大学病院を辞めて在宅医になって見えてきたこと

クリニックと介護通所事業所を含め5つの施設を運営する医療法人社団 永研会の中で、2014年8月に開業し、世田谷区周辺に430人ほどの在宅患者を受け持つちとせクリニック。院長の金井文彦先生に、在宅医療を始めた経緯とこれまでの取り組みを聞きました。

 消化器疾患の研究から在宅医療へ

―在宅医療をはじめようと思われた経緯を教えてください。

P10502001988年に医学部を卒業し、初期研修後25年間で国内外5つの大学で勤務をしてきました。消化器疾患、特に癌の病態・診断・治療に関する基礎的・臨床的研究を行ってきましたが、50歳になった時に、“大学人”としての生活を続けることの意味を考えるようになりました。

父は整形外科を開業するいわゆる町の赤ひげ先生で、幼い頃から地域医療を肌で感じながら育ってきました。子どもの頃には親と同じ生活は送りたくないと思い、医師になってからも専門的な医療を追求してきました。男にとって父親はいつまでも超えたい存在なのかもしれません。一方、心のどこかに父の往診する姿が残っていました。

大学を辞するにあたって病院勤務も考えましたが、どんな病院もハード面では見劣りしると思い、未経験の在宅医療に飛び込んでみようと思いました。超高齢化社会に向けて在宅医療のニーズは高いし、人生最後の転職かもしれないという気持ちでした。

 社会的な背景も含めて患者さんと向き合う

―在宅医療を実際にはじめてみて、いかがですか。

P1050204病院勤務時代は効率的な医療を追求してきましたが、社会的な問題も含め患者さんやご家族の“真の問題”を把握しようとする視点が欠けていたかもしれません。入職してから2年余り経ちましたが、お宅に伺うことで病室や診察室で知り得なかった事情が見えてきました。在宅では医療と介護の垣根はありません。患者さんがどんなものを食べているか、居住環境、家族関係、経済面など社会的背景にまで踏み込まざるを得ません。療養環境を整えることがここまで重要だとは気づいていませんでした。

病院の医療はあくまで一部であって、我国の医療の現実が在宅からも見て取れます。在宅医となって高齢化社会が抱える問題の理解が進みました。地域社会の課題解決に向けて様々なことにトライしている毎日です。

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医師が診療に集中するために

―今後の展望についてお聞かせいただけますか。

P1050209ちとせクリニックでは現在、施設250名、居宅180名、合計430名ほどの患者さんの診療を行っています。医師は常勤4名、非常勤は15名。これからも地域の信頼を得るために、こつこつと日々の診療を行うのみです。ただし、1人の医師が、休日、昼夜を問わず診療するのでは長続きしません。医師が診療に集中できるシステム構築に注力してきました。

在宅療養支援診療所では診療補助を行う事務スタッフが不可欠です。オンコールを常勤医師のみで対応しているクリニックもあると思いますが、当院では非常勤医師にも対応をお願いしています。その分、事務当直をおいて当直医師への情報提供をスムーズに行っています。事務スタッフには医療業界未経験者もいますが、研修マニュアルに基づき、実地教育を行っています。事務スタッフのサポートのおかげで往診スケジュール作成や診療補助、書類作成補助などが効率的に行えます。今後は、このような医療事務クラークのニーズが高まると考えています。
院内の効率化にはこのほか、情報共有システムの支えも大きいですね。セコムのクラウド型電子カルテを導入し、いつでもどこでも患者さんの情報にアクセスできます。トークノートも活用して、高いセキュリティで日報や業務連絡も行っています。

 在宅医療の醍醐味を多くの医師に

―在宅医療に興味のある医師にメッセージはありますか。

在宅医療を食わず嫌いの先生が多いと思います。患者さんとご家族の闘病生活に触れ、思わず心が揺さぶられることもあります。これが在宅医療の醍醐味かと思います。在宅医はいつからでもはじめられますし、診療科を問わず活躍の機会があります。心の温かい先生には向いていると思います。ぜひ見学されることをおすすめします。

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