おもてなしで医師の心をつかむ!99床・地方病院の医師招聘術―美幌町立国保病院(後編)

北海道東部に位置する美幌町立国民健康保険病院(99床)で医師採用に尽力したのが元事務長の大村英則氏です。大村氏が何人もの医師採用を実現した方法が、医師向け求人サイトで集めた見学者に対するおもてなしです。医師招聘術について、お話を聞きました。

見学に来た医師には「最高のおもてなしを」

―前回、医師向け求人サイトでスカウトメールを出すと、7人に1人から返信があるというお話でした。返信をもらった後はどのように対応しているのでしょうか。

IMG_6891_02メールの段階では、見学に来てもらうことを第一優先で考えます。だから見学の旅費や日当も出します。そうすると観光旅行気分で来る医師もいますが、わたしはそれでいいと思っています。まずは北海道を知ってもらうことから始まります。それでその医師が入職してくれればいいですし、仮に入職しなくても、帰ってから勤務先で北海道や当院についてクチコミを広めてくれるかもしれません。

わたしは以前、自治体の観光課に10年ほどいました。観光産業では、観光客がどれだけ来てくれるか分からなくてもPRをやめることはありません。それと同じで、医師が来るか来ないかは別として、まずPRをしなければいけません。そして来ていただいた医師には、最高のおもてなしをします。

―どのようなおもてなしをするのでしょうか。

町長や院長が食事でもてなすほか、医師に時間があれば、わたしが摩周湖や硫黄山などを案内します。数時間かかりますから、道中はマンツーマンでお話しすることになります。観光気分にひたって腹を割って話せるようになれば、これはチャンスです。会議室で面接するよりも、わたしたちの想いが伝わりますし、相手の心をキャッチできる。一通り案内したころには電話番号を教えてもらえるくらいに打ち解けます。

こちらとしても、その医師の人柄が分かりますから、入職してもらいたいかどうかの判断ができる。入ってもらいたいと思ったら、見学時にその場でわたしが打診します。採用面接はしません。

―事務長に内定を出すかどうかの判断が一任されて、スピーディに入職の打診ができるのですね。事前の院内調整などはしないのでしょうか。

当院は大学医局からの派遣を受けていないので、まず大学医局や派遣されている医師との調整がありません。当院採用の常勤医も、ほとんどはわたしが赴任して以降の入職と、顔なじみばかりです。だから調整がつけやすいという面もあります。

なによりも、「おもてなし」の過程で町長や院長が医師と会食しているわけです。入職を打診したい旨、会食前に町長や院長には話を通しておくので、食事が終わればある程度の調整が済んでいる状態になります。

5年後10年後を見据えた病院見学

―実際には、どのような医師が見学に来るのでしょうか。

IMG_6910若い医師から経験豊富な医師までさまざまです。多くの医師にご入職いただきたい一方で、幅広い症例が集まる当院で円滑に診療をしていただくには一定の経験が必要です。そのため、実際に内定を出すのは、ある程度ベテランの方が中心になっています。たくさんの医師にこの病院の医療を知ってもらいたいので、年齢問わず病院見学は歓迎しているのですが、もし、経験的に当院が求めるレベルに達していなかった場合は、そのことを正直にお伝えした上で、「また5年後10年後に当院に入職していただける機会があればぜひお願いしたい」と言ってお別れします。

ある紹介会社からは、「医師不足の北海道で、入職希望を断るなんてもったいない」と言われたこともあります。しかし、医師であれば誰でもいいというわけにはいきません。当院と合わない医師に入職してもらって、その医師が耐え切れずに辞めてしまったら、医師本人にも患者さんにも病院にも損失です。

全国各地に行って医師を招聘しようとするのでなく、いかにきっかけをつくって来てもらうか。そして来てもらったらアクションを起こして、繋がりをもつ。そうしていくことで、独自の医師ネットワークを築いています。

医師が揃っていても、常に“綱渡り”の心境

―これまでお話を聞いていて、考え方や手法そのものはシンプルに感じました。

当院では、何も特別変わったことをやっているわけではありません。求人サイトを使って医師に情報発信し、返信してくれた医師と適切なやりとりをして、入職に結び付けた―それだけの話です。

当院のような国保病院で働く自治体職員は、自分から何か行動を起こすことに苦手意識があります。わたしも昔はそうでしたが、観光に携わり、どうやったら大勢の人に来てもらえるか考えるようになってから、意識が変わりました。物事は「いかに心を伝えていくか」が大事。それは医師の招聘も同じで、黙っていても人は来ません。わたしは、何もやらずに無策のまま「できない」「やれない」と言いたくありません。だから、やるべきことをやる。そして、やるべきことやっていれば、人は集まってくるものです。

いま動かなければ、もう医師には来てもらえないという危機意識で採用活動をしています。幸い、当院はそれなりに医師が集まっています。しかしここで油断して、医師が大幅に不足してから集めようとしても、そんな人手不足の大変なところに来てくれる医師がいるでしょうか。一度悪い循環に入ってしまえば、その影響をこうむるのは、地域の患者さんたちです。そう考えると、今でも常に“綱渡り”している心境です。だから、必死なのです。

【美幌町立国保病院 採用のポイント】

●インターネットを活用し、医師への積極的なアプローチを図る
●メールのやりとりで病院の魅力を伝えつつ、病院や採用担当者に対する安心感を持ってもらう
●病院見学に来た医師を「最高のおもてなし」で迎え、医師と心を通じ合わせる

 

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