なぜ、近森病院は最前線に居続けられるのか

全国有数の高齢化率を誇る高知県で、独自の経営スタイルが注目を集める近森病院。近森正幸院長(役職は取材当時)は、病院の機能分化に早くから取り組み、回復期リハビリテーションの充実や栄養サポートなどの取り組みを、全国に先駆けて実施。これらの取り組みは診療報酬改定など後押しを受けて、ほかの医療機関にも広がることになりました。全国に先駆けて新たな挑戦をし続ける背景にあるものとは―。近森院長のこれまでの軌跡を取材しました。

「ただひたすら、10年は走り回った」

今日までの病院経営は、勇気の要る決断の連続だったと近森院長。しかし、当初から洗練された経営哲学を持っていたわけではなかったといいます。

131224_102694「私にとって近森病院での最初の10年は、“外科医として走り回ってさえいれば、経営的にもいい”という時代でした」(近森正幸院長)

近森院長が近森病院に着任したのは、31歳のころ。診療報酬の単価も安く、経営的に“数を稼ぐこと”が求められた当時、近森病院は深刻な外科医不足に悩まされていたそうです。

「『将来院長になる若造が帰ってきたなら、自分はいなくていいだろう』と、私の入職をきっかけに、外科医たちが近森病院を去ってしまったんです。

それまで、わたしは大学病院で外科医として、悪性腫瘍の治療などに携わってきましたが、近森病院に戻ってからは、頭のてっぺんからつま先まで、軽症・重症問わずあらゆる疾患に対応しました。朝は回診、昼は外来、夜は自分で麻酔をかけながら胃全摘や肝切除などの手術、そして深夜は救急の対応―。合間ができたら寝る。そんな生活でした」(同)

転機は、本格的な地域連携がスタートした1999年

当時、600床規模の病院に医師は15人程度―。「幼い頃は体も弱く、スポーツも苦手だった自分が、こんなにもタフに働けるのかと、我ながら驚いた」といいます。そんな近森院長が、戦略的に病院経営について意識し始めたのは1999年。整形外科で積極的に逆紹介を推進し始めたことが大きな転機になったそうです。

131224_102477「それまでの努力もあって近森病院の患者数は増加していましたが、複数疾患を抱えた高齢患者が増えたことで、業務負担は非常に重くなっていました。

業務の効率化は思いつく限りすべて行いましたが、もともと田舎で医師も少ない当院が、すべての患者さんに対応するのには限界があった。やはり、業務量と医師数に絶対的なギャップが生まれていると感じました。そこで、『自院で診る患者を絞り込み、積極的に逆紹介を推進しよう』という考えに至ったんです」(同)

外来は、本当に必要性の高い急性期の患者だけに絞り込み、症状の落ち着いた患者は積極的に地域の医療機関へと橋渡しする―。
今でこそ、地域医療連携や医療機関の機能の絞り込みは一般的であるものの、当時はまだ、全国的にも実績が少なかったそうです。「外来に患者さんがあふれていて嬉しい」という時代から、「外来がガラガラで嬉しい」という時代へ、院長として180度の変革が求められる決断でした。
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患者の絞り込みにより生まれた好循環

131224_102561“近森病院に患者を紹介すれば、必ず患者を返してくれる”という認識は、近隣の医療機関に着実に広がっていきました。その結果、近森病院への重症患者の紹介数は、次第に増えていきました。

逆紹介を推進したことで、近森病院の外来患者は、4年間で月1万5000人から1万人へと3分の1程度減少。その一方、外来単価は8000円から1万2000円と3分の1程度増加しました。つまり、外来収入は以前と同水準に、入院患者への対応を充実させるための時間的余裕を生み出すことに成功したのです。

「患者を絞り込んだことで、医師は専門性を活かした業務に専念できるようになり、モチベーションが高まり、生産性も向上しました。質の高い医療が提供できるようになった結果、単価も上がり、経営的にも良い影響があったのです。結果として、この10年間で、近森病院の入院単価は倍にすることができました」(同)

圧倒的な医療ニーズに対応できる「仕組み」を考える

“機能を絞り込み、連携をとることで医療の質を高める”という同院の取り組みは、院内でも進みました。

131224_102829その好例とも言えるのが、栄養サポートチームです。
リハビリとともに徹底した栄養管理を行うことを重要視している近森病院では、管理栄養士が病棟で活躍できる体制を全国に先駆けて導入。単に医師や看護師の栄養関連の業務を管理栄養士に移譲するだけではなく、管理栄養士が主体性を持って、厳格な栄養管理を行うのが最大の特徴です。その成果は、患者の免疫力向上や、感染症や合併症の予防、在院日数の短縮につながっています。
もともと厨房にこもりがちで、患者と接点を持ちにくかった管理栄養士ですが、近森院長自ら教育的カンファレンスを行い、患者の病態やその対処法を直接教えているそうです。

「医療に求められる圧倒的な数のニーズに、“仕組み”を変えて対応することに、私の主眼はあります。業務の“仕方”を変え、小手先の対応によって診療報酬によるインセンティブを効率よく稼げばいいのではありません。

地域医療連携、病棟連携、チーム医療は、スタッフの一人ひとりの生産性を高め、より質の高い医療を提供できる仕組みだということです」(同)

どんな逆風にも、自由で柔軟に

近森マーク

ローマ字の“F”をイメージした近森病院のシンボルマーク

近森病院には、近森院長が30年前に策定した、シンボルマークがあります。近森病院の建物の側面に掲げられているそのマークは、今も高知市内を見下ろしています。

「ローマ字の“F”が二つ並んでいるように見えるでしょう。“Freedom & Flexibility”という意味を込めたんです。遠くから見れば十字マークのようにも見えるし、風に揺らめく旗のようにも見える。

激しい風にあおられても、患者のために芯を持って、自由で柔軟に環境に適応していきたい。そんな思いを込めたんです。院長に就任したばかりのころに考えたものですが、今もなお当院の理念を体現していると、気に入っているんです」(同)

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