千葉県の市原医療圏で地域密着型の総合医療を提供している医療法人鎗田（やりた）病院。同院は、199床の中小規模ながら、薬剤師11人、ケースワーカー5人、リハビリスタッフ18人とメディカルスタッフの配置が充実しています。このような手厚い体制をとったキーワードは「タスクシフト」でした。同院の吉川（きっかわ）和宏事務長にお話をうかがいました。

看護部にタスクが過集中し、離職率が増加

ーー貴院について概要を教えてください
鎗田病院は1947年の開設以来、千葉県の市原医療圏において、消化器・呼吸器疾患を主軸に地域密着型の総合医療を提供しています。
199床の民間病院ながら、県内の基幹病院とともに「がん対応医療機関」に名を連ねており、 帝京大学ちば総合医療センター、千葉県循環器病センター、千葉労災病院などと連携を取りながら地域のがん治療に貢献しています。

ーー2021年からメディカルスタッフの採用拡大に取り組み始めた経緯を教えてください
当院は医師・看護師・メディカルスタッフともに勤務歴の長い方が多く、今でも50～70歳代の職員が活躍しています。こうした運営体制のメリットは、地域住民の皆さまとの信頼関係が厚かったり、職員同士がツーカーの仲で臨機応変な対応ができたりといった点です。一方で、臨機応変な対応が続く中で、職種ごとの業務領域の境界線が曖昧になったり、属人的なやり方が見られたりするようなデメリットがありました。
結果として、「フローが属人的で不透明なタスクが看護部に集中する」という事態に陥り、若手や中途入職した看護師の早期離脱率が高くなっていました。また、どの職種を募集するにしても、業務フローや役割分担が不透明なため、当院の魅力を伝えきれない状態でもありました。こうした状態から脱却するための取り組みの一環として、メディカルスタッフの採用拡大によるタスクシフトに着手しました。

メディカルスタッフの増員とタスクシフトで、離職率・収益・採用に好影響

ーー具体的な取り組み内容について教えてください
まず薬剤部については、常勤の薬剤師が8人、非常勤3人、調剤補助者3人の14人体制まで増員しました。これにより薬剤部内で病棟薬剤業務を完結できるようになったほか、混注の対応もすべてできるようになり、完全に看護師からタスクシフトできました。また、ケースワーカーも5人まで増員しました。これにより、退院支援に関する医師・看護師の負担が大幅に軽減できました。
リハビリスタッフも合計で18人（PT10人、OT4人、ST4人）まで増員しており、リハビリ体制も当院の規模感からすると十分な人数を配置できています。

ーーメディカルスタッフを増員した成果はいかがでしょうか
増員したことで人件費は増えましたが、同時にこれまで算定できなかった新規加算の取得や、算定の引き上げができています。また、これまで薬剤師が発注していた医薬品の購買を外注に切り替えるなど、増員だけでなく業務内容の最適化も並行して進めているため、結果として収益性は上がりました。
さらに新規加算の算定に伴い、これまで看護師が引き受けていた業務を各専門職にタスクシフトしたため、業務の住み分けが明確になって看護部全体の負担が減りました。これにより、看護師の離職率も有意に低下しています。
そのほか、採用活動にも良い影響がありました。病院見学に来た看護師・薬剤師に当院の強みや業務内容をクリアに伝えられるようになりましたし、医師に対しても診察・治療に専念できる職場環境が整っていることを自信をもってお伝えできるようになりました。なかでも、ケースワーカーによる退院支援の充実ぶりには、びっくりされる医師も多いですね。待遇ではなく、各部門の強みや方向性に共感して入職してくださる方が増えたため、組織全体が良い方向に進んでいる実感があります。

ーー今後の展望を教えてください
メディカルスタッフの増員を進める中で、組織の若返り化が進みました。今後は、医療DXの波に置いていかれないようにICT化を進めていくとともに、より各職種が専門性をもって働ける環境をつくっていきたいですね。
医療の質を向上させるために第三者機構からの評価やさらなる業務のすみ分けを行い、薬剤師外来の設置、サブアキュート機能の強化など、メディカルスタッフが多い強みを発揮して、地域医療の中で当院が果たすべき役割をしっかり果たしていきたいです。