本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。
著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課
きっかけは、連携室が営業活動に使うためのノベルティ開発
今回は、私が勤務する小倉記念病院での、地元企業とコラボした商品企画の取り組みについてご紹介します。
小倉記念病院では定期的に地元企業とコラボ商品を作っています。きっかけは、医療連携室(他院では地域連携室や地域医療連携室などと呼ばれることもあります)の営業活動で、訪問する医療機関にデパートの菓子折りではなくユニークな商品を届けて好感度を高めるという狙いからスタートしました。最初は、無添加石鹸を製造・販売している「シャボン玉石けん」さんと、オリジナルハンドソープを制作しています。
※「生き残りをかけた営業活動〜医療連携機関の心を動かすための営業とは〜―病院マーケティング新時代(10)」でも紹介
第2弾は、大分製紙株式会社さんとコラボしたエコトイレットペーパーです。
大分製紙さんは古紙を回収・再利用して、トイレットペーパーを作っているんですね。実は当院の古紙も回収していることがわかり、当院の古紙を再利用して当院の商品を作るという、これこそエコの極みだなということで、市民公開講座の参加者に記念品としてお渡ししていました。ただモノが大きいので持って帰りにくいという意見もあり2年間で終了したのですが……(涙)
100周年イヤーは「とにかく面白い商品を」。醤油屋とのコラボでドレッシングを発売
次が2016年、当院の100周年イヤーに作った、株式会社ごとう醤油さんとのコラボドレッシング「100年ごはん」。
100周年を迎え、何をやろうかと考えていたんですが、周年イヤーって「私たち100周年迎えました!! わ〜い!!」みたいな身内のノリを出しがちですよね。
当院でも「記念Tシャツとか作る!?」などの意見が出ていて、私の感性からするとありえない方向に行きそうになっていました。外部の人からしたら、他組織の100周年なんて知らないし、興味ないし、関係ないわけですよ。じゃあどうすれば好感を持って知ってもらうことができるか? そこで、病院と地元企業が面白い商品を開発し『メディアに取り上げてもらう』ことが近道だと考えたんです。
従来のコラボ企画と違うのは、商品として世に売り出す点ですね。それまではノベルティとして当院で一括購入するだけでしたが、今回の「100年ごはん」は誰でも購入することができます。
商品開発にあたっては、当院の100周年の要素は何かしら入れたいと思い、当院が専門とする心臓・脳・腎臓に関係する3本のドレッシングを作ること、商品名は「100年ごはん」とすることを決めて、あとは栄養管理課に丸投げしました(笑)。もちろん開発現場には立ち会いましたが。
コンセプトは「これまで世にない商品を作る」こと。面白くないとメディア取り上げられませんから、面白ければいい。美味しい商品を作るつもりは、まったくなしです。それで完成したのが、心臓に優しい「しいたけポン酢」「脳にやさしいブルーベリー醤油」「腎臓にやさしい小倉牛ドレッシング」の3本です。のちに、このブルーベリー醤油がひと騒動をもたらすとは……。
メディア露出の結果はTV放送5回、新聞1回、雑誌1回。そのほか、webメディアには結構取り上げられました。「ローカルネタとして、いい感じに露出できているな」と感じていたある日、TV局のディレクターから「ブルーベリー醤油を使った何かしらをスタジオの演者に食べさせたい」と連絡があり、「刺身とかお寿司だけは合わないですよ」と伝えて翌日の放送を見たら、スタジオで出されたのはお寿司…。演者も「えぇ〜やだ〜……(食べた感想は)やっぱり合わないじゃ〜ん」という放送をされてしまいました。
私、普段生活をしていて「TV局にクレームをする人ってどんな人なんだろう?? かなり暇な人やろうね」という認識でいたのですが、まさか自分がその人になるとは思ってもみませんでした。さすがに連絡しましたね(笑)。院内でも「残念だったね……」と肩を叩かれました。今となってはいい思い出になったと信じ込んでいます。
病院が販売する「焼き肉のタレ」!? 地元の高級焼き肉屋でも提供中
2019年に作ったのは、地元焼肉店「龍園」さんとのコラボ・焼肉のタレ。焼肉って病院があまりオススメしない食事ですよね。だからいいなと思ったんです。こういった企画って、コラボする2つが離れていれば離れているほど面白いです。近い存在だと皆さん想像できるので「ふぅ〜ん、そうなんだ」という印象で終わってしまいます。
まず焼肉という食事を認めようと。そのあとに当院で何ができるかを考える。とは言いつつ、だいたいコンセプトを決めたらまた栄養管理課に丸投げなんですけどね(笑)。
今回は100年ごはんのような面白い商品より、自宅で使いたくなる本物の味を追求するという方向で進めました。減塩してスパイスを効かせ、焼肉店で提供するメニューは赤み肉とセットにする。完成後は当院内のローソンでも販売していただき、お土産的な商品として現在も販売を続けてもらっています。この企画の一番良かった点は、業務中に焼肉を何回も食べられたことですね。普段あまり行くことのできない高級焼肉店なので、最高の企画でした!!
コラボを通じて、病院を地域のプラットフォームに
これまでコラボしてきた企業さんたちですが、そもそもの出会いは当院のホームページの企画に出演していただいたことがきっかけです。当院のホームページのコンセプトは「主役は街に暮らす人々」。TOP画像は病院外観ではなく、街で一生懸命に生きている生活者に登場してもらっています。ここでの出会いがきっかけで「今度、何か一緒にやってみましょうか」と企画が進んでいくわけです。
プラットフォーム(※)っていう言葉をよく聞くようになりましたが、今の時代、とても重要です。
病院の役割は、医療を届けること。それはもちろんですが、病院が地域のプラットフォームの役割を担ってもいいと思うんです。病院という場所をきっかけに人と人とのつながりが生まれ、新しいコミュニティができ、そこから何かを発信することで地域が活性化していく。それってステキやん、と思いませんか??
※物やサービスの利用者と、提供者をつなぐ場のことを指すビジネス用語
みなさんの病院も地域のプラットフォームとして、ぜひ何かチャレンジしてみてください。
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