
小児医療の発展とともに、慢性的に医療を必要とするこどもの数が増えています。こうした変化の中で小児緩和ケアの役割もまた大きくなっており、令和6年度診療報酬改定では、「小児緩和ケア診療加算」が新設されました。細かく算定要件や施設基準が定められているので、しっかりおさえておきましょう。
小児緩和ケア診療加算とは
小児緩和ケア診療加算は、小児に対する適切な緩和ケアの提供を推進する観点から設置された入院基本料等加算の1つです。そもそも緩和ケアは、末期患者の苦痛除去という従来の考え方から、現在は患者のQOLを高め、治療効果に繋げていくことを期待し行われています。令和6年度診療報酬改定では、小児医療の重点分野の1つとして、小児緩和ケアの評価が新設されました。
小児緩和ケア診療加算のポイント
小児緩和ケア診療加算は、細かな算定要件、施設基準が定められており、さらに小児緩和ケアチームの活動に対しても要件が定められています。これは、小児の緩和ケア診療の質の向上と、均質化が目的であると考えられます。
また、この加算は、小児緩和ケアチームの構成員の要件やチーム活動と1チームが算定できる患者数が定められています(概ね30人以内)。適時調査や個別指導では、1日にチームが診察した患者数がわかるものの提出が求められるため、診療報酬算定上での定量的な検証も必要です。診療記録にかかわる部分も、指導・監査対策としても視野に置く必要があり、小児緩和ケア実施計画書の作成と交付、そして介入の記録などが電子カルテに記載されるため、漏れが無いように診療録を点検する必要があります。
チーム活動には、緩和ケア活動の運営の指針や緩和ケアチームチェックリスト、チーム活動の際の職種のかかわり等が求められるため、活動記録にかかわる患者一覧や個々の記録を整理しておくことが求められます。
小児緩和ケア診療加算の概要
小児緩和ケア診療加算の算定要件
小児緩和ケア診療加算の主な算定要件 (筆者要約)
小児緩和ケア診療加算 700点
- 入院(第1節の入院基本料<特別入院基本料等を除く>又は第3節の特定入院料)する悪性腫瘍、後天性免疫不全症候群又は末期心不全の15歳未満の小児患者のうち、患者・家族等の同意に基づき、疼痛、倦怠感、呼吸困難等の身体的症状又は不安、抑うつなどの精神症状を持つ者に対して、症状緩和に係るチーム(小児緩和ケアチーム)による診療が行われた場合に算定する。
- 末期心不全の患者とは、以下のアとイの基準及びウからオまでのいずれかの基準に該当するものをいう。
- 心不全に対して適切な治療が実施されていること。
- 器質的な心機能障害により、適切な治療にかかわらず、慢性的にNYHA 重症度分類Ⅳ度の症状に該当し、頻回又は持続的に点滴薬物療法を必要とする状態であること。
- 左室駆出率が20%以下であること。
- 医学的に終末期であると判断される状態であること。
- ウ又はエに掲げる状態に準ずる場合であること。
- 小児緩和ケアチームの医師のうち、身体症状及び精神症状の緩和を担当する医師は緩和ケアに関する研修を修了した上で診療に当たること(後天性免疫不全症候群の患者を診療する際は研修要件から除外)。
- 入院精神療法の算定は週に1回までとする。
小児緩和ケア診療加算の施設基準
小児緩和ケア診療加算の施設基準<告示>
小児緩和ケア診療加算の施設基準 十五歳未満の小児患者に対する緩和ケア診療を行うにつき十分な体制が整備されていること。当該体制において、緩和ケアに関する研修を受けた医師(歯科医療を担当する保険医療機関にあっては、医師又は歯科医師)が配置されていること(当該保険医療機関において小児緩和ケア診療加算を算定する悪性腫瘍又は末期心不全の患者に対して緩和ケアを行う場合に限る。)。がん診療の拠点となる病院若しくは公益財団法人日本医療機能評価機構等が行う医療機能評価を受けている病院又はこれらに準ずる病院であること。 |
小児緩和ケア診療加算の施設基準要件(筆者要約)
(1)当該保険医療機関内に、以下から構成される小児緩和ケアに係るチーム(小児緩和ケアチーム)が設置されていること。 |
○小児緩和ケアチームの構成員
身体症状の緩和を担当する専任の常勤医師精神症状の緩和を担当する専任の常勤医師緩和ケアの経験を有する専任の常勤看護師緩和ケアの経験を有する専任の薬剤師小児科の診療に従事した経験を3年以上有している専任の常勤医師小児患者の看護に従事した経験を3年以上有している専任の常勤看護師 |
○構成員の配置要件(筆者要約)
- ア又はイの医師が小児科の診療に従事した経験を3年以上有する場合は、オの要件は満たしている(小児の症状緩和治療を主たる業務とした3年の経験を有する)。
- ウの看護師が小児患者の看護に従事した経験を3年以上有している場合は、カを満たしている。
- アからエまでのうちいずれか1人は専従であること。ただし、小児緩和ケアチームが診察する患者数が1日に15人以内である場合は、いずれも専任で差し支えない。
- 小児緩和ケアチームの構成員は、緩和ケア診療加算及び外来緩和ケア管理料に係る緩和ケアチームの構成員と兼任であって差し支えない。
- 専従の医師は、診療に影響のない範囲において、専門的な緩和ケアに関する外来診療を行って差し支えない(ただし、専門的な緩和ケアに関する外来診療に携わる時間は、所定労働時間の2分の1以下であること。)。
- ア、イに掲げる医師は、緩和ケア病棟入院料の届出に係る担当医師と兼任ではないこと。ただし、緩和ケア病棟入院料の届出に係る担当医師が複数名である場合は、小児緩和ケアチームに係る業務に関し専任である医師については、緩和ケア病棟入院料の届出に係る担当医師と兼任であっても差し支えないものとする
- 専従の職員は、介護保険施設等及び指定障害者支援施設等において緩和ケアの専門性に基づく助言を行う場合においても専従とみなすことができる。ただし、当該施設等に赴いて行う助言に携わる時間は、原則として月10時間以下。
○施設基準における構成員の条件
- 身体症状の緩和を担当する専任の常勤医師(アの医師)
- 悪性腫瘍の患者又は後天性免疫不全症候群の患者を対象とした症状緩和治療を主たる業務とした3年以上の経験を有する者であること
- 末期心不全の患者を対象とする場合には、末期心不全の患者を対象とした症状緩和治療を主たる業務とした3年以上の経験を有する者であっても差し支えない。
- 専任の非常勤医師(週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務)を2名組み合わせることにより、常勤医師の勤務時間帯と同じ時間帯にこれらの非常勤医師が配置されている場合には、当該2名の非常勤医師が小児緩和ケアチームの業務に従事する場合に限り、当該基準を満たしていることとみなすことができる。
- 精神症状の緩和を担当する専任の常勤医師(イの医師)
- 3年以上がん専門病院又は一般病院での精神医療に従事した経験を有する者であること
- 専任の非常勤医師(週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務)を2名組み合わせることにより、常勤医師の勤務時間帯と同じ時間帯にこれらの非常勤医師が配置されている場合には、当該2名の非常勤医師が小児緩和ケアチームの業務に従事する場合に限り、当該基準を満たしていることとみなすことができる。
- 緩和ケアの経験を有する専任の常勤看護師
- 5年以上悪性腫瘍患者の看護に従事した経験を有し、緩和ケア病棟等における研修を修了している者であること
【緩和ケア病棟等における研修】 国又は医療関係団体等が主催する研修であること(600時間以上の研修期間で、修了証が交付されるもの)。緩和ケアのための専門的な知識・技術を有する看護師の養成を目的とした研修であること。講義及び演習により、次の内容を含むものであること。ホスピスケア・疼痛緩和ケア総論及び制度等の概要悪性腫瘍又は後天性免疫不全症候群のプロセスとその治療悪性腫瘍又は後天性免疫不全症候群患者の心理過程緩和ケアのためのアセスメント並びに症状緩和のための支援方法セルフケアへの支援及び家族支援の方法ホスピス及び疼痛緩和のための組織的取組とチームアプローチホスピスケア・緩和ケアにおけるリーダーシップとストレスマネジメントコンサルテーション方法ケアの質を保つためのデータ収集・分析等について (エ)実習により、事例に基づくアセスメントとホスピスケア・緩和ケアの実践 【疑義解釈】緩和ケア病棟等における研修 日本看護協会が認定している看護系大学院の「がん看護」の専門看護師教育課程日本看護協会の認定看護師教育課程の「緩和ケア※」、「がん薬物療法看護※」、「乳がん看護※」又は「がん放射線療法看護※」 ※平成30年度の認定看護師制度改正前の教育内容による研修を含む。 |
- 緩和ケアの経験を有する専任の薬剤師
- 麻薬の投薬が行われている悪性腫瘍患者に対する薬学的管理及び指導などの緩和ケアの経験を有する者であること
○小児緩和ケアチームの活動
- 症状緩和に係るカンファレンスが週1回程度開催されており、小児緩和ケアチームの構成員及び必要に応じて、当該患者の診療を担う医師、看護師、薬剤師などが参加していること
- 小児緩和ケアチームが組織上明確に位置づけられていること
- 院内の見やすい場所に小児緩和ケアチームによる診療が受けられる旨の掲示をするなど、患者に対して必要な情報提供がなされていること。
- 初回の診療に当たり、緩和ケア診療実施計画書(様式3)を作成し(当該患者の診療を担う保険医、看護師及び薬剤師などと共同で作成)、患者又はその家族等に説明の上交付し、その写しを診療録等に添付すること
- 小児緩和ケアチームは、必要に応じて家族等に対してもケアを行うこと
- 1日当たりの算定患者数は、1チームにつき概ね30人以内とする。
- 症状緩和に係るカンファレンスが週1回程度開催されており、小児緩和ケアチームの構成員及び必要に応じて、当該患者の診療を担当する保険医、看護師などが参加していること