広報活動における医師の巻き込み方 〜医師の協力なくして広報は成り立たない〜―病院マーケティング新時代(12)

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本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がオムニバス形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。
著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課

医師の協力が得られなくて困っている病院も多いですねぇ。これまでの連載でもお伝えしてきましたが、「医師の露出量」は非常に重要です。
当院ホームページの閲覧は医師紹介ページがダントツ、LINEも医師自らが解説する動画配信でブロック率10.5%(LINEでは30-50%のブロック率は普通)、健康講座は医師が登壇した方が食い付きがいいですし、TV、新聞などのメディアも医師ありきの取材しかしません。
やはり医師をどう「ノリノリ」にさせていくかが私の仕事になるんですが、今回は医師の協力体制をどう築いたかをお伝えしたいと思います。

口説き落とさないといけない医師を絞り込め!!

冒頭で「小倉記念病院の医師は全員松本のことが大好きだ」みたいなニュアンスで書き始めましたけど、全然そんなことはないです(笑)。私のことが嫌いな医師もいるはずです。意外と傷つきやすいので知りたくないのですが。

そもそもですが、マーケティング戦略は「診療科別・疾患別」で考える必要があります。市場規模やターゲットなど診療科別・疾患別によって異なるので。そこからターゲットを絞り込んでツール(webや広報誌、講座、営業活動などなど)に落とし込んでいくんですが、単純に考えてツールの年間予算は決まっているので、全診療科・全疾患の戦略を考えたところで全てを戦術まで落とし込む投資はできませんし、全診療科・全疾患の戦略を考える人員が揃っているわけでもありません。

当院は「コアブランドで診療圏を拡大する」ことが大きなマーケティング目標ですから、コアブランドである循環器内科・心臓血管外科・脳神経外科をいかに成長させるか、そのための投資がメインになります。
つまり、コアブランド3科の医師には必ず協力してもらわなければならない。「私のことが嫌いな医師もいるはずです」の理由がこれです。この3科の医師はいつも取り上げているので好意的ですが、他の診療科の医師は面白く思っていない人もいるはずです。

ただ医師だけに限らず他職種も含めて「いつも松本さんありがとう(感謝)」と思われるのは簡単なんです。病院の成長なんて考えずに満遍なくいろんな部署を取り上げて「皆さんのこと平等にPRしていきますよー」と院内でアピールしていけば好かれるかもしれません。でも私の役割は小倉記念病院が生活者から選ばれて、新入院患者を安定的に獲得できる状況を作り出すことです。マーケティング担当者は常に生活者の方を向いて仕事をする必要があります。

まずは診療科部長を「ノリノリ」にさせろ!!

診療科の協力を取り付けるには、まずトップに了承をもらうことです。診療科部長が積極的になれば部下の先生方も従わざるを得ないですからね(笑)。
写真だったり動画だったりの撮影は診療科部長を先に行うようにしてます。そうすると部下の先生方に「**部長はもう撮り終わってるんですが …」と伝えると少しは「マジか!? ヤベェ」と思ってもらえるかもしれないですし。

ただ部長から部下の先生方に直接「**くん、早くしなさいよ!!」と言ってもらう作戦は多用しないようにしています。「あいつすぐ部長にチクるからなぁ」と思われては良好な関係は築けないので、あくまでも期限ギリギリまでは直接やりとりするようにしています。さすがに3ヶ月以上かかってしまうような時は部長から一言お願いするようにしますが、「松本、お前チクったなぁ」と言われても「3ヶ月も経ってますから、そらぁ言いますよ先生」と納得できる反論が言えるので。

医師全員に協力してもらうのは無理!!

「ホームページに医師の写真を掲載したいが、一部の医師から顔写真を掲載するのはプライバシーの問題もあるのでやめてほしいと言われる」は“あるある”ではないでしょうか。

もちろん小倉記念病院にも数名いますよ。もう諦めています(笑)。当院は150名近くの医師がいて、そもそも全員の写真を撮って回るのが無理です。当院の医師紹介ページは少し特殊なのでこれを全員分撮影するのは私のキャパ的に難しいのと、プライバシー主張問題もあるので、そこのハードルを越えるためにルール化しているのが、顔写真掲載は副部長以上にしています。

医師紹介ページでは、プロフィールなどのほか、得意な手技の説明ページも用意してリンクを掲載。
写真は医師ごとにロケーションやアングルを変える。

「もう先生、副部長になったんですから諦めましょうよ。副部長にはその責任がありますから〜」と説得するようにしてます。でも積極的に協力してくれる医師の方が多いですかね。当院のホームページは医師業界からウケがいいらしく、学会や研究会等で会話の話題に上がることもあるみたいです。「このホームページなら掲載してほしい」と思っていただいている部分もあるのかなと感じてます。

説得材料のススメ

「医師の露出量は重要」と医師に理解してもらうために、web解析ツール(Googleアナリティクス)の利用はオススメです。単純に医師紹介ページのユーザー数の多さを見せることもできますし、平均滞在時間で医師への興味深さを提示することができます。当院では医師紹介ページでYoutubeを利用している診療科があり、動画に変更した後にユーザー行動がどう変わったのかも見せてきました。

デジタル分野だけではなく、1年かけて初診紹介患者740名にアンケートを取り、「急性期病院に求めるものは何か?」への回答で、「専門医がいる病院」「信頼できる医師がいる病院」が非常に高いポイントであったことや、健康講座のアンケートコメントなどから、生活者が医師の情報を求めていることを伝えるようにしています。

PHSは使うな!!

院内PHSはあまり使わないようにしてますね。どういうことかというと、医師とのコミュニケーションは現場に足を運んでFace to Faceで行うようにしています。

相当時間を要するんですが、やはり直接会うことで思いがけない情報をもらったりしますし、何より現場に松本がいるのが普通になります。現場に広報担当者がいることが普通になるといいことがいっぱいありますよ。まず何より仲間意識が芽生えます。私は医療従事者ではないので直接患者さんのお役に立てることはできませんが、小倉記念病院の医療を社会に届ける仲間だと医療従事者に思ってもらえますし、普通に会話して笑いあえる関係性を築けます。事務所で机上の空論を並べている人間に現場は全く協力しませんから。あと写真が撮りやすくなりますね。カテ室・オペ室に松本がいることは日常なので、そのおかげでwebやSNSも運用しやすくなります。デメリットとしては、「松本、あいつまた席についとらん。どこでなんしよんか分からんぞ」と事務所の中で思われてる可能性はありますけどね(笑)。

成功体験を積み重ねるしかない!!

医師がいきなり「ノリノリ」になることはないですよ。そんな人もいるにはいますが、基本的には信頼関係を築く、そして成功体験を積み重ねていくことです。

当院のパターンは、ホームページリニューアル→広報誌リニューアル→Facebookの開始→『循環器内科だより』創刊→循環器内科セミナーの集客倍増→市民公開講座の集客倍増→出張講座の開始→メディア露出激増→100周年イヤー→インスタグラム開始→LINE開始→新入院患者増加、のような道のりを辿ってきました。

このほかにも小さい企画はたくさんありますが、1つずつ成功させることで「これはやっておいた方がいいかも」と医師に思わせることができます。いきなり白から黒に変わることはありません。グラデーションのように少しずつ少しずつです。たまに「どうやったら医師から協力してもらえますか!?」と質問されることもありますが、まず自分自身が医師から信頼されているかどうか、そして大きな企画でなく小さな成功体験を積み重ねていけば、大きな企画の実行も病院から許可が出るようになると思います。

写真でコミュニケーションを取れ!!

写真はいいツールですよ。私が日頃やっているのは、術中の医師を撮影して、その写真を医師個人にメールで渡すようにしています。

その写真をご家族に見せる医師もいますし、Facebookのプロフィールに設定する医師もいますし、学会等の講演で使用する医師もいます。先に自分で言いますが、「私、写真が上手なんです」(笑)。センスより慣れた部分が多いですが(カテ室・オペ室はどこから撮ったらカッコいいのかある程度決まった場所があります)、医師も普通の写真をもらうよりかは、カッコよく映った自分の方がいいですよね。これを繰り返すと、何かある度に(例えば新しい治療の1症例目とか100症例目とか)写真を撮りに来てほしいとオファーをもらえるようになります。その写真をそのまま広報にも使えますし、Win-Winの関係ですね。

当初はカテ室・オペ室に入る時はアウェーの雰囲気がありましたが、今では私がいることは当たり前なので、スムーズに仕事ができるようになりましたね。

企画広報課で撮影した手術写真は、広報媒体にも大きく使用。

情熱大陸だったら出るでしょ!?

日頃、露出することに積極的ではない医師も「先生!! 情熱大陸から先生に取材のオファーが来ましたよ!!」って伝えたら心が揺れると思いません!? つまり、出たい媒体と出たくない媒体で判断している可能性があります。もっとストレートに言うと「うちの病院のダッサいホームページとか広報誌に掲載されたって意味ないだろ。自分のブランディングに逆にマイナスだわ」と思っている可能性が。
ですから、ホームページや広報誌は内容も大切ですがデザインも大切です。この媒体であれば露出してもいいと医療従事者から思われるようにしておくことも必要があります。

院内から医師が褒めてもらえるように

広報活動を頑張ってくれている医師にとって、院内で「先生、色々と頑張ってますね」と声をかけてもらえるのはモチベーションになります。

では、どうやって声を掛けてもらうのか!? いいことをやってるんだけど、自分で言うのはダサいし、でもこのままだったら自分の努力は誰も知らないまま……。ちょっと前に路上で倒れた人を助けたのが後日、実は反町隆史だったということで話題になりましたよね。名乗らぬカッコよさがそこにはあるんですが(まぁ、「反町隆史が助けますね」なんて本人から言えないでしょうけど)、目撃者に「助けたのは反町隆史だった」と言った人がいるから話題になるわけで、その人物の役割を広報担当者が担うべきかと思います。

皆さん、院内広報どうしてます?? 当院に院内広報誌はないんですが、健康講座だったり何かとイベントをした時には、紙で開催報告を各部署に回すようにしています。紙というところが重要なんです。院内PCのイントラネットもありますが、見てる人は少ないですし、強制的に目に入るように紙で回してます。こうすることで、イベントを担当してくれた医師の頑張りが院内に伝わるのです。

医師と参加者の集合写真をキービジュアルに、開催報告シートを企画広報課で作成。
どの医師が参加したか、すぐ分かるようにまとめてある。

何かと聞きまくれ!!

全ての情報が私のところに集まればいいのですがそんなことはあり得ないので、自分で情報を拾って医師に直接確認するようにしています。

例えば、診療科ごとに最近発表された論文の内容だったり、ガイドラインの改定のことだったりが定期的に更新されているサイトがあります。私は毎日そのサイトを確認することがルーチン業務になっているのですが、数ヶ月前に不整脈に対するアブレーション治療のガイドランが数年ぶりに改定されて、アブレーション治療を第一選択としても構わない(ざっくりな表現で申し訳ないですが)という記事が出ていました。まぁ、「へぇ〜」と思ったわけですが、これが治療件数にどう影響するのか知りたいので、単純に担当医師にすぐ連絡して教えてもらうわけですけど。

これが意外とできない事務員が多いんですよね。皆さんの病院ではどうですか?? 「それ先生に確認したら一発で分かるやつやん!」て心でツッコむんですが、リアルに医師と話すことを嫌がるんですね。20代の頃に先輩から「今度焼肉おごるから、1月1日に当直してくれる外科医を調整してくれ」と依頼されたこともありました。まぁ、焼肉に惹かれてソッコーで調整したんですけど(笑)。

私はこの症状を「触らぬ医師に祟りなし症候群」と勝手に名付けてるんですが、医師と会話ができるネタを自分で仕入れて、ぐいぐい行かないとコミュニケーションも取れませんし、信頼もされません。もしかしたらそういった状況をわざと作り出して仕事が増えないようにしているかもしれません。人生の多くの時間を費やす仕事が充実することは人生が充実することだと私は思うのですが、人それぞれの生き方・考え方がありますから。まぁ後輩だけには半強制的(パワハラなのか…)にやらせてますけど。

病院マーケ担当者に必要な3スキル

最後にまとめると「現場力・コミュ力・実現力」、この3つがマーケティング担当者に限らず病院事務員に求められるものだと思います。

戦略的思考力も必要ですが、医療現場を動かすには必ず医療従事者の協力が必要です。戦略的思考力だけ磨いて机上の空論を考えても物事は何も変わらない。その空論を現実にしないといけない。そのためには現場力・コミュ力・実現力が必要になるわけです。

実行力ではなくて「実現力」と言うのは、あなたの周囲にも「あいつに相談したらすぐ動いてくれて嬉しんだけど、なんかこっちが想像していたものと違う方向に行くよね」みたいなことを言われている人っていません??(笑)

感覚的にこれが「実行力」と「実現力」の違いだと思っているのですが、特にマーケティング担当者はブランドを「見える化」しないといけないので、「現す」という漢字の方が適切かと。
「あいつに相談したらこの状況をなんとかしてくれる」そう思ってもらえるよう、私自身も日々精進です。

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