生き残りをかけた営業活動〜医療連携機関の心を動かすための営業とは〜―病院マーケティング新時代(10)

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本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がオムニバス形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。
著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課

小倉記念病院(以下、当院)での営業活動は私が所属している企画広報課ではなく、医療連携室(他院だと地域連携室や地域医療連携室などと呼ぶこともあります)が担当しています。どちらの目標も「新入院患者の獲得」であることは変わりないので、互いに協力しあって(私のことを面倒臭く思っている可能性もありますが笑)業務を進めています。
今回はこれまで医療連携室と積み上げてきた営業活動についてお伝えしたいと思います。

営業先は、贔屓の病院?疎遠な病院?

当院の営業担当者は1名です。年間に700施設ほど挨拶訪問しています。そのうち300施設は医師同伴で訪問しています。

基本的にはご紹介いただいている医療連携機関に1施設・年1回足を運んでいるようですが、少し工夫する必要があると感じています。
ABC分析をされている医療機関もあるでしょうし、その他の分析手法で運用されている医療機関もあるでしょう。どのやり方でもいいとは思うのですが、大切なことはもっと効果の出るやり方はないかと試行錯誤することだと思います。失敗してもいいんです。毎年毎年ルーチン業務のように繰り返し行うのではなく、運用方法やコミュニケーションを変えながら模索することがどの業務においても大切でしょう。

当院ではそのレベルに達していない部分もありますが、今後、営業活動に活かすために2年前から積み重ねている調査があります。それは初診紹介患者に「当院を選んだのは誰ですか?」と尋ねるアンケート調査です。1.患者・家族、2.かかりつけ医、3.両方という回答方法で、診察申込書の隅に掲載して記入いただいています。
最近は患者さん本人が病院を決めることが多くなってきました。患者さん本人が50%の選定率を持っていることが、当院の調査で確認されています。つまり、とある医療機関から紹介患者が多かったとしても、紹介元の先生が「小倉記念病院に行ってきなさい」と言っているかどうかはわからないということです。
この調査では、紹介元の先生が当院を選んでいるのかそうでないのかを調査し、アプローチするべき医療機関かどうかを考える際の材料となるようデータを蓄積しています。まだそのデータを活用するまでには至っていませんが、将来的にはSalesforceなどのCRM(※)システムにアンケートの調査データや紹介患者数、過去の訪問履歴、セミナーの参加履歴、ホームページ閲覧履歴などを入れ込んで、one to one マーケティングを実現したいなと考えています。(少し高くて予算が通らないんですけどね)
※ CRM:Customer Relationship Management(顧客関係管理)の略で、顧客との信頼関係を築くことでリピート購入・利用を促し、売上拡大を図る手法。Salesforceは世界15万社以上が利用する大手CRMシステム。

じゃあ、アプローチするべき病院はどこか!?という話になるとどうでしょう。みなさんの病院の営業活動ではどこに訪問していますか?? すごくザックリ言ってしまうと、「いつもご贔屓にしていただいている医療機関に行く」・「日頃、なかなか紹介いただけない医療機関に行く」に分かれるのではないでしょうか?? どっちも満遍なく薄く広く行くというパターンもあるとは思いますが、どちらが良いのでしょうか?? ビジネス書のベストセラーである、三枝匡さんの『戦略プロフェッショナル』には「営業マンが行きたがらないところに行くべき」という内容が書かれていました。営業マンというと、どこにでも訪問して売りまくるイメージもありますが、人間は楽な方に流れてしまう部分もありますから、営業マンだって行きたがらない客先が出てくる可能性はあるかと思います。イジメられるのが大好きで塩対応されることに喜びを感じてしまう方は別でしょうが(笑)。ただこの著書のセグメント手法は私もよく使いますし、それを営業で実践して「こうしたらうまくいった・失敗した」という話ができるようにしておきます。

営業チャンスは厚生局が発表してる!?

かかりつけ医の新設・移転・親から子への代替わりは、営業のタイミングとしていいと思います。そのタイミングに伺うことで、「自院のことを見てくれている」と思ってもらえる可能性が高いでしょう。
どうやって新設・移転・代替わりを調べるのか。それは毎月、各厚生局が公開しています。「保険医療機関・保険薬局の新規指定一覧」と検索するとすぐ出てきますので、毎月調べて営業活動に活かしてもらえればと思います。たとえば、当院のある九州厚生局はこのページで、読者の多いであろう関東信越厚生局はこちらのページです。

誰と行く?紹介患者数が過去最高になった理由

みなさん、これは医師と行ったほうがいいというのはお分かりだと思います。医療について医師レベルのお話ができる優秀な営業担当者がいれば別でしょうけど、なかなかそういった事務員がいることは稀でしょう。
となると、医師の協力が必要になってきますが、忙しい医師を日中に院外に連れ出すことが難しい病院もあるかと思います。ここはもう各診療部長の覚悟ひとつです。当院の循環器内科は診療部長が曜日ごとに挨拶回りの担当医師を選定してくれたおかげで、循環器内科の医師は「何曜日は自分が挨拶回りに行かなければならない」という認識を持ってくれています。もちろん、治療の予定が入って行けないこともありますが、挨拶回りは部長の関わる業務であるという考え方を持ってもらえたのは大きな前進でした。
「いやいや、小倉記念病院さんの循環器内科医はものすごい数がいるでしょう。そらできますよ」と思われた方もいるでしょうし、実際そうなのかもしれません。ただ、こういった地道な活動を循環器内科は5年間続けたことによって、ここ数年は過去最高の紹介患者数を記録し続けています。こうなった時に何が起こったというと、他科の部長たちが「地道な営業活動は意味がある」と営業活動を始めたんです。まさかこの科まで挨拶回りに行き始めるのかと、私も驚くような診療科もありました。今では、営業担当者を各診療科が奪い合っている状況のようです。うれしい悲鳴ですね。

手土産に菓子折りは意味なし!? 地元企業とのコラボ商品を

営業に行く際はもちろん手ぶらで行くことはないと思いますが、デパートで売っているような菓子折りを買うのは勿体無いなと以前から思っていました。お渡ししたお菓子をあちらの先生や看護師さんが食べる時に「小倉記念病院がくれたお菓子は美味しいなぁ」とは絶対に思ってないですし、どこからもらったかなんて気にしていません。

そこで企画したのが、地元企業とのノベルティ制作でした。せっかくお金を使うなら地元企業にお金を落とした方がいいです。みなさんシャボン玉石けんをご存知でしょうか?? 北九州市に本社を構える無添加石鹸を製造・販売している会社なのですが、そことコラボしてオリジナルハンドソープを作ろうと企画しました。
シャボン玉石けんに快く引き受けていただいて、デザインをどうしようかと考えていた時に、「せっかくお金を出してノベルティを作るのだから、中央にでっかく小倉記念病院と入れるべきだろう」という意見がありました。言葉使いが悪いかもしれませんが「こいつ、クソセンスねぇ」と心から思いました(笑)。これだったら形に残らないお菓子の方が迷惑もかからず、いいです。逆の立場になって考えられないんですよね。客観的に聞けば「私だったらそれいらん」と理解できるのですが、自分たちが作ろうとするとその気持ちを忘れてしまうんですね。不思議です。
結果、出来上がったのがこのノベルティです(画像1)。地元の画家shiroさんに協力してもらい、かかりつけ医の先生、従業員、そして患者さんたちが少しでも面白がって和んでくれたらいいなと、このデザインにしました。小倉記念病院という文字は、後ろ側に少し入れているだけです。それでいいんです。「私たち、いいことしてますよー!!」と大声で叫ぶことほど寒いものはありません。

画像1 シャボン玉石けんとコラボ制作したハンドソープ

営業担当者の役割と必携ツール

私も口だけではいけないので、実際の営業活動に一緒に行ったことがあります。見ているとパターンが同じなんです。

当院医師
「先生、外来の忙しい時に突然伺ってしまい申し訳ございません。いつも患者さんの紹介ありがとうございます」

かかりつけ医
「いえいえ、先生自ら当院まで足を運んでもらってありがとうございます。いつも大変な患者さんを対応していただいて大変助かっていますよ」

う~ん、悪くはないのですが形骸化しているというか、なんというか。先生方が互いに親しかったらいいのでしょうが、あまり面識がないと微妙な空気が流れがちです。小さい頃にしか会ったことがない従兄弟に会うあの空気です。

そこで、私が営業担当者に持たせたものをいくつか紹介します。

iPadを活用!!

営業で同行した医師が最新治療を紹介できるように、iPadにClipboxをダウンロードして、Youtubeを再生できるようにしています。これで最新治療のアニメーション動画を再生すれば、イメージを共有しながら説明ができるので、少しは会話も弾むでしょう。

実際の医療機器デモ品を持参!!

最新医療機器のデモ品も持参して「現在はこんなに小さい医療機器で治療が進められるようになりました」と、普段は最新機器に触れる機会の少ないかかりつけ医の先生方にに触れてもらうことでも、会話のキャッチボールが弾むはずです。

営業担当者は、ふたりのコミュニケーションが円滑に進むように準備することも重要でしょう。

身を削る循環器内科 安藤副院長あっての営業活動

循環器内科主任部長で副院長の安藤は当院の中で一番営業活動を行なってきました。もうダントツの件数です。彼がよく言うのは「当たりを引くには、その何倍も外れを引かないと」ということ。つまり高度医療だけをやりたいから、その対象となる患者さんだけを紹介してほしいなんて、もっての外。どんな患者さんでも誠実に対応しなければ、高度医療を提供できる患者さんはやってこないとのこと。

実際の安藤のコメントをどうぞ。

安藤は営業先で歓迎されずに“塩対応”をされて「心が折れることもある」と言います。院内だったらそんな扱いを受けることは想像もできません。皆さんも自院の副院長が誰かにあしらわれたり怒られたりするような場面を見たことありますか!?
事務員なり若手医師なりに営業を任せることもできるのに、看板科の主任部長であり、当院の副院長である安藤が営業回りしてその上怒られるなんて、よく我慢しているなと正直思うわけです。

私たち事務方は医師を連れていく・紹介するなどの手はずは整えますが、最終的に身を削って対応するのは医師です。この病院を盛り立てていくためにと、先頭に立って進んでいく医師がいるからこそマーケティングがうまくいくのだと思います。そんな医師に甘えるのではなく、もっといいコミュニケーションを考えて、ディレクションするのが私の役割だと思っています。

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