について、当該患者の状態に従い、入院した日から起算して7日を限度として所定点数に加算する。
2 救急医療管理加算を算定する患者が6歳未満である場合には、乳幼児加算として、400点を更に所定点数に加算する。
3 救急医療管理加算を算定する患者が6歳以上15歳未満である場合には、小児加算として、200点を更に所定点数に加算する。

改定のポイントとして、点数引き上げによる収益性アップに注目が集まるところです。しかしその目的は、“重症度を示す指標”の記載を条件とすることで、やみくもな算定を防止し、実態に即した評価を行うための仕組みづくりです。 これは、診療報酬請求の査定・返戻に結びつくことであり、言い方を変えれば審査の促進につながる改善でもあります。

査定対策のためにも押さえておきたい、曖昧表現の解釈

それでは、算定上の留意事項を見てみましょう。

以下の項目ア~コは、当該加算対象の“重症度を示す項目”を定義づけたものとも捉えられます。算定するには、これら項目から指標を選定・記録し、レセプトに記載することが必要となるのです。

(2) 救急医療管理加算1の対象となる患者は、次に掲げる状態のうちアからケのいずれかの状態にあって、医師が診察等の結果、緊急に入院が必要であると認めた重症患者をいう。なお、当該加算は、入院時において当該重症患者の状態であれば算定できるものであり、当該加算の算定期間中において継続して当該状態でなくても算定できる。
ア 吐血、喀血又は重篤な脱水で全身状態不良の状態
イ 意識障害又は昏睡
ウ 呼吸不全又は心不全で重篤な状態
エ 急性薬物中毒
オ ショック
カ 重篤な代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病等)
キ 広範囲熱傷
ク 外傷、破傷風等で重篤な状態
ケ 緊急手術、緊急カテーテル治療・検査又はt-PA療法を必要とする状態
コ その他の重症な状態
※厚労省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」別添1より抜粋(傍線は筆者)

また、今回の改定では、救急医療管理加算2に対し、対象患者の条件として従来の「ア~ケに準ずる状態」に加え「コ その他の重症な状態」が新設されました。 「その他の重症な状態」とは、「医師が診察等の結果、緊急に入院が必要であると認めた重症患者」という基本原則に対し、ア~ケに準ずる重症状態ということになります。この曖昧な定義に対し、疑義解釈では以下のように示されています。

(問)救急医療管理加算において、緊急に入院が必要であると認めた患者のうち、留意事項通知(2)に規定する、ア~コのいずれの患者像にも当てはまらない場合、例えば手術を要するが2、3日後の予定手術で治療可能な患者は、「アからケに準ずる重篤な状態又はコの状態」に該当するのか
(答)該当しない
2012年8月9日の事務連絡に記載されている内容を引き継いだ解釈

従来から予定手術を除外してきたア~ケの解釈にコが含まれたことは、当該項目の解釈をさらに難しくしています。算定時に「コ その他の重篤な状態」を選択する場合は、かなり厳重に重症状態を確認し、症状詳記などで補う必要があるのではないでしょうか。見方を変えれば、審査の目が集まりやすい部分とも言えます。

また、留意事項通知では、レセプトの摘要欄に記載する“重症度を示す項目”について次のように求めています。

(4) 救急医療管理加算1を算定する場合は、以下の内容について、診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
ア (2)のアからケのうち該当する状態
イ (2)のイ、ウ、オ、カ又はキの状態に該当する場合は、それぞれの入院時の状態に係る指標
ウ 当該重症な状態に対して、入院後3日以内に実施した検査、画像診断、処置又は手術のうち主要なもの
※厚労省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」別添1より抜粋

さらにウの「入院後3日以内に実施した検査、画像診断、処置又は手術のうち主要なもの」について、疑義解釈では「例えば、当該重症な状態に対して入院3日以内に実施した診療行為のうち、最も人的又は物的医療資源を投入したものを指す」(太字下線は筆者)と回答しています。

この「最も人的又は物的医療資源を投入したもの」という表現は、DPC制度において診断群分類上、最も医療資源を投入した傷病名を1つピックアップさせるシステムに類似しています。むしろ、DPCの考え方に沿った判断により、算定の適正化へと導くものではないかと筆者は考えています。たとえば入院3日以内の医療資源投入量が極めて小さく、特別に資源投入量の多い項目がないものは、救急医療管理加算の対象にすべきか否かを改めて検討するなど、根拠に基づいた判断が査定対策にもつながるのではないでしょうか。

適切な運用には医師・医事の関係づくりが不可欠

ここまで救急医療管理加算の改定ポイントを見てきました。最後に、当該加算の医事算定を適切に行うにはどのような対策が必要か、について考えてみましょう。

何よりも大切なのは、医師が「緊急に入院が必要である」と認めた患者に対し、留意事項にあるア~コの項目に沿って重症な状態かどうか判断し、指標を記録し、算定指示を出すという、一連の仕組みづくりです。当該加算に対する運用ルールを設け、判断基準を明確にすることで、後の査定への対策も打ちやすくなります。

収益性を考慮すれば、やはり救急医療管理加算は積極的に算定することが望ましく、査定や再審査の結果を分析して請求可能なラインを見極めていくことが重要です。 一定の指標に沿った判断が求められるようになった背景に、緊急度や重症度に対して審査側からの疑義があることは明白です。算定の運用フロー構築や各項目における指標の選定など、医師・医事間の連携強化についても、より一層進めていく必要があるでしょう。

>>vol.55 新設の診療情報提供料(Ⅲ)、3つの算定パターンと注意点─診療報酬請求最前線

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