アンガーマネジメントとは?働きやすい職場を作る、怒りのコントロール術

「怒りをコントロールする技術」として注目が集まっているアンガーマネジメント。
ビジネス書やスタッフ研修などで取り上げられる機会も多く、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

本記事では、アンガーマネジメントの概要や方法、実行メリットから職場での活用方法まで詳しく紹介します。

「アンガーマネジメント」とは、職場で活用できる怒りのコントロール技術

「アンガーマネジメント」とは、1970年代にアメリカで誕生したとされる「怒りの感情と上手に付き合うための心理的なトレーニング」です。
近年では、職場における円滑なコミュニケーションの促進や、パワハラやモラハラの抑制にも有効だとして、日本のビジネスシーンにおいても関心が高まっています。
以下で、アンガーマネジメントについてより詳しく解説します。

アンガー、つまり「怒り」の感情が持つ3つの特徴

「怒り」という感情には、以下の3つの特徴があります。
この3つの「怒り」の特徴について詳しく説明していきます。

  •   二次感情である
  •   人から人に伝染する
  •   4つのタイプにわけられる

怒りは「二次感情」である

「怒り」という感情の裏には、必ず別の感情がります。

その裏にある感情は「一次感情」と呼ばれ、「苛立ち」「恐怖」「不安」「恐れ」「寂しさ」などがあります。

これらの感情をもとにして湧き起こるのが、二次感情である「怒り」です。

怒りは、一次感情を感じたことをきっかけとして、主に対人関係の中で発動します。

ちなみに、「苛立ち」「恐怖」「不安」「恐れ」「寂しさ」などの一次感情の裏側には「こうあるべき」という自分の価値観から外れる事象に対して「わかってもらいたい」という気持ちが隠されていることがほとんどです。

怒りは人から人に伝染する

周りに怒っている様子の人がいると、なんとなく自分もイライラしてしまう──。
そんな経験が、誰しも一度はあるのではないでしょうか。

実は、これは当然のこと。
人間は「怒りに対して怒りで反応する」という性質を持っているのです。

そのため、怒っている人がその場にいると、それに反応して自分も怒りを感じるというように、人から人に伝染していきます。

このように、怒りを抱えている人は、周囲の人の潜在的な怒りも目覚めさせてしまうことがあるのです。

アンガーマネジメントで対処するべき4つの怒りのタイプ

「怒ることは悪いこと」と捉えられがちですが、一概にそうは言えません。

例えば、「すっきりする」「相手にはっきり意志が伝えられる」「モチベーションにつながる」というようなメリットもあります。

一方で、以下の4つにあてはまる怒りは、ネガティブな性質を持つ怒りと分類できます。
そのため、これらに心当たりがある場合は、アンガーマネジメントによる対処をおすすめします。

  1.   強度が高い怒り
  2.   攻撃性がある怒り
  3.   頻度が高い怒り
  4.   持続性がある怒り

次に、この4つの怒りについて詳しく説明していきます。

強度が高い怒り

「強度が高い怒り」とは、一度怒り出すと歯止めが効かなくなるタイプの怒りです。
「激昂する」という表現が当てはまるような怒りですね。

強度が高い怒りは、ネガティブな感情を限界まで溜めこみ、それが噴出することで起きてしまいます。
このタイプは、怒りをうまく表現できない人に多くみられます。

攻撃性がある怒り

「攻撃性がある怒り」とは、他人や自分を傷つけたり、モノに当たって壊してしまったりというようなタイプの怒りです。
怒りの矛先が相手やモノに向いてしまい、物理的に傷つけることで、良好な人間関係が築きにくくなるデメリットがあります。

頻度が高い怒り

「頻度が高い怒り」とは、常にイライラする、些細なことでカチンとくるというタイプの怒りです。
感情をコントロールすることが苦手で、精神状態が安定していない人によく見られます。

持続性がある怒り

「持続性がある怒り」とは、ひとつのことを根に持ち、過去のことに対してもいつまでも言及するタイプの怒りです。
このタイプの怒りは、一度で怒りを消化できなかったり、自分の気持ちを相手にうまく伝えられなかったりする人によく見られます。

自分の「怒りの癖」を把握しよう

実は、怒りにも「癖」があり、大きく以下の6つのタイプに分けることができます。
自らの怒りの傾向を知ることで、自分自身や他者と上手に付き合うことができるようになります。

  1.   公明正大
  2.   博学多才
  3.   天真爛漫
  4.   外柔内剛
  5.   威風堂々
  6.   用心堅固

より深く知りたい方は、下記「日本アンガーマネジメント協会」より、自分の「怒りの傾向」を無料で診断することができます。
自身の「怒り」に関して悩みがある方は、一度自分の癖を客観的に把握してみることをおすすめします。

【参考】無料アンガーマネジメント診断

怒ることによる5つのデメリット

上記で触れたように、怒ることは悪いことばかりではありません。
しかし、デメリットが生じるのもまた事実です。怒ることで、主に以下の5つのようなデメリットが生じてしまいます。

  1.   体のあらゆる機能が落ちる
  2.   本人や周りの人に心的ストレスを与える
  3.   職場における人間関係の悪化
  4.   仕事の生産性の低下
  5.   モノを壊すことによる損失

「怒ることのデメリット」を考えた時、ストレスがかかるなど、心的負担を考える人が多いかもしれません。
しかし、実際には「身体に及ぼす悪影響」のデメリットも大きいのです。

例えば、怒ることによって起きる体内の生理的反応が、健康に悪影響を及ぼします。

具体的には、怒りが原因となり、不整脈や動悸が起こり心臓病にかかる、怒りにより体中のホルモンバランスが大きく崩れ、睡眠障害を抱えるなどの事例があります。

もちろん、怒ることで自分や周りに対して心的ストレスを与えることもあります。
心的ストレスに留まらず、怒りの感情がストレスとなり、肥満、鬱、高血圧などの身体の症状につながることもあります。

また、怒りによりコミュニケーションがスムーズにいかず、職場における人間関係の悪化をもたらすケースも考えられます。
先ほど紹介したように、「怒りは人から人に伝染する」という特徴があるため、人間関係の悪化に拍車をかけます。

コミュニケーションがスムーズに行われないことは、結果として仕事の生産性の低下に繋がってしまうのです。

特に「頻度が高い」、「持続性のある」怒りのタイプの場合、本来なら業務に費やすべき時間を「怒ること」に時間を使ってしまうでしょう。怒りが生産性の低下を招いていることが明らかです。

攻撃性の高い怒りタイプの場合、モノに当たってしまうことがあり、モノを壊してしまうなど物質的損失が生まれます。
対象が物ではなく人間になると、自分や他人を傷つけるという、身体的損傷に繋がる危険性もあります。

怒りが職場で“ハラスメント”になるリスク

職場における「怒り」は、表現の仕方によっては、ハラスメントにもなり得ます。

ハラスメントでも特に注意すべきなのは、パワハラ・モラハラです。耳にする機会の多くなった「パワハラ」という言葉ですが、具体的には以下のように定義づけられています。

  1. 同じ職場で働く者に対して
  2. 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に
  3. 業務の適正な範囲を超えて
  4. 精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為

また、職場におけるパワハラ行為は以下の6つに類型されます。

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係の切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過少な要求
  6. 個の侵害

類型のうち(1)、(2)は「攻撃性がある怒り」、例えば、モノに当たる・怒鳴るなどの行為は直接的にパワハラにつながります。
類型(3) (4) (5) (6)の行為についても、実は怒りの感情が発端となっていることが多いです。

例えば「ムカつくから無視する」「腹が立つから業務を増やす」というように、怒りが間接的にパワハラにつながっていることがわかります。

次に、モラハラについて見てみましょう。モラハラは以下のように定義されています。

  1. 精神的な嫌がらせ
  2. 身体的な暴力はない
  3. 他者に見えにくい形で行為が行われる
  4. 加害者は被害者以外への人当たりが良い
  5. 被害者は自分が悪いと思い込みやすい

つまり、直接的な攻撃・暴力はないにせよ、怒りを不適切な形で示すことが精神的苦痛を与えることにつながるのです。

このように、「怒り」の感情が発端となり、意図せずともパワハラ・モラハラを招いてしまう危険性があります。

アンガーマネジメントを職場で取り入れる、5つのメリット

ここではアンガーマネジメントを企業に取り入れることで期待できる、5つのメリットについて紹介します。

①怒りに任せた衝動的な行動を抑えることで、パワハラ防止になる

「攻撃性がある怒り」「強度が高い怒り」は、特にパワハラに結びつきやすい怒りです。
例えば、部下のミスにキレて、つい机をバンと大きな音で叩いてしまう行為が該当します。

相手を萎縮させる精神的な攻撃とみなされ、パワハラと認定されることもあります。

アンガーマネジメントを学び、実施することで、このような行為が抑制され、パワハラの防止に繋がるでしょう。

②怒りで心が乱されることがなくなり、仕事の生産性が上がる

「頻度が高い怒り」「持続性がある怒り」は、仕事の生産性を低減させます。

ひとつの事象に対して繰り返し怒ることは、本来業務を遂行することに使うべき時間を「怒る」ことに使ってしまうので、結果として生産性の低下を招くのです。

アンガーマネジメントを学ぶと、感情を素直に表現できるようになります。
感情をその場で言葉に表すことで、スムーズな意思伝達が可能となり、怒りの頻度・持続性が低下し、生産性の向上をもたらします。

③怒りの頻度が減少することに伴い、従業員のストレスも低減する

特に、「頻度が高い怒り」というのはストレスを増大させます。

仕事をしていれば、些細なミスや行き違いはどうしても避けられないものです。
そのような不可避な事象に対し、ひとつひとつ怒っていると、その分ストレスが蓄積されてしまいます。

先述した通り、怒りによる体内の生理的反応は、健康に悪影響を及ぼします。

ストレスが肥満、鬱、高血圧などの身体の症状に現れることもあります。
アンガーマネジメントを実践することで、原因となる怒りの頻度を下げることで、同時にストレスの減少にもつながります。

④他者との認識の違いの存在を理解し、自分の視野が広がる

「頻度が高い怒り」は、「自分と相手の認識にはギャップがある」と理解することにより減らすことができます。

例えば、部下に依頼した仕事が納期を過ぎても終わらなかった場合、「なぜ納期通りにできないのか」と怒りを感じることでしょう。しかし、視点を変えてみると「部下に仕事を依頼しすぎた」「マネジメントが甘かった」とも理解できるようになります。

このように、アンガーマネジメントを学ぶことで、ある事象に対して異なる物の見方をするようになります。結果として、怒りの感情を沈静化することができるようになるのです。

⑤怒ること以外の適切な解決策を見つけられるようになり、教育や指導の質が向上する

ある事象に対して「怒り」以外の解決策を探すことで、結果として教育、指導の質が向上します。④と同じく、部下に依頼した仕事が、納期を過ぎても終わらなかった場合を考えてみましょう。

「部下が仕事をしやすいように、納期にきちんと仕事を終えられるように、上司の自分が工夫すべきことはないか」というように考えることで、教育や指導の質の向上という結果をもたらしてくれます。

アンガーマネジメントの3つのテクニック

ここでは、アンガーマネジメントを行うための実践的なテクニックを3つ紹介していきます。

  1.   怒りを感じた瞬間から6秒待つ
  2.  「~するべき」を解放する
  3.   自分にできる範囲のみコントロールする

衝動:怒りを感じた瞬間から6秒待つ

はじめのステップは「怒りを感じてから6秒待つ」ことです。
怒りをすぐに表現するのではなく、ほんの6秒のみ待ってみることで、衝動的な行為を抑えられるようになります。

怒りの感情が生じた時、人間の脳には最初の6秒でアドレナリンが強く出ると言われています。
つまり、怒りのピークも最初の6秒であるということです。

6秒を過ぎると、怒りの衝動性は収まってゆくのです。

怒りを感じた瞬間、深呼吸する、思考停止するなどの工夫をして、最初の6秒間をやり過ごすことで、「物に当たって壊す」「相手に酷い言葉を言ってしまう」という衝動的な行動を抑制できるようになります。

他にも、怒りの詳細を紙に書き出す、その場を一旦離れる、怒りの感情を別の言葉で表現する、怒りの度合いに点数をつけてみるなどもよいでしょう。

このように、工夫しながら一旦待ってみることで、冷静に対処方法を考えられるようになるのです。

思考:「~するべき」を解放する

「〜するべき」という思考を解放する、もしくはその範囲を広げることで、怒りを感じにくくなります。

先述した通り、怒りの一次感情として、その気持ちの裏に実は「わかってもらいたい」という気持ちがあります。
特に「わかってもらいたい」気持ちが生じる場面は、「〜するべき」という自分の価値観から外れることが起きたときともいえます。

しかし、自分が考える「~するべき」と他人が考える「~するべき」には、ギャップが存在するのもまた事実です。

例えば、「時間を守るべき」という認識ひとつとってみても、ある人は「集合時刻位の10分前に来るべき」、ある人は「時間ぴったりに来るべき」、ある人は「5分くらいの遅刻は許されるべき」と考えていることがあるでしょう。

このように、人によって「べき」の範囲は異なります。
そもそもの価値観が異なることに加えて、日によって人の気分や機嫌が変わるため、それに応じて許容範囲が変わることもあります。

自分の「べき」、相手が思う「べき」、周囲の「べき」の違いを理解しておくと、自分がどのギャップに対して怒りを感じているのか、また相手がなぜ怒っているのかを理解しやすくなり、怒り以外の解法を見つけやすくなります。

行動:自分にできる範囲のみコントロールする

アンガーマネジメントは、自分でコントロールできることのみに注力することが重要です。

つまり、自分の行動によって変えられることのみに目を向け、自分でコントロールできないことには怒らないという選択をとる必要があるのです。

例えば、急いでいる時に電車の遅延が起こると、ついイライラしてしまうかもしれません。
しかし「電車の遅延」という事象は、自分でコントロールできる問題ではありません。

コントロールできないようなことに対して怒りを感じても、それは単に無駄なエネルギーとなってしまいます。
​​​​​​​このような場合には、「怒るのはやめよう」と結論付けることが大切です。

自分でコントロールできる/できない範囲をスムーズに区別することができれば、怒る必要がない場面では怒らないことができるようになります。

アンガーマネジメントが必要なスタッフのタイプ

ここでは、企業においてアンガーマネジメントが必要なスタッフの3つのタイプを説明します。

普段から激昂しやすいなど、怒りの「度合い」が強いスタッフ

普段から「攻撃性がある怒り」「強度が高い怒り」を見せる職員には、アンガーマネジメントが特に有効に働きます。
怒りをコントロールしたり、怒りを別の言葉で表したり、自分の視野を広げることで、感情的になることが減るでしょう。

主張が少なく、怒りを押さえ込むタイプのスタッフ

上記の激昂しやすい職員に比べるとわかりにくいかもしれませんが、普段怒りを見せないタイプの職員にも注意が必要です。
主張がなく、どのような状況でも怒りを表さない職員は、実はストレスをため込んでしまっている恐れがあるのです。

蓄積された怒りは「強度が高い怒り」として噴出したり、ストレスの蓄積により身体に影響を及ぼしたりする可能性もあります。
アンガーマネジメントを学ぶことで、適切な方法でうまく感情を表出させることができるようになり、このような事態を防げます。

パワハラ・モラハラへの理解が必要になるような管理職層

管理職層に関しては、「激昂しやすい」「主張しない」などの個人の性格を問わず、パワハラやモラハラに対する理解が必要です。パワハラやモラハラは、本人が意図していなくとも起こしてしまう可能性があります。

部下を持つ職員は、怒りをコントロールして適切な方法で感情を伝える必要があります。

また、アンガーマネジメントの手法を職場全体に広める際にも、まずは管理職層などのリーダーが習得し、部下に広めると効率よく実行できます。

アンガーマネジメントの学びと実践で、働きやすい職場作りを

怒りの感情と上手に付き合うための心理的なトレーニング、アンガーマネジメント。

「怒り」の性質を改めて理解し、自分の怒りの癖を把握しながら、怒りを抑えるための具体的なテクニックを習得していく。そうすることで、怒りという感情を上手くコントロールできるようになります。

実は、アンガーマネジメントは、手法さえ学べば難しいことではないのです。

職場においての円滑なコミュニケーションの重要性や、ハラスメントの予防・対策の必要性が叫ばれる現代において、スタッフが働きやすいと感じる職場を作るためには、アンガーマネジメントは非常に有効な手段と言えるでしょう。

【記事提供:エムスリーキャリア「産業医トータルサポート」】

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